FC2ブログ

有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #67 推理


「三年になってから…?」
溝口はその言葉をオウム返しに呟いた。
「つまりそれは、四月に入ってからという事ですよね。何かあったんでしょうか」
「梓は、怖いと言っていました」
「怖い?」
「はい。それがどういう意味なのか、私にはわかりませんが…」
彼女はそう言って、また項垂れた。開示される情報はここまで、という事だろう。

嫌な感覚である。つい先ほど、異常性の理由についてはアルビノという事で一段落ついたはずだったが、またすぐに不可解な状況が提示されている。あるいは、溝口自身の口からその言葉を引き出したいのかも知れなかった。
そうだと仮定すれば、いよいよ安易に幽霊を持ち出す訳にはいかないというのが、溝口の意地である。

冷静に考える必要があった。溝口は声に出しながら、頭の中を整理していく。
「…つまり、この四月になるまでは『怖くなかった』。一年と二年の頃には問題にならなかったという事か…?」
何かが現れたという考えは、ここでは考慮しない。それは幽霊なりオカルトを肯定する事になるからだ。可能性としてはそれが一番高いのだが、一番認めたくないものでもある。
そうして西島梓という人物についての情報を照らし合わせてみる。とはいっても、手持ちの情報は曖昧な噂ばかりである。
「そもそも、あからさまに目立つはずの外見や行動については噂になっていなかった…隔離されていたからか」
となれば、噂は当てにならないという事になる。

否。
「違うな…。それなら何故、妙な噂が立ったのか?他の生徒と接点がないのなら、むしろ噂になるのは外観のはずだ。知らない生徒がいるとか、事情があって個別授業を受けてるらしいとか。そこを飛び越えて、外観さえ知らない存在に対しての畏怖だけが広まった。もしかして、誰かが意図的に噂を広めたのか…?」
そこまで口にした瞬間、溝口の脳裏にある一つの噂がフラッシュバックし、歓喜の籠った声を上げた。
「オカ研だ!」
「オカ研…?」
西島母は顔を上げた。溝口はその反応を待たず、畳みかける。
「そうです、オカルト研究会です。娘さんから話くらいは聞いた事があるんじゃないですか?」
すると彼女は、少し考える仕草の後、何かを思い出したように答える。
「…そういえば、幽霊話なんかが好きな子でしたから。でも、夫が死んでからは、あまりそういう話をしなくなったので」
「辛い事を思い出させるから、黙っていたのかも知れませんね。ともかくも娘さんは、オカ研に入ってたんです」
ついつい興奮して早口になる溝口に、彼女はすっかり気圧されたようで、黙って頷いた。

「つまりですね、今年度に入ってオカ研は一人きりになったんです。元々は先輩がいた訳ですね。その人がいなくなったから、娘さんは学校に行くのが怖くなった。何故か?
 話し相手がいなくなったからですよ!同じ部活の話し相手がいなくなって、クラスメイトもいないから、一気にストレスが溜まったんじゃないですか?」
溝口は更にまくし立てる。
「妙な噂が広まった点についても、こう考えれば納得がいくんです。誰も彼女に会った事はない、誰も彼女を知らない。でも名前とオカ研については知られていて、幽霊の噂が付随した。これはつまり、オカ研を去っていった先輩が彼女の今後を案じて、同じ趣味嗜好を持つ者が彼女を探し当てるのを望んでいたという事じゃないですか!?」
言い終えると、溝口は手元のアイスコーヒーを一息に飲み干した。その冷たさと苦みが、溝口の精神を一気に落ち着かせる。

「…すみません、つい熱くなっちまいました」
「ああ、はい…。ちょっとその、驚きました。でも今の話からすると、梓が不登校になったのは寂しいからという事ですか?怖いというのとは、ちょっと違うように思うんですが…」
西島母の指摘に、溝口は頷いた。
「そうですね、その指摘はもっともだと思います。でも、こうも考えられませんか?自分の事を誰も知らない、にも関わらず妙な噂が広まったという事を知れば、その噂に『見合わない』からこそ、興味を持った人に会うのが怖くなる、と」
「見合わない…というのは?」
「彼女が幽霊を引き寄せるとか、そういった噂です。幽霊好きにはたまらない話なんでしょうが、彼女自身にはそんな能力がないから、失望させるのが怖くなった。
 …そもそも寂しいだけというのなら、部屋に引き籠るのだって寂しいはずでしょう。幽霊が見えてしまう、引き寄せてしまうのであれば、どこにいたって怖いものは怖いはずですよ。つまり、怖いのは幽霊じゃない。人です」

「はあ…凄いんですね、溝口さん」
溜息にも似た嘆息。西島母は目を丸くして溝口を見つめた。そのように凝視されれば、多少の気恥ずかしさはある。
「…もっとも、これはあくまで仮説です。わかっている状況に対して辻褄が合うように推理しただけなんで、どこかしらで根本的に間違ってるかもしれません。というか、これ以外の問題が理由だとすれば、それはもう俺の手には負えない問題だと思います。警察か、どこか格の高いお寺とか神社とか…あるいは精神病院かも。言い方は悪いですが、悠長な問題ではないでしょうね」
言い訳の体裁をとりつつも、再度、改変者への牽制を入れておく。『これ以上裏をかこうとするなら覚悟しておけ』と、溝口はそう発言したのだ。

「いずれにせよ、当人と話をしてみましょう。俺の推測通りなら、この問題は解決できるはずです。即座にという訳にはいかないでしょうが、それなりのツテもありますから、力になれると思います。
 もし推測が外れていたら…長谷川さんには俺から謝っておきますよ」
溝口はそう言って、苦笑を浮かべた。

スポンサーサイト



テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/06/10(月) 21:07:47|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


  5. にほんブログ村 その他日記ブログ その他30代男性日記へ
    押してくれとは言えないが
<<「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #68 対面 | ホーム | 「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #66 西島邸にて・1>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://photofighter.blog121.fc2.com/tb.php/3846-0cbd92ad
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

酔狂な人達

プロフィール

オレンジ02

Author:オレンジ02
徒手空拳で世の中エグろうと試みる人、俺。
ブログ名義でツイッターもやってます。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

ブログ内検索

RSSフィード