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Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #80 準備完了

2日後、金曜日の夕方に予定通りに注文の品が届いた。カティルの見立て通り、最低限の価格で必要な仕事は可能といった感じで、暗がりであれば十分にそれらしく見えるだろう。
かつらはフリーサイズで問題無し。白装束の方もサイズ的には問題無いが、新品なので幾分パリッとしすぎており、説得力に欠ける。2回ほど洗剤無しで洗濯をしてみると、程よい感じにくたびれた。
しかし、いざ服装を整えてみると、今度は自分の血色の良さが気になってくる。それもそのはずで、この一月半続けてきた早朝のランニングは、僅かではあるが確実に溝口の肌を焼いていた。学校という場所にいればさほど気にならないが、白装束との対比で浮かび上がる薄い橙色の肌は、いかにも健康的に過ぎる。
こうなると、応急措置としてはベビーパウダーを使うしかない。表面だけではなくしっかりと皮膚に刷り込んでみると、いかにもわざとらしい白さになってしまうが、カサカサになったような見た目は死人らしいといえばらしい雰囲気である。時間経過によりいきなり日中になったとしても、濡らしたタオルで拭けば簡単に落ちる。その点で、晴れの日に状況を限定したのは話の流れ上偶然とはいえ、正解だった。

小道具は揃ったので、次は演出である。幽霊の格好をして暗がりにただ突っ立っているだけというのでは、場合によっては至近距離まで気付かれない可能性もある。無論、接触は絶対に避けなければならない。
こちらからアクションをして注意を惹く必要があるが、幽霊が活発に動く訳にはいかないから、舞台装置が必要なのである。

事前の下調べの結果、舞台となる神社には照明が設置されているが、普段は使用されていない。年末年始や祭の日にだけ、ブレーカーを上げて電気を回しているらしい。そのブレーカーは拝殿の中にあって、当然ながら入口には鍵がかけられている。やってやれない事はないが、既存の照明は使えないものと考えてよい。
つまり、深夜の境内は真っ暗なのである。参道の石段の前には街灯がひとつあって、その光を頼りに石段を登りきる事はできるだろうが、神社まで上がってくると、斜面に遮られて光は届かない。
そこで、100円ショップでそれなりに光量のあるLED照明を用意した。これを拝殿の正面上部に取り付ける。スイッチは入れた状態で、電池ボックスの片方のバネ状端子にテグスを括り付けておく。テグスを引くと電池から端子が離れるので、照明を点滅させて注意を惹くことができる。
拝殿の右側に太い杉の木が生えているので、そこから点滅とともにヌッと出ていけば、なかなかのインパクトだろう。

向こう一週間の天気予報を見ると、日曜一杯までは雨、月曜は曇り時々晴れ、火曜水曜と雨で、木曜が曇りになっている。予報通りに推移するかどうかという問題はあるが、この分だと幽霊作戦は長丁場になりそうだった。
となると、この時点で一旦、西島家に報告をしておくべきだろう。ただでさえ水曜にまた寄ると言っておきながら行かなかったので、ひとつケジメをつけておく必要があった。西島梓の情緒を考えれば作戦の内容について説明する訳にもいかないが、忘れている訳ではないという事と、目的の達成には少し時間がかかるという事については伝えておかなければならない。
改変の影響によってはさほど意味を持たないかもしれないが、きちんと過程を経て結果を得るのが大事なのだ。その手ごたえを得られないならば、改変や干渉があろうとなかろうと、溝口の意思など何の意味もなくなってしまうではないか。

西島母に電話をかける。カティルに確認をとるまでもなく、夕方のこの時間であれば自宅にいる筈である。

『はい、西島です』
「もしもし。どうも、溝口です。例の件でようやく方針が決まりましたんで、一旦報告をと思いまして」
敢えて先日の件には触れずにそう伝えると、電話の向こうで小さくクスクスと笑う声が聞こえた。溝口自身、畏まり過ぎたと自覚はあるから、恥ずかしさを覚える。
『こちらからお願いした事とはいえ、なんだかプロの方と仕事の話をしてるみたいですね』
「いえ…映画とかドラマの真似事です」
気恥ずかしさからつい言い訳が口を突くが、「人生経験が未熟なので」という言葉はすんでの所で飲み込んだ。

『それで、報告というのは何です?』
「以前お話しした、理解者を獲得するというところで、方法に目途がつきました。ただ、確実性に欠けますし、少し時間がかかりそうです」
『確実性に欠けるというのは?やっぱり難しい感じですか』
「そうですね…まずは方向性の合う人を探さなければ始まらないんですが、探し出せたとしても次は先輩との相性をはかる必要がありますから、一筋縄ではいかないでしょう」
『それは…難しそうですね。学校では梓に対する噂が広まってるのよね?なのに、これまで訪ねてきたのは溝口さんだけですよ』
「はい、それは否定しません。ですが、可能性は充分あると思ってます。実際問題、学校内で広まっている噂はあくまで噂止まりで、突っ込んだ内容が無いんです。それはある意味、怪談話自体は広く興味を持たれているという事ですから」
『怪談話…ですか。梓が聞いたら落ち込むわね…』
「いえ、先輩についての噂というより、よくある学校の七不思議みたいな位置付けだと思います。真偽は定かじゃないけど何となくリアルで不気味、という程度の。だから俺も、実は友人を通じて噂を探っていたんですが、西島さんに会うまでは何も掴めてませんでした」
『そうなの?』
「実際問題、先輩と接点があったのは既に卒業した中山って人と、先生方だけでしょう。その先生方がどういう理由か…おおかた生徒のプライバシーをぺらぺらと喋る訳にはいかないってとこでしょうが、何も教えてくれないんだからわかる筈が無いんです」
『そう…ですね。世の中も今は色々と難しい感じになってきてるし…』
西島母の相槌が若干フワフワしたものになってきたので、溝口はこの通話を切り上げる事にした。こういう場合、相手は既にこの話題に対する興味を無くしているからだ。

「ともあれこっちは作戦の実行に移りますんで、先輩にはよろしくお伝えください」
そのように告げて話を終わらせようとすると、突然西島母が少し大きな声を上げた。
『あ、ちょっと待って。実はその、梓にもそろそろちゃんとした連絡手段が必要だと思ったので、スマホを買ったんです。もし良ければ、今後はそっちに電話してあげてくれるかしら?』
「あ、はい」
是非もなく、溝口はその新しい電話番号を登録した。とはいえ、当面は電話をかける理由もないのだが。

モチベーション下がっててスランプ気味
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/09/09(月) 21:38:25|
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