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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #73 始末

一階のリビングに戻ると、西島母は座ったままこちらに視線を向けていた。先ほどの状況を目にしている事もあり、その表情からは不安を感じ取る事はできないが、半面、期待ともまた違う好奇心のようなものを感じさせた。
溝口は先程と同じ席に腰を下ろす。
「その、どうなりましたか?」
「どうと言うか…不登校の理由と、それを解消する方法について話してきました。簡単に言えば、対人恐怖症ですかね」
「対人恐怖症…?」
「まあ、ものすごく簡単に言えばそうなる、という事です。他人からどう見られているのかが気になって、それで外に出るのが怖くなったらしいですね」
この説明に、彼女は息をつきながら頷いた。
「そういう事だったんですか…。じゃあ、溝口さんの推理通りという事ですか?」
「あー…そうですね、ほぼほぼ当たってました。なので、近いうちに解決できると思います」
溝口は幽霊については黙っておく事にした。今ここで提示できる証拠は無いのだし、認識できない世界について理解を求めるのは難しく、下手をすればまた精神状態を悪化させる恐れがあった。
近いうちに解決というのは、牽制である。

「解決って、どうするんですか?」
彼女からすれば、その質問はもっともである。溝口はやはり言葉を選ばなければならなかった。
「諸々考えた結果、3年になるまでは学校に行けていた訳ですから、学校に理解者さえいれば恐怖感は薄れるんじゃないかと」
「理解者…というのは、具体的にはどういった人なんでしょう。溝口さんでは理解者になれないという事ですか?」
「はっきり言えば、そうです。俺はオカルト趣味ではないので、先輩の世界観に追従するとなると、どうしても付け焼き刃にならざるを得ません。なるべく価値観の近い人、お互いに興味を持って接せられる人でなければ、理解者とは言えないと思います」
溝口はきっぱりと断言した。

いつの間にか、時計は18時を指していた。会話の最中にどうやら時間経過があったらしいが、カティルは知らせてきていない。直接的に影響がないからだろう。
「あの、そろそろ戻ります」
溝口が言うと、彼女は一旦頷いたが、少しして思い出したように席を立った。

車に乗り込むと、他愛ない話になる。
「これから戻って仕事するんですか?」
「そうですね、まだ時間あるんで。いつも閉店時間までやってます」
「学校が終わってからだと、大変じゃない?週何日くらい?」
「週5です。大変っちゃ大変ですけど、立ちっぱなしとかでもないですし、接客もないから気分的には楽ですね」
答えながら、彼女の口調が変わったのに気付く。学校と口に出してみて、溝口がまだ高校生で、しかも自分の娘より年下だという事を意識したのかも知れなかった。
そんなどうでもいい推測がパッと浮かぶ程度には、溝口はカティルという存在に毒されているのだった。

「どうも、ありがとうございました」
車を降りながら溝口が頭を下げると、彼女は苦笑をみせる。
「お礼を言わなきゃいけないのは、こっちなんだけどね。次はいつ来れるんですか?」
「明日また伺おうと思います。次は自転車で行きますんで…それでですね、連絡先を教えて欲しいんですが」
「私の携帯番号でいい?」
「じゃあ、それで」
溝口はポケットからスマホを出し、口頭で伝えられる番号を打ち込んでいく。そうして一度電話をかければ、番号の交換が完了する。
よもや未亡人と連絡先を交換する羽目になるとは。去っていく車を目で追いながら、溝口は自嘲した。

事務室に入ると、長谷川が驚いたように見る。
「あ、戻ってきたんですね。どうでしたか?」
「まあ一応、どうにかできるかと。1~2週間くらいかかると思いますが」
溝口は頭を掻きながら答えたが、長谷川は不満げな顔を見せる。
「そうじゃなくて、西島さんは何て言ってました?続けてくれるって言ってましたか?」
「それは聞いてません。あの人がどうしたいかについては、本人に直接聞いて下さい」
吐き捨てるように言うと、溝口は事務室から出た。改変のためとはいえ、ここまでクズっぷりを見せつけられれば気分は悪くなる。

タイムカードを押してそのまま帰ろうかとも思ったが、どの道カバンはロッカーの中である。小寺にも何も言わずに仕事を押し付ける形になっていたので、弁明くらいはしておくべきだろう。
溜息をつきながら休憩室の扉を開けると、そこには上半身下着姿の金髪色黒ギャルがいた。ご丁寧にもその下着は豹柄ときている。

(は?誰?)
《小寺さんです。改変の影響で、性別が入れ替わったようですね》
(性別どころの騒ぎじゃねえだろ。大体なんであの人が…ギャルになんだよ)
《さて、その辺の匙加減は私には把握できかねます。ともあれ彼女は間違いなく小寺さん本人ですよ》
(訳がわからん。なんでこんな所まで踏み込んでくる?焦点はまだ継続してんのか?)
《焦点は西島梓さんの写真を撮ったあたりで消えています。今回の改変は、どうやら彼女と貴方を核として発生したらしいのです》
(つまり、明確に『こっち側』の人間関係が構築されたって事か?)
《そうなります。どうやらこのシナリオ、貴方にとっての主軸になりそうですよ》

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/07/05(金) 22:21:55|
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