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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #69 抱擁

胸元にしがみついてきたその女性…西島梓は、アルビノという割には黒々とした長い髪をもっていたが、透き通るような白い肌に合わせたような真っ白いワンピースで、まるっきり邦画に出てくる幽霊のようだった。そのスマートな印象そのままに、体は母親以上に痩せ細っており、もたれかかるように抱き着かれたことで体重がかかっているはずなのに、あまり重さを感じさせなかった。
というより、徐々にずり落ちていく彼女の上体を支えなければ、がっちりと掴まれたシャツのボタンが飛んでしまいそうで、彼女の背中に手を回して引き寄せなければならなかった。
そうなって気になるのは、密着した事によりみぞおち辺りに感じる呼気の温かさとか湿っぽさであって、それはやはり高校生男子にとってはやけに扇情的な感覚なのである。今はどうにか肉体面精神面共にバランスを取れてはいるが、迂闊に動けば勃起しかねない危うさがあった。

(これは…抱き付かれたのか?それとも、バランスを崩してコケただけなのか?)
《明確に、意図的に抱き付かれてますね》
(そうか。何故こうなったのか説明しろ)
《この状況が全てでしょう。必然の結果です》
(だからこそだ。こうなるとわかっていて、何故止めなかった?)
《止める必要性を感じませんでした。貴方が自分で考え、選んだ道ですから》
(こんな結果を望んだ訳じゃない。それはわかっていたはずだ)
《貴方の望む結果を与える事は、私の役割ではないのですよ。私はあくまで観測者であり、観測を続けるために協力するだけです》
(だが…クソ、俺にどうしろって言うんだ!)
《貴方の思うように。この世界は誰かのための物語かもしれませんが、貴方は貴方として生きられるのです。その点に文句を言うのは筋違いでは?》

カティルの言い分は正しいのだろう。だが溝口は、自身は巻き込まれただけの立場だと認識している。世界のなにもかもが誰かの作為によって歪められていくという時に、その中で自由に生きろと言われても、腹立たしいだけではないか?
けれどもやはり、その苛立ちは八つ当たりにしかならないのである。だから溝口は、もはや困惑をする心境ではないけれども、困惑した笑みを浮かべるしかない。

そんな事情もあって溝口が硬直していると、後方の西島母は何かを勘違いしたようで、
「えっと…じゃあ、その、後は若い人同士で…」
と言いながら、そそくさと階下へ降りて行った。
結果、否応にも溝口は自力でこの状況を整理しなければならなくなる。

「あの、そろそろ離れませんか…?」
腫れ物に触れるような気分でそう伝えると、彼女は顔も上げずにいやいやをした。というより、下半身を後方に投げ出した体勢では離れたくても離れられないのではないか?と気が付く。となると、まずは自分でバランスを取らせるのが先決だろう。
溝口は彼女の背中を支えたまま、ゆっくりと腰を屈めた。そうすると彼女の膝が接地して、体勢を支えるのに必要な力が減る。
そこでようやく掴んだ手の力が弱まって、彼女は体を離す。
だが、その直後、
「まぶしい」
と小さく呟くと、再びしがみついたのだった。

光を避けるため、彼女の部屋へと足を踏み入れる事にする。迂闊にも廊下のカーテンを開けてしまった彼女の母も、このような事になるとは思っていなかったのだろう。
「部屋に入りましょう。廊下は眩しいんですよね?」
確認すると、彼女は小さく頷いた。どういう理由か、あまり声を出したくはないらしい。
「じゃあ立ちましょう。目を閉じといていいんで…後ろに下がってくれれば、ドア閉めますから」
そのように言うと、彼女は従ってくれた。立ち上がった彼女の身長は、彼女の母と同じかそれ以上というところである。
立ち上がってなお溝口のシャツから手を放さず、おどおどと後ずさりをする。彼女に引きずり込まれる形で溝口は敷居をまたぎ、後ろ手にドアを閉めた。

暗い部屋に戻れたことで、どうやら彼女の不安は緩和されたようだった。目を開けると途端に赤面し、慌てたように手を離す。
その仕草からは、彼女が溝口よりもひとつ年上である事実を感じさせない。
ともかくも溝口としては、このような状況になった原因を問い質す必要があった。なにせ現在は焦点下にあり、この様子を誰かが観察し、品評をしているのである。誰が求めてこうなったかはともかく、それなりの説明は溝口にとっても欲しいところだった。
「…改めまして、溝口新といいます。西島梓先輩、ですね?」
その場に対峙したまま問いかけると、彼女は無言で頷いた。
「質問なんですが…」
そこまで言って、溝口は言葉に詰まった。この際まず何を尋ねるべきなのか、わからなくなっていたからだ。そしてこういう時に、カティルは呼びかけに答えない。

「…なんで、抱き付いてきたんですか?」
こうなれば率直に自分が一番知りたい事を尋ねるしかない、溝口はそう判断した。
そしてその判断は、ひとまず正解だったようだった。彼女は明らかに動揺した様子で再度赤面すると、くるりと背中を向けて答えた。
「…うれしかった…ので」
「俺がオカ研に入ると言ったからですか?」
彼女は首を小さく横に振り、否定の意を示す。
「…じゃあ、友達になりたいと言ったから?」
今度は首を縦に振った。

「その、友達というのが、学校に行かなくなった理由なんですね?」
この質問に、彼女はどこか迷った様子だったが、やはり首を縦に振るのだった。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/06/17(月) 22:34:21|
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