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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #76 美談

翌日の昼休み、溝口はいつものメンバーを屋上に招集した。焦点は来ていなかったが、恐らく無視はできないだろうとの判断である。
まずは簡単に昨日の(西島梓とオカ研についての)あらましを説明すると、牧村が大きな溜息をついた。
「随分と出来すぎた話じゃない」
「俺もそう思う。実際、失敗したと思ったわ…お陰でやたら忙しくなっちまった」
溝口の方も溜息混じりに返すと、相川は口に箸を入れたまま苦笑いをした。
川上はいつの間にかICレコーダーを出している。新聞部の備品だろうが、こんな時にきちんと反応をしているというのは、兼部であろうともきちんと己の役割を果たす、彼女の生真面目さを表していた。それは、見習わなければならないものだ。
「流れはともかく、西島先輩の不登校を解消するアイデアはあるの?」
だから、この質問は取材と考えてよいのだろう。
「まあ、とりあえずはいくつかあるんだが…その前にひとつ、この件を記事にするのは構わねえんだけど、俺の名前は出さないで欲しいんだよな。つまり、西島先輩の事情について書くのはいいが…」
「わかってるわよ。ここでアンタの名前が出てきたら、宮野さんが大はしゃぎするもんね?」
牧村が言葉を遮って横目に睨む。
「それは俺のせいじゃねえだろ…」
溝口は少し狼狽しながら口答えをしたが、図星であった。

「それで、アイデアっていうのは?」
川上はあくまで取材というスタンスを崩さない。お陰で話が本筋から逸れないので、溝口としてはありがたいことである。
であれば、溝口の方も取材を受ける心持で、ひとつ頷いた。
「ああ。まず一つは、当初の方向性だな。お前らが西島先輩の理解者になってくれれば、俺としてはこれ以上ないくらいやりやすい」
「理解者、ですか…」
レーティアはその意図する所に懸念を感じているようだった。これは溝口にとって想定外の反応である。
「え、もしかして…幽霊とかダメだったりする?」
つい間の抜けた質問が口を突く。すると、牧村が代わりに口を挟んだ。
「あのねえ、普通そうでしょ。噂ってだけでも怖いのに、実際に幽霊がいます、見えますって言われたら…」
言いながら、牧村は小さく震える。
「…良いとか悪いとか関係なしに、気味が悪い」
そうして吐き捨てるように呟くと、これにレーティアが無言で小さく頷いた。

牧村がこの方向性を苦手にしているのはわかっていたが、レーティアまで否定的というのは溝口にとって寝耳に水であった。
漠然としたイメージで、地球人でない世間知らずのレーティアならば、幽霊に対する先入観は無いと思っていたのである。
それに、以前オカ研の話をした時には、ここまでの拒絶反応はなかった。彼女達がどのように考えていたのかはともかく、もしかするとこの状況は、相川グループがオカ研とは明確に一線を引く位置に収まってしまった事の証明かもしれなかった。
であれば、相川と川上には確認をとるまでも無いのだろう。

昨日撮影した写真は、まだ見せていない。というより、その存在もまだ明かしてはいない。ある程度の賛同が得られた時点で見てもらおうと思っていたのだが、こうなれば見せなくて正解だったろう。あの写真を証拠として記事にされてしまうと、西島梓は二度と学校に来れなくなるに違いなかった。

「まあ、そうなるよな…」
溝口は納得したように言ってみせた。強がりではあるが、現在も過去も、自分の都合のいいように物事が運んだ試しなど無いのだから、納得するしか無いのである。
気を取り直し、次の…というより、最後の案に移る。こうなればどんな中間案も無駄だと察したからだ。
「それじゃあ、これしか無い。正直あんまり気が進まねえんだが、どこそこに幽霊が出るって噂をバラ撒いて、無類の幽霊好きって変態をおびき寄せる」
「また随分と極端な作戦だなぁ」
相川は呆れたように言うが、実際その通りである。溝口は溜息をついた。
「…もうホント、これしか無ェんだ。正味の話、さっきまでは西島先輩の人間性と向き合える人がいれば幽霊云々はそこまで大きな問題にはならないと思ってたんだが、ちょっと見積もりが甘かった」
「何それ、恨み言?」
牧村が口を尖らせるので、溝口は首を横に振る。
「いや、俺があの場の雰囲気に飲まれてただけなんだよな。思ってたより西島先輩の考え方がわかりやすかったから、そういうもんかと思っちまった。要するに、ズレてたんだろうな。
 だからって今更幽霊怖いとか言うつもりは無えけど、世間的には怖くて当然なんだよな。怖いから野次馬的な興味を持つ人だっているんだろうが、それじゃ駄目だ。怖いものを怖いものとして楽しむような浅い奴なんかじゃ、あの人の理解者にはなれねえ」
「つまり、純粋に幽霊を知ろうとしている人が必要という事?」
川上がそのように理解をしてくれて、溝口は安堵しつつ二度頷いた。
「そういう事。だから逆に言えば、幽霊なんか絶対信じない!みてーな人でもいいと思うんだよ。俺もまあ信じてる訳じゃねーけど、強く否定する理由もねーから、どうしても一歩引いた興味本位的スタンスになっちまう。理解者にはなれねーんだ」
溝口はここで確信的に、オカ研との距離感を明言したつもりだった。

「そうか?」
おもむろに、相川が不思議そうに言う。
「俺から見れば、溝口は西島先輩の理解者そのものだと思うけどな。その人が何を求めていて、どうすれば満たされるのかがわかってるじゃないか。幽霊についてはともかく、人としてはちゃんと価値観を尊重できてると思うよ」
「そうね、私もそう思う。妙な偶然ではあるけど、結果的に溝口が西島先輩と会ったのは、きっと良かったのよ」
相川に続き川上までもがそんな事を言い出して、溝口は内心頭を抱える。この連中は、溝口が厄介な問題に直面しているという事実をまるで理解していないのだ。
だが、そんな溝口の当惑などどこ吹く風で、レーティアは目を輝かせた。
「きっとこれは、運命なのですね!」
「いや…あのなあ…」
口を挟もうとした溝口に、牧村が強い口調で言う。
「…アンタも大変だろうとは思うけど、こうなったからにはしっかりやり遂げなさいよ。宮野さんはこっちで何とかしておくし、できる範囲で手も貸すから。途中で諦めるなんて、許さないからね!」
そのどこかぎこちない笑顔は、「納得はしないが理解はする」という顔である。

傍目には『良い話』に映るのだろう。だが溝口は、己の逃げ道が全て塞がれたのを痛感するだけだった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/07/31(水) 21:55:41|
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