FC2ブログ

有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #77 幽霊作戦

ともあれ焦点の来ていない今、何をどう訴えても意味がない。溝口は腹に力を込めて気を取り直すと、要件の説明に入る。
「まあ後の事はともかく、今は作戦の説明をさせてくれ。もうわかってるとは思うが、お前らには幽霊が出るって噂をバラ撒いて欲しいんだ」
「取材をする側がデマを広めるのって、こっちの信頼に関わるんだけど?」
またも牧村は文句をつけてくるが、溝口には既にこれを取り合う余裕はない。曖昧に頷くと、半ば無視する形で話を続ける。
「で、その内容なんだが、ここから北西に1キロちょい行った所に小さい山があるだろ。そこに神社があるの、知ってるか?」
尋ねると、全員ポカンとした顔である。
「…まあ、あっち側には山しか無ェしな。あの辺に住んでる奴でもなきゃ、知らねえよな」
わかってはいた事である。苦笑しながら言うと、川上が訊ねてきた。
「溝口は、それ、元々知ってたの?それとも、そこじゃないといけない理由があって調べたとか?」
やはり川上は勘が良く話しやすい。それがコミュ力というものなのだろうか?あのような性質の人間がこちら側にいてくれれば少しは楽になるだろうに、と、溝口は歯噛みをする。
「そりゃあ、調べたさ。必要な条件は、真正面から迎え撃てる事だ。それとまあ、長丁場になるから距離的には近い方がありがたいしな。階段を登った先にある神社なら、後ろから回り込まれる心配はないから、階段だけ気にしていればいいだろ?」
「って事は、お前が幽霊役をやるのか?」
相川が驚いたように声を上げた。
「まあな。仕掛けを吊るしておくとか写真を撮るとか色々考えたんだが、さっきの事もあるし、やっぱ直接相手の反応を見なきゃダメだわ。ただ興味本位で、怖がって楽しむためだけに来る連中では困るんだ。俺が幽霊の格好をして出てきても、むしろ期待して近付いてくるくらいの物好きでなきゃならん」
「でもそれ、危なくない…?」
牧村が不安を口にする。
「相手が狂人って可能性か?さすがにそこまでは…」
苦笑しつつ返すと、牧村はぶんぶんと首を横に振る。
「違くて!そんな所に一人でずっと誰か来るの待ってるって事でしょ?!本当に幽霊とか出たらヤバいじゃん!」
溝口は「ああ」と、嘆息をついた。

「それについては、俺自身これまで幽霊見た試しもないしな。見えたら見えたでオカ研としてはアリだろうし、呪われるとか祟られるとかって可能性については…正直全然考えてないっつーか」
言い訳であるが、こうとしか答えようがない話でもある。霊的影響を受けない保証があるなどと、言えるはずがないのだ。
川上は何か言いたげな顔をするが、そのまま牧村を見やって口を閉ざす。と、牧村が困惑した口ぶりで言った。
「あのねえ…そもそも私だって、幽霊なんか見た事ないわよ。でも、よくわからないから怖いの。見えないけどいるかもしれないから、何かあったら祟られるかもしれないって、普通の感覚じゃない?けどさ…」
「ストップ。罰当たりだって説教なら勘弁してくれ」
溝口は牧村の言葉を遮る。この話が長引いたところで本筋には何の関係もないし、どう説明しても距離が広がるだけである。
「別に寺や墓地へ行く訳じゃなし、そもそも神社だぜ。葬式をする場所でもないし、死体を運び込む場所でもない。幽霊がいるなら神様がいたっておかしくないだろうが、その神様のテリトリーで幽霊に祟られるなんて、あると思うか?」
「言われてみれば、そうだな」
この詭弁に、相川は素直に同意した。考え方は様々だが、結局は気の持ちようなのである。
それで、なんとなく全員が納得した形になった。

「話を戻すが、お前らに広めてもらいたい内容は、晴れた日の真夜中、そこの神社に幽霊が出るって話だ」
改めてそう言うと、川上が疑問を投げかけてくる。
「晴れた日限定?」
これに溝口は頷くと、苦笑しながら答える。
「傘を差して待ってる訳にもいかねえだろ?ずぶ濡れで風邪ひく訳にもいかねーし。雨の日の方が雰囲気は出るんだろうが、こっちの都合だな」
「真夜中って時間帯はどう?人によって解釈が違わない?」
その指摘は正しい。溝口にとってはどうせ時間経過で省略されるだろうという打算あっての決定だが、当然ながら彼女たちにその認識は無い。
「そうだな…じゃあ、丑三つ時で限定しとくか。そんな時間に誰が神社で幽霊見たんだって話になるが、興味本位の連中を遠ざけるには遅い時間の方がいいだろうしな」
納得しつつ変更案を出す。すると、次はレーティアが首を傾げた。
「ウシミツドキ…って、なんですか?」
「午前2時から3時だっけ?江戸時代の時間の言い方で、幽霊の出やすい時間帯って言われてるんだ」
相川がそう説明すると、レーティアは感心したように頷いた。
「正確に言えばちょっと違うが、大体そんな感じだな。どっちみち人が来る前に待機してなきゃならんし、1時から3時くらいまで…丑の刻の間は神社で隠れてなきゃならんか」
溝口は話をまとめ、その先を考えて肩を落とした。

「幽霊についてはどうするの?」
再度、川上からの質問。溝口は少し考える。
「…一応、長髪黒髪のカツラと白装束がベストと思ってるんだが…そういうのって、買うと高いだろ。どっかで調達できねえかな」
「学校の演劇部とか?」
相川が言うと、即座に牧村が否定する。
「そんな所で借りたらバレバレじゃない。それに、カツラはともかく白装束なんて置いてないでしょ」
「貸衣装の店…なんて、この辺にあった?」
川上は何かを思い出そうとするが、心当たりはないようだ。焦点下であれば都合よく段取りがつく予定だったが、当てが外れた形である。
すると、レーティアが身を乗り出した。
「でしたら、ホログラム装置はどうですか?」
「ホログラム装置…ラクリアの?」
尋ねると、レーティアはポケットからスマホより一回り小さい程度の、円形の装置を取り出した。
「はい。元々は通信用の小型端末ですけど、今はリンクが切れているので、スキャンと投影にしか使えないんです」
言いながら上面パネルに指を滑らせると、装置の上に奇妙な格好をしたレーティア本人の立体映像が現れる。座った姿勢でのサイズは20センチ程度で、立体映像という割にははっきりとした質感をもち、大き目のフィギュアを持っているかのようだ。
「これは、ラクリアでの儀礼用装束です。様々な事情で通話の度に全身を投影する訳にはいかないので、予め登録しておいたモデルに動作のみを反映させるんです」
説明をするレーティアとそっくり同じ体勢、そっくり同じ表情でフィギュアが動いている。どのような技術力かはわからないが、理屈としてはなんとなく理解ができた。
「成程。つまりそいつに幽霊の姿を登録して、俺が演技をすればいい訳だ。サイズとか透け具合は調整できるのか?」
「はい、等身大までなら大丈夫です。透け具合も調整できますよ」
言っている間に、フィギュアのレーティアは持ち主と同じサイズになり、レーティアの掌の上にレーティアが乗っているという、奇妙な光景になった。そして手乗りレーティアは徐々に透け始めると、そのまま消え、かと思うと半透明の姿を現す。
「これで50%です」
このようなものを見せられれば、想定以上の収穫であった。溝口は安堵しつつ頷くと、次の段取りを考え始める。
「50%だと薄すぎるから、70%くらいが妥当かもな。幽霊のモデルについては、牧村頼む」
指名すると、牧村はギョッとした顔で溝口を睨んだ。
スポンサーサイト



テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/08/08(木) 23:08:06|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


  5. にほんブログ村 その他日記ブログ その他30代男性日記へ
    押してくれとは言えないが
<<2019年8月9日~14日 東北一周 | ホーム | 「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #76 美談>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://photofighter.blog121.fc2.com/tb.php/3861-34d35fa0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

酔狂な人達

プロフィール

オレンジ02

Author:オレンジ02
徒手空拳で世の中エグろうと試みる人、俺。
ブログ名義でツイッターもやってます。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

ブログ内検索

RSSフィード