FC2ブログ

有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #70 理由

溝口が次の質問を投げかけようとすると、彼女はすっと動き出し、学習机の前の椅子をこちらに向けて腰かけた。
そこで溝口も、腰を下ろすべく暗い部屋の中を見回す。正面には分厚いカーテンのかかった窓があるが、窓を半分塞ぐようにして学習机が置かれている。日光を嫌う彼女にとって、採光という考えは不要なのだろう。
机の右側、部屋の角には大きめの本棚があり、そこから壁沿い手前にベッドがある。方角を考えれば北枕という事になるが、それがこだわりなのかどうかはわからない。ベッドからドアの間にはチェストと姿見の鏡がある。
ドアの左側にはワードローブがあり、開け放しになった扉の中には黒いローブのようなものが見える。日除けだろうか?
左側中央付近に低い台があり、小さめのテレビとDVDプレーヤーが置かれている。
足元にはフローリングの上に毛足の短い無地のラグマットが敷かれていた。

部屋の概要としてはそんな所で、体裁は整っているが没個性で殺風景な部屋である。溝口はその原因を、西島梓本人が外出を好まず、そのために家具類などは全て母親が調達しているからだろうと考える。
ひとまず部屋の中央に進み出て、ラグマットの上に正座をした。本音を言えば正座にはほとんど馴染みがなく足を崩したいのだが、ついさっき初めて会った女性の前でいきなり胡坐をかく訳にもいかないだろう、という世間体があった。とはいえあからさまに人生経験に乏しい彼女から「足を崩してもよい」という言葉が出るとは期待できず、溝口は座ってしまった自分を恨んだ。

となれば、この地味な窮地を脱するには早々に話を切り上げるしかない。
溝口は先の質問を簡潔に、再度繰り返した。
「学校に行かなくなった理由を教えてください」
「それは…その…」
彼女はひどく答えに窮した様子だったが、暫くすると、意を決したようにぽつりぽつりと語りだした。

「さっき…下で話してたの、聞こえました。中山先輩が…私のために、噂を流した…。多分、そうだと思います。
 でも…やっぱり、幽霊が見えるって…普通は、怖い…ですよね…。それで…私、見た目も…こんな、だし…」
「つまり、怖がられるのが怖かった、という事ですか?」
尋ねると、彼女は黙って頷いた。

溝口はそれで合点がいった。つまり彼女は、シンプルに人間なのだ。周囲を怖がらせる事で同時に自分も傷ついて、恐れられる事を恐れる。それは当たり前の事なのに、相手が普通ではないという先入観から見過ごしていたのである。
特別支援学校に通っていたという点も、彼女の心情に関わっているにちがいない。普通の学校に通えない人間だという認識が、周囲から向けられる目に込められて、きっと辛い思いをしたのだろう。だから無理をしてでも普通の高校に進学することを選んだに違いない。

(…てのは、あくまでキャラクター設定だろ)
《それはそうです。ですが、その立場を理解できるというのは大事なことですよ》
(感情移入だよな。さて、こうなると俺はどうしたものか…。早いとこ相川達の方に引き渡したいんだがな)
《この状況が監視されてしまっている以上、無責任に放り出してしまうと確実に悪い方へ転がるでしょうね?》
(だろうな。ましてオカルトだ幽霊だって爆弾の導火線だぜ、こいつは。暫くは面倒を見るしかない)
《自己解決できてるじゃないですか》
(完全に誘導にハマってるから、癪なんだよ。大体ロクな目に遭う気がしねーってんだ!)

「あなたは…噂を聞いても、こわがらない。友達に…なりたいと言って、くれた。それが…うれしかった」
「外に出れば、そういう人は他にもたくさんいます。怖がる人もいるでしょうが、怖がらない人だってたくさんいますよ」
「でも…やっぱり怖い。これまで、色んな人を…怖がらせてきたから…」
彼女の自己評価の低さは、決して無根拠な取り越し苦労ではないという事である。確かに、その特異な外見にオカルト趣味となれば、取り合わせとしては妥当に過ぎる。人々は納得とともに距離を置いただろう。
となればやはり、彼女の内面が変化するまでは手をかけてやらねばなるまい。それがどの程度時間のかかる事業かは不明だが、この問題が解決しない限りは不登校も治らない、溝口もバイトに復帰できないとなれば、そう長い尺を費やすようなものではないはずだ。
だが、これまでの経緯を考えれば、楽観視ができるとも思えない。

「…学校に来るのは、まだ無理ですか?」
溝口は探るように尋ねた。彼女は俯くと、首を横に振って答える。
「前は…私のこと、誰も知らなかった…。でも、今は…」
「…ですよね」
結局のところ、不登校の直接的な原因は噂そのものなのだ。先に彼女が口にした『中山先輩』、その人がどのような了見で噂を広めたにせよ、結果として溝口の推測通りの形になっていると考えて良さそうである。
やはり、今の彼女に必要なのは理解者なのだ。となれば溝口の役割は、自分が理解者になるか、もしくは別に理解者を見つけるか、となる。
そして当然ながら溝口に、自分が理解者になるつもりなどは無い。

「わかりました。じゃあ、友達を増やしましょう。先輩のことを理解してくれる人が増えれば、噂なんて気にならなくなりますよ」
「友達を…増やす…?」
彼女はそう反復すると、よくわからないとでも言いたげな顔をする。
「…どうやって…?」
言われてみれば、そこは溝口にも即答のできない問題であった。登校ができれば他人との接点は作れるが、部屋から出なければそれも難しい。溝口が適当に人を見繕っても、どのように彼女と引き合わせるのか?
スポンサーサイト



テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/06/24(月) 18:36:14|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


  5. にほんブログ村 その他日記ブログ その他30代男性日記へ
    押してくれとは言えないが
<<「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #71 ラッキースケベ | ホーム | 愛知まで買い物に>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://photofighter.blog121.fc2.com/tb.php/3850-050262ca
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

酔狂な人達

プロフィール

オレンジ02

Author:オレンジ02
徒手空拳で世の中エグろうと試みる人、俺。
ブログ名義でツイッターもやってます。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

ブログ内検索

RSSフィード