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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #74 小寺

溝口は女性へと変えられた小寺が振り向くより早く、休憩室を出て扉を閉めた。直後、部屋の中から思いの外怒気のない声が聞こえてくる。
『溝口オメー、入る時ノックしろって言ったべ?』
ギャルというよりは完全にヤンキーの喋り方である。男だった頃の小寺にそんな事を言われた記憶はなかったが、バイト初日に急に入室して驚かせてしまった事はあったから、溝口は素直に謝った。
「すいません、いると思わなかったんで」
『汗かいたら着替えんだろフツー。別にいいから入って来いよ』
言われるがまま扉を開けると、小寺は先程と同じ格好のままで椅子に座って、スマホを弄っていた。ギャル風のスタイルの割には化粧が薄い色の口紅だけというのは、それなりに仕事に対して真面目なのだろうか?あるいは自分の容姿に自信があるのかも知れなかった。
そこそこ整った顔つきに、細いながら筋肉質で引き締まった体、そしてしっかりと主張している胸。まるで女性向けフィットネスジムの広告である。

これはもうそういう人間なのだろう、と諦めた溝口は、それでもなるべく視線を逸らしながら室内に入り、自分のロッカーまで進んだ。この分だと小寺は休憩室から出ていかないのだろうし、向こうが露出狂だとしても、こちらにズボンを履き替える猶予があるとは思えなかった。となれば、カバンを取って早退するのが一番であるが、それが許される状況かどうかが問題である。

「そういや、棚の入れ換えって終わったんですか?」
特に何をするでもなくロッカーを開け、振り返らずに尋ねる。
「さっき粗方終わったんだけどよ、裏が散らかってっからそっちの始末が残ってんだよ。あー、マジダリィ」
心底嫌そうな声。それを聞いてしまうと、このまま帰るという訳にもいかなくなる。
溝口は作業用のズボンを手に取ると、一旦部屋を出る事にした。どうせ倉庫のほうには誰もいないので、そちらで着替えた方がいいと考えたのである。

だが、部屋を出ようとした所で小寺が見咎めた。
「オメー、何やってんの」
「いや、あっちでズボン履き替えようかと」
答えると、小寺は不思議そうな顔をする。
「ハァ?ここで着替えりゃいーじゃん。何オメー、ハズいんか?」
「恥ずかしいというか、汚いモノ見せるのは失礼かと思ったんで…」
答えながら溝口は、自分の言葉遣いが普段よりも若干丁寧になってるのに気付いた。慣れない相手である上にヤンキーらしいとなれば、警戒はして当然である。
すると、小寺はケラケラと笑い出した。
「キッヒヒヒ!オメー馬鹿じゃねーの?俺みてーなのにエンリョしてどーすんだよ!こっちはブラ晒してんだぞ、ヤローのケツなんか見ても何とも思わねーっつーの!
 それともアレか、オメー、俺のチチ見てボッキしてんのか?こっち見てみ?」
この煽りを受けて溝口は少し苛ついたが、しかし勃起をしない自信はなかったので、強がりもできない。
「正直興奮するんで、外出ときます」
吐き捨て気味にそう返して、溝口は部屋を出た。

ズボンを履き替え、手持無沙汰に倉庫の現状を把握して回っていると、ダブついたジャンパーを着た小寺が休憩室から出てきた。しかしそのファスナーは大きく開いており、胸の谷間が露わになっている。下は先程と同じローライズのスキニーで、しゃがみ仕事をするには不向きではないか。
どうせからかうつもりでわざとなのだろう、溝口はそう捉えて極力目を向けず、仕事の説明を求める。
「それで、何すればいいんですか?」
「何っつっても…セーリセートン?大体こんなもん見た目キレーになってりゃいーんだよ、どうせ出すの俺らっしょ?」
言われてみれば、元々小寺はそういう人間だったと思い出す。男だった頃の小寺はマイペースでドライという印象だったが、改めて考えてみるとドライというよりは他者に無頓着で、当人にとってはそれが合理的だったのかも知れない。そういう意味で、根は案外同じなのだろうか?

そうして仕事を始めると、小寺は黙々と作業を進めていく。先程の煽りは本当にただの気安い冗談だったのだろう。溝口も気を入れ直し、とりあえずは棚の周りに乱雑に散らかった品物を分別していった。棚に並べるのは小寺に任せておくべきで、溝口が迂闊に手を出せば、それだけで邪魔をしているように取られるかもしれなかった。

小一時間の作業で、傍目には概ね格好がついた。細かい事を言えば、品物の並び順などは法則性もなにもなく、どこに何があるかは小寺にしかわからないレベルなのだが、当人にすればそれで困る事はないのだろう。勿論、溝口にとってもカティル経由で状態は把握できるので、困る事はなかった。
空調が効いているとはいえ涼しいという訳でもなく、立ったりしゃがんだりの作業はやはりそれなりに汗をかく。小寺の胸の谷間にも汗が流れているのが見えて、一見して少年を誘惑するような格好も、それなりに機能性を重視した結果なのだとわかる。

休憩室に戻ると、小寺はジャンパーを脱ぎ捨ててタオルで汗を拭い始めた。溝口は直視する訳にもいかず、椅子に座ったままぼんやり天井を眺めていると、小寺がまたケラケラと笑った。
からかうというよりは、この童貞少年の反応が本当に面白いのだろう。溝口はそのように決め込んで、それなら不快ってこともないな、と息をつく。
「そういや溝口さぁ、西島サンとこ行ってたって何なん?」
唐突な質問。小寺は長谷川から聞いたのだろうが、具体的な事情については話していないのだろうか?だろうな、と溝口は一人で納得する。
「西島さんの所の娘さんが不登校で大変なんですよ。その人が同じ高校の先輩なもんで、話をしてこいと言われまして」
簡潔に説明すると、小寺は「あー…」と呆れたような声を上げた。
「姐さんにメンドクセーの押し付けられたって事かぁ。あの人昔っからそんなだかんなー…」
姐さん、という言葉にピンときて、溝口は大きく溜息をついた。どうやら長谷川は、相当に厄介なトラブルメーカーへと変化を遂げたらしい。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/07/09(火) 21:05:19|
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