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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #78 積もる懸念

「あんたねえ…」
食ってかかろうとする牧村に、溝口は飄々として言う。
「別に難しい事じゃない。その長い髪を顔の前に垂らして、いかにも幽霊ですって雰囲気が出りゃいいんだ。顔が見えなきゃ身バレもしないだろ?」
「そんな事はわかってんのよ。けどねえアンタさ、わかってる?そっくりそのまま私の立体映像なのよ。その…私の体が360度どこからでも見放題になるって事じゃない!」
「ああ…」
溝口は呻くように答えた。言われてみれば、そういう事を気にするのが女子というものなのだろう。しかしここで「そんな目では見ない」などと口にすれば、それこそデリカシーのない男だという事になってしまう。

逆に、ここで下心を少しは発揮してみせて、連中をこちら側に関与させるという手もあった。だが、溝口が懸念しているのは状況である。関与する人数が増えれば、必然的に前後の流れが生まれるだろう。そうなると溝口にとって避けられない問題、すなわち時間経過による取り残されが発生するのは確実なのである。
溝口一人であれば、描写される空間は限定されるから、ある程度は時間にルーズになれる。しかし複数人が関わる事になれば、時間経過は読みにくくなるし、集合時間に対する遅刻はダイレクトな問題になってくるということだ。

それだから、溝口としてはここで一定の信頼を獲得する必要があった。焦点が来ていないにしても、この状況を改変者は見ているはずなのである。その点については、カティルもかなりの確率でそうであろう、と推測していた。

《単純な話です。既にある程度、個々のキャラクターは確立しています。であれば、基本的な流れについてはキャラクターが動くに任せて、適当な所で改変による横槍、つまりハプニングを投入すれば、形になるのです》
(ある程度の筋書きはあるんじゃねえのか?最終的にどういう形にしたいとかは、あって当然だろ)
《それは、あるでしょう。しかし今のところ、キャラクターの性格が突然変化したり、役割が入れ替わるような改変は起こっていません。むしろ貴方が勝手に動いた事の方が、影響としては一番大きいでしょうね》
(それについちゃ、馬鹿をやりきれなかった反省はしてる。けど死活問題だったろ?)
《デリカシーのないキャラクターを演じ続けていれば、コメディとしての暴力描写はエスカレートしていきますからね。そして改変者からすれば、少々の怪我で使い物にならなくなる駒は、不要でしょう》
(この先も警戒を続ける必要はあるって事だよな。怪我をすればリスクを負う、だから投げやりな対応はしない、そういうキャラクターであると見せてやらなきゃならん訳だ)
《それも、日頃の地道な積み重ねによってのみ表現されるのです。どのようにやっていくかはお任せしますが、少なくとも他者との係わりで気を抜く暇はないでしょうね》
(やれやれ、だな。力もない、立場もない、背景だって保持できない。確たるものは自分の体と位置情報しかない、諦観そのものの『やれやれ』だ。かつてここまで無力なやれやれ系主人公もなかったろうよ)
《おや、貴方が自分を主人公だと感じていたとは、意外ですね》
(例え話だろうが。冗談に冗談で返すのはやめろ、疲れる)
《そうでしょうか?案外、冗談では済まないかもしれませんよ。現に貴方の判断により、この状況が変化しているのですから》

それこそ性質の悪い冗談だ、と溝口は内心呟いた。溝口からすれば、この状況は全て改変者の掌の上ではないか、と思えるのである。例えどのように逃げ道を作ったとしても、改変者がほんの少し手を加えるだけで、あっという間に八方塞がりになってしまう。そもそも視野が違いすぎるのだ。向こうは世界を俯瞰で眺めていて、こちらは地べたを這い回り、目の前の事態を収拾するのに手一杯。物語のキャラクターという立場を超えて世界を糾弾するのが目的なのに、現状はその糸口さえ掴めずにいる。

溝口はひとつ大きく溜息をついて、絶望感に満たされつつあった思考を切り替えた。今は糸口がない以上、考えても結論など出はしない。
当座の問題は、ホログラム装置をどう扱うかである。牧村の懸念は理解できる。像を提供するとなれば、ホログラムの解像度やスキャン精度、セーフティがどの程度働くかという点は気掛かりだろう。悪用されるかもしれないと警戒するのは当然である。
となれば、この点について長々と詰めて納得してもらうというのは、時間の浪費であろう。

「…わかった。レーティアには悪いが、その装置は使わない事にする」
溝口がそう言うと、皆驚いたような顔をした。
「というかな。よく考えてみたら、それ使うとネタばらしの時に説明ができねえんだわ。今の地球にそんな精巧なホログラフィは作れない。そこに注目されちまうと、幽霊がメインのオカルトなのか、それとも疑似科学全体ひっくるめてのオカルトなのかってトコで、話がややこしくなる」
「確かに…。UFOだって世間的にはオカルトだし、それが実在するとなったら…」
川上が理解を示すと、相川が続いた。
「溝口の交友関係から、レーティアに疑いが向くかもしれない」
「そういう事。俺の周りの人間関係なんて知れてるんだし、普通とはちょっと違った何かがあるとなれば、真っ先に疑われるのはレーティアだろう。こういうのはあまり他人に見せない方がいいな」
「…そうですね。軽率でした」
レーティアは申し訳なさそうに頭を下げる。溝口は慌てて取り繕った。
「いや、こっちこそ気付くのが遅れて、レーティアを危険に晒すような真似をするとこだった。牧村も、よく気付かせてくれた。助かった」
苦笑しながら言うと、牧村は
「別に…」
と、煮え切らない返事をしながら目を逸らした。

牧村の反応から知るまでもなく、論点をずらして面倒事を避けたのである。けれども溝口には、うまくいったというよりも、この露骨なやり方が近い将来に別の形で厄介事を運んでくるのではないか、という懸念があった。その懸念について具体性は全く無かったが、いずれ裏目に出るだろうという事だけはわかるのである。
とはいえ、レーティアに関する直接的な問題を回避したという点については間違いない。オカ研というある意味特殊な環境であれば、レーティアが宇宙人であるという認識は共有できるかもしれないが、その上で宇宙人という存在に興味を持たれるのは不味い。
もっと言えば、レーティアに関する掘り下げが進むのが不味いのである。向こう側の人間関係が拡充されれば、改変を伴う干渉は確実に増えてくるだろう。
ただ、その懸念から見れば、異星の携帯端末が登場した時点でかなり危険ではあるのだが。通信が途絶しているという前フリがあるのだから、どうせ近いうちに謎の通信が入るんだろう…?

(ここで端末借りといて、何かの拍子に壊す…って訳にはいかんよな?)
《どうすれば壊れるのかという問題もありますが、壊す事ができても、それはそれでラクリア側としては問題では?》
(だよな。って事は、この状況が一段落したら、いよいよ異星人バレかね?気が滅入るなぁ)
《いえ、恐らく大丈夫でしょう。確信がある訳ではありませんが、貴方の捲いた種も決して無駄にはならない筈です》
(…? だといいけどな)

カティルの意図する所は読めなかったが、そのように言われれば、多少は気が楽になる。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/08/19(月) 20:19:53|
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