FC2ブログ

有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #66 西島邸にて・1

念のためスマホを確認すると、案の定というか、圏外になっていた。市街地からさほど離れていない集落で電波が入らないなどという事はまず無いのだから、舞台装置なのだろう。溝口はわざとらしく苦い顔をすると、西島母の後に続いて玄関に向かった。

霊気といったものについて溝口は自身に知覚能力がないことは理解していたし、改変によってそのような存在が設定されているとしても認識できないのはわかっていたから、玄関先で感じたのは物理的な冷気であった。周囲を雑木に囲まれているこの家の立地から生じる現象としては過剰であるが、お陰で溝口の腕にはしっかりと鳥肌が立った。
客観的に見るならば、異常性の描写としては充分に効果があったろう。溝口からすれば腹立たしいだけだったが。

扉を閉める間際、どこかでカラスがぎゃあぎゃあと鳴き始めた。

家の中は照明をつけてもやはりどこか薄暗く、じめっとした湿度を感じさせる。廊下は一歩踏み出すごとに軋むので、霊よりもシロアリの被害を心配した方が良さそうだった。
リビングに通されると、促されるままダイニングテーブルの席につく。椅子の数が二つしかないという点は、質問してもよいものだろうか?
茶を用意しにカウンターの向こうへ回った西島母に、思い切って声を掛けた。
「お二人で生活されてるんですか?」
彼女は手を止めず、顔も上げずに淡々と答える。
「夫は、十年前に病気で亡くなりました」
「…そうですか」
こうなるのは目に見えていたが、失敗もいいとこである。こんな話題から突っ込んだ話をしても、何の得も無いだろう。
溝口は探偵ではないのだ。この状況であればとりあえず回答を引き出す事はできるのだろうが、当面の問題が複雑化する可能性がある以上、曖昧に濁しておく方が都合がいいはずだ。
であれば、この情報は当座の問題に丸め込んで誤魔化さなければならない。
「娘さんが引き籠るようになったのは、この四月からなんですよね?」
「はい、そうです。四月の中頃からだったと…」
「それ以前はどうだったんですか?去年とか中学の頃は。それこそ十年前とか…」
これはかなり思い切った質問であった。つまりは父親を失った事による精神面での疲弊が主要因なのではないかと、他でもない改変者へと突き付けたのである。
すると、ここまで滞りなく返してきた西島母の口が澱んだ。

「…実は、娘は…普通じゃないんです」
そら来た、と溝口は眉を顰める。やはりどうしてもこれは尋常ならざる問題になってくるのだ。息を呑んで身構える。
「普通じゃない…って、それはどういう…?」
つられて歯切れの悪い言葉を発する。しかし彼女はそれには答えず、盆を持って対面の席につく。
照明が意味ありげに二度ちらついた。

水滴のついたグラスにはコーヒーと思しき黒い液体が注がれて、氷が浮かんでいる。
「お砂糖は要ります?」
溝口は差し出されたグラスを手元に引き寄せて、小さく頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
とはいえ、何となく口をつけるのは躊躇われるような雰囲気がある。グラスを見つめている訳にもいかないので、改めて質問を続ける。この一瞬、溝口は一つの引っ掛かりを思い出していた。
「普通でないというのは、どういう事でしょうか。そういえば、病院がどうとか言ってましたよね」
病院。そう、病院である。事務所で話をしていた時、確かに彼女はそう言ったのだ。それは一体何を意味しているのか?あるいは単にその場の文脈として出てきた言葉かもわからないが、引き籠りという事象には直結しているはずである。
「普通ではない何かがあるから、病院に行かなければならないという事ですよね」
溝口は念を押した。これはつまり、彼女にとって娘の異常は肉体的、もしくはあくまでも精神的なものとして捉えられているという事でもある。この認識は、ともすれば行き過ぎる状況に釘を刺す事にもなるだろう。

すると彼女は、何かを決心したかのように、溝口の目を見据えてゆっくりと口を開いた。
「…溝口さん、でしたね。あなたは、娘を助けてくれますか?長谷川さんに頼まれたからという理由でなく、ただの興味本位というのでもなく、一人の人として娘を助けてくれますか?」
雰囲気としては不味い所を踏んだという感触だが、極めてベーシックな流れである。こうなれば、拒否などできるはずもない。もし拒否すれば、この状況が物語として成り立たなくなってしまうだろう。この状況は、あくまでショーなのだから。
「勿論です。成り行きとはいえ、生半可な気持ちで野次馬に来た訳じゃありません。俺に何ができるかはわかりませんが、やれるだけの事はやります」
溝口は敢えて力強く言い切ってみせた。ここで張り切っておけば、やはり駄目だったという時に大きく株を落とせるだろう、と踏んでの事である。そもそも幽霊が問題となれば、溝口にできる事など無いのだから。

「…ありがとうございます」
彼女は小さく頭を下げると、そのままぽつりぽつりと話し始めた。
「娘の梓は、生まれた時から体が弱かったんです。先天性色素欠乏症…と言うんでしたか、陽の下に出られない子なんです」
「アルビノって奴ですね。メラニン色素が足りないから、日に当たると火傷をしたみたいになるっていう…」
溝口が口を挟むと、彼女は頷いて肯定した。
「それで、中学までは一般の学校ではなく、特別養護学校に通っていたんです。ですが、本人の希望で高校は皆と同じ所がいいと…」
「あの、ちょっと待ってください」
溝口は再度口を挟んだ。ここにきて看過できない疑念が生じたからである。
「もしかして、というかもしかしなくても、普通じゃないというのはアルビノだという事なんですか?」
「そうですが…?」
彼女はキョトンとした顔を向けた。この意外な展開に溝口は内心慌てつつ、話の続きを促す。
「いえ、すみません。それで、高校ではどんな様子だったんですか?」
「それが、普通の高校に通う事になっても、やはり普通の生徒と一緒に授業を受けさせる訳にはいかないという事で…。暗く締め切った部屋での個別指導という形で、本人はだいぶ滅入っていたようです」
「それは…辛かったでしょうね」
その状況を想像すれば、溝口は同情せざるを得なかった。だが、そうなれば原因は明確になってくる。
「という事は、隔離されたストレスが原因で不登校に?」
指摘すると、彼女はやんわりと首を横に振った。
「いえ、そうではないんです。個別指導の間は、それでもほとんど毎日、休まずに通学していました。梓が学校に行かなくなったのは、三年生になってからなんです」


ゲームやってたり体調不良が続いたりでだいぶ間が空いてしまいました
スポンサーサイト



テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/06/09(日) 22:14:13|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


  5. にほんブログ村 その他日記ブログ その他30代男性日記へ
    押してくれとは言えないが
<<「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #67 推理 | ホーム | 「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #65 西島邸へ>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://photofighter.blog121.fc2.com/tb.php/3844-a786705f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

酔狂な人達

プロフィール

オレンジ02

Author:オレンジ02
徒手空拳で世の中エグろうと試みる人、俺。
ブログ名義でツイッターもやってます。

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

ブログ内検索

RSSフィード