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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #72 実証

「どうもすみませんでした、足が痺れてしまったもんで…うまく立てなくて」
溝口はつとめて冷静に、深く頭を下げた。膝立ちの体勢から腰を下ろしたので、実質土下座である。足は痺れっぱなしだが、この際仕方がない。むしろ土下座の姿勢になったことで腰が浮き、その間に回復を図れるようだった。
彼女はすっかり赤面していた。色素が薄い分、血が上ったのもわかりやすくなっている。しかしそれでも、彼女は彼女で一所懸命に気を落ち着かせているらしかった。
「はい、その…あの、大丈夫、ですので…。大丈夫じゃ、ないけど…」
混乱した言葉の中にも、土下座をする溝口に対する配慮があった。が、今は溝口にとってこれ幸いな休憩タイムである。頭を上げられるはずもない。今姿勢を正せば、また同じ事にもなりかねないのだ。
とはいえそれは溝口個人の事情であって、困惑する彼女に対しては何らかのケアが必要になってくる。
「いえ、本当にすみませんでした。このお詫びは必ずしますので…どうかその、嫌わないで頂けると…」
出任せである。何の気なしに出た時間を稼ぐための方便なのだが、発言した直後にそれがナンパの台詞でしかないのを自覚して、青ざめる。これでは敵の思う壺ではないか!

「と、友達としてですね、良好な関係を構築させて頂きたいと!」
頭を床に押し付けんばかりに下げ、慌てて取り繕う。
「ひゃ、ひゃい!?」
答える彼女の声音もひどく上擦っていて、また余計な誤解が生まれたのを痛感する。
改変の影響は受けていないはずなのに、何故こうも型に嵌ったような行動を取ってしまうのだろうか?溝口は疑問に思うが、カティルは答えない。
今はとにかく、この状況を自力で収拾しろという事だろう。カティルはあくまで観察者であり、この状況を楽しんでいるのだ。

足の痺れはピークを過ぎて、感覚もだいぶ戻ってきていた。土下座を始めて1分半ほど、時間稼ぎの案も浮かばないとなれば、少し早いが潮時だろう。
足の感覚を確かめつつ、溝口は体を起こす。
「ともかく、今日の所は帰ります。本当に、失礼しました…」
今度は小さく頭を下げ、ゆっくりと立ち上がる。足にはまだピリピリと刺激が残っているが、バランスを崩すような事はなさそうだった。
そうして立ち上がる最中に、ふと思い付く。
「…あの、写真を1枚、撮らせてもらっていいですか?」
「写真…?」
「はい。そこで立ってもらって…。ちょっと、噂の内容で気になる事があったので」
溝口の思い付きとは、幽霊が写るという噂について、西島梓の普段の佇まいそのものが幽霊染みているからではないか?という直観である。アルビノであるために不自然に白い肌、そのために暗い場所から出られないとなれば、その写真はブレたりボケたりして、きっと違和感のある画像になるだろう。

言われるがまま立ち上がった彼女に、ライトを切ったスマホのレンズを向ける。画面に表示されるその姿は、やはり光量不足でモノクロに沈んでいた。フラッシュありなら白く浮き上がるだろうし、無しならまともには写らない。
「じゃ、撮ります」
溝口がそう言うと、彼女は不意に横を向くと、どういう訳かクスリと笑った。そしてまたこちらに向き直り、溝口はシャッターを切る。
「ちゃんと、撮れましたか…?」
「多分、想像通りに撮れてると思うんですが…」
溝口はそう答えながらカメラアプリを切り替え、画像を表示させた。

「溝口さんって…変な人ですね」
「ほら…霊感がないって、自分で言ったじゃないですか」
「でも、そんな事…普通はわかりませんよね。霊が見えるか見えないかなんて」

「お父さん、溝口さんの事…ずっと怖い顔で睨んでたんですよ。『ちゃんと写って』ますか…?」

果たしてその写真には、暗闇の中にぼんやり浮かぶ彼女と、その隣には確かにいなかったはずの男性が、彼女の言う通り憤怒の形相をみせていたのだった。

その短時間溝口が固まったのは、幽霊が写っていたからである。まさにそれが問題なのだ。

(やっぱ幽霊、アリかぁ~)
《こればかりは仕方ありません、割り切って行きましょう》
(けど、どうなんだ?実際ずっと居たのか?)
《彼女はそう言っていますが、認識が生じたのはついさっきです。もしかすると、写真を撮ると言い出さなければスルー出来たかも知れませんね》
(む…けど、疑惑そのまま放っておく訳にもいかんだろ?まずったかな)
《さっきも言いましたが、どの道こうなっていたと思いますよ。事情が確定したのですから、立ち回りやすくはなる筈です》

溝口は溜息をつきたくなる気分を抑えながら、気を紛らわせるために、ついまた素っ頓狂な言葉を口にしていた。
「この写真、西島さんのお母さんに見てもらってもいいですか?」
「それは…困るって言ってます。静かに見守りたいからって…」
彼女の言葉遣いが流暢になったのは、すぐ隣に父親がいるからだろうか?彼の慌てている様を想像し、溝口は小さく笑って答える。
「わかりました、この事は黙っておきましょう」
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/07/01(月) 20:21:35|
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