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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #65 西島邸へ

いつの間にか雨が降り出していた。雲は途切れることなく空一面を覆っており、今日一日止むことはないだろうと思える。
「本格的に梅雨入りですかね」
その問いかけに、西島母は「どうでしょうね」とだけ答えた。

彼女の後に続き、駐車場の隅に止めてあった白の軽自動車に歩み寄る。このところは手入れする余裕もないのかその外装は随分と汚れていて、雨によって僅かに洗い流されていくようだった。
傘を畳み、助手席に乗り込む。芳香剤の香りが充満した車内は、しかしどこかカビ臭さを感じさせる。車内に装飾らしいものはなく、CDとラジオだけのシンプルなオーディオは、退屈なFM放送を垂れ流していた。フロントガラスを拭うワイパーが、規則正しく耳障りな音を立てていく。

「変な事に巻き込んでしまったみたいで、ごめんなさいね」
呟くように言う彼女の声音には、生気がない。心にもない事を事務的に口にしただけのようだ。溝口は愛想笑いをしてみせるが、車はすでにゆっくりと走り出しており、こちらを見る余裕などは無いだろう。
「こっちこそ、事情も知らないのに首を突っ込んだみたいになって、すみません。ただ、噂を聞いて気にはなってたんで…」
言葉を選ぶ。あまり急ぎすぎると、こちら側が妙な先入観でもって、興味本位で首を突っ込んだだけの野次馬だと思われる可能性が高い。当然、それは溝口にとって望むところではない。
「そんなに、噂になってますか」
小さく溜息をつき、彼女は吐き出すように言った。この対応を見るに、やはり何かしら原因が存在するのは間違いないらしかった。
まずはそこを探るのが先決である。溝口は仕掛けに出る。
「いえ、逆なんです。俺が気になったのは、不登校になってる人がいるって噂はあるのに、それが一体どんな人だとか、何故不登校なのかって話が出てこなかったからなんです」
すると、前方を凝視したままの彼女の表情が、一瞬強張ったように見えた。それを確認して、溝口は続ける。
「それと、これはどうもよくわからない話なんですが、西島先輩の周囲では何か妙な事が起こるとか」
「妙な事…というのは?」
その声音からは、緊張と共に強い興味が伺える。やはり何か不都合な事実があるのは間違いないらしい。
誤魔化すべきか、率直に尋ねるべきか。その一瞬、溝口は決断できずにいた。

(つーか、お前が現状だけでも教えてくれれば、こんな探るような真似しなくて済むんだがな)
《それはできません。こちらに焦点が来ている以上、不自然な対応を見せるのは危険です》
(うまくやる自信があるって訳じゃないが、危険性については俺だってわかってる。それでも、下手に突いて藪蛇になるよりはマシだろう)
《それこそ取り越し苦労でしょう。むしろ改変者の方はそれを期待している節もあります》
(趣味が悪い)
《いいえ。貴方自身が改変者にとって観察対象になっているという事は、意識しておいてください。我々が改変者の思考を知ることができないのと同様に、改変者は貴方がどういう存在なのかを測りかねている筈なのです》
(改変者も俺を探っているという事か…?)
《改変者の側からは、貴方の思考は読めないはずです。何を考えているのかわからない、時間が経過してもその場を動いていないという事がある、という所まででしょう。それは弱みであり致命的欠陥になり得ますから、こちらが生存するためには、協力関係を持つに越した事はありません》
(目的は真逆だし意思の疎通も図れないのに、協力関係か。改変者の目的は世界の維持、それと第三者から評価される必要だったな。クソ、登場人物やってると、これがショーなんだって事を忘れちまいそうになるな)
《思考が外に漏れないのは利点ではありますが、厄介な特性でもあります。独白をして方向性を明示すれば、改変者に道を示せるかもしれません》

意を決し、そのキーワードを提示する。
「…幽霊、が出るって言うんですよ」
「幽霊、ですか」
淡々とした返答。これだけでは、まだ何も読み取れない。もう少し突っ込んだ内容が必要である。
「心霊写真が撮れるって言うんですね」
「心霊写真…?それは、どういう写真でしたか?」
「そういう噂です。その写真は見たことがないんですが」
「噂…」
含みのある言い方で、やはり何らかの心当たりがあるのは間違いなさそうであるが、具体的な情報は返ってこない。
「心当たりはありますか?」
率直に尋ねると、彼女は首を小さく横に振った。
「…本人に聞いてみないとわかりません。それが原因なのか、それとも…」
言いかけた所で、車がゆっくりと停まる。

「…着きました」

車から降り、その家を見る。
バイト先からは車で5分ほど、山際の集落にあってブロック塀に囲まれたその一軒家は、広い庭に樹木が鬱蒼と茂り、そして随分と長い間ろくな手入れもされずに放置されているようだった。
アプローチを通して玄関は見えるが、樹木に遮られて全容が見えてこない。外壁のサイディングやアルミサッシを見れば建物自体はそこまで古くもないようだが、雨樋には植物の蔓が伸び、外壁のそこかしこに苔が生えていた。

雨足が強まり、ばたばたと傘を叩いていく。暗雲はますます深くなっていた。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/05/25(土) 10:50:46|
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