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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #64 選択肢は無い

放課後になったので、溝口はアルバイトに向かった。昨日に引き続きの焦点発生中だが、話のメインは相川達になるので、時間経過による状況の急変にさえ気を付ければ、むしろ楽な状況とさえ言えた。

向こうの方向性は定まった気配がある。この後は入部絡みで多少のグダグダをやって、改めてオカ研を追跡する流れになるのだろう。気掛かりなのは、現状でオカ研に対する情報がまるで更新されていないという点だが、そこはご都合主義なり適当な偶然で解決できる問題にちがいない。そうしてオカ研を巡ってドタバタをやってくれれば、しばらくの間は溝口はフリーでいられるという算段である。
溝口にもファンクラブの件の始末が残っているが、焦点下では沢木との対面はしていないから、放っておいてもさほど問題はないはずである。沢木が動くにせよ動かないにせよ、そこは改変者の匙加減次第になってくる。溝口が新聞部に関わる姿勢を見せていない以上、むしろ沢木という賑やかし役は必要だろう。

そうなってくれば、ファンクラブとは別に、溝口も何かしら動いている風に見せていく必要も出てくる。かといって、暗躍しているかのような疑わしい動きをすると、思わぬ黒幕の役を被せられる可能性も考えられる。
当面は単純に金欠だというアピールを前面に押し出して、バイトに熱を上げていると見せるのが正解にちがいない。

改めて考えてみれば、相川達がオカ研ではなく新聞部に入ったところで、大きく状況が変化する訳ではない。要素として見れば、相川達を一団として動かすための理由付けには成功しているし、新聞部にせよオカ研にせよ、自ずからトラブルに向かっていく事には変わりない。また、溝口には自分から退部したという経緯があるから、新聞部に対しては距離を置きやすいという利点もある。
相川達との関係性が希薄になるという難しい面もあるが、溝口としては改変の影響から遠ざかるとなれば願ってもない事だし、ここまで出過ぎた自覚もあるのだから、一旦その印象をなんとか取り下げさせて貰いたい所でもあった。
観察者としての理想は、あくまでも背景の一部としての存在である。いずれ相川周りのキャラクターが増えてくれば、次第に出番がなくなってフェードアウトしていけるかもしれない。

改めて考えるまでもなく、溝口の最終目標はこの世界を元に戻す事である。そのためには矛盾する情報を集めつつ、まずはその時まで生き延びなければならない。何をどうすれば世界を元に戻せるのか、どうすれば相川にそれだけのインパクトと懺悔を与えられるのかについてはまだ全く掴めていないが、まだ一ヵ月が経過しただけなのだから、焦っても仕方がない。
情報収集という点は、カティルがいれば問題ないのだ。溝口はとにかくも生存を第一に考えて、なるべく目立たないように動けばよい。その意味では、超常現象の起点となるオカ研から大きく距離を取れたというのは、僥倖かもしれなかった。

現在の状況をこのように納得して、溝口はそれ以上深く考えるのをやめた。

しかし、その努力は程なく徒労に終わる。
タイムカードを押すべく事務室に向かっていた所で、カティルからの知らせが来た。

《今、こちらに焦点が向きました。事務室で新展開があるようです》
(…今度は何のカウンターだ?)
《さて、そこは実際に話を伺ってみるしかないですね》

喉まで出かかった溜息をぐっと飲みこんで、溝口は平静を装いながら事務室の扉を開ける。

事務室では、長谷川ともう一人、初めて見る中年の女性が、何事か話し込んでいるところだった。入ってきた溝口に目を向けた長谷川は、そこで何かを思いついたように手を打った。
「溝口さん、ちょうどいい所に!」
「ちょうどいいって、バイトの時間だからそりゃ来ますけど…」
先日の件もあって、溝口は長谷川に対しあまりいい印象を持っていない。そこに来ての焦点なのだから、つい反発的な反応を取ってしまった。
一瞬まずいと思いつつも、一応の形として女性に一礼をすると、長谷川がその女性を紹介してくる。
「こちら、レジ担当の西島さんです。15時までのシフトなので、初対面ですよね?」
「初めまして」
西島という女性は礼をするために立ち上がる。するとその身長は、溝口と同じくらいであった。痩せ気味のすらりとした体格のために、病的にさえ見える。というより、その顔色はどこか青ざめており、やつれているのだった。

が、問題はそこではない。名前が問題なのである。
「西島さん…ですか?」
溝口が確かめるように言うと、女性は表情を曇らせた。
「やっぱり、ご存じなんですか…?」
的中である。それはそうだろう、焦点の影響下にあって、この出会いがただの偶然である筈がない。
「知っているというか…噂を耳にしただけなんですけど、不登校になってる人がいるって話で…」
あまりに唐突な展開に、溝口はすっかり戸惑って、しどろもどろな言葉遣いになってしまう。その反応が、西島母には別の意味に聞こえてしまうという事にも、注意が向いていなかった。

とはいえ溝口も雰囲気が重くなったのを察して、ひとまず切り替えのために長谷川に説明を求めた。
「長谷川さん、これ一体どういう話なんですか?」
「それがですね、西島さんのお宅が大変な事になっているそうで、このままでは仕事に差し障ると」
長谷川が言うと、そこに西島母が口を挟む。
「パートを辞めさせて頂きたいんです。娘が部屋から出てこなくなって、もう一月半になるんです。理由を聞いてもよくわからないし、病院に連れて行こうとしても嫌がって…。私、もうどうしていいのか…」
そう言うと、西島母はさめざめと涙を流した。つまりは心労が溜まってしまい、自身の精神が限界にきているという事だろう。
にも関わらず、長谷川は彼女に辞めてもらっては困るという一点で、引き留めにかかっているのだった。

「ともかく、西島さんに今辞められると困るんですよ。ウチはギリギリの人数で回してるんですから」
薄々感づいてはいた事だが、長谷川は性格に難がある。昨日の小寺の言うように、彼女はそういう人なのだろう。
それは、若くして店長代理を任されているという責任感や重圧から来る適応なのかも知れなかったが、彼女から魅力を削ぎ落すには充分であった。
しかし依然として項垂れ続ける西島母に、長谷川はとうとう打つ手をなくしたようだった。彼女の取った最後の選択は、この問題の解決を溝口に丸投げするというものだった。

「溝口さん、西島さんの娘さんと同じ学校ですよね?ここはひとつ、娘さんの相談に乗ってあげる事はできませんか?
 勿論、タダでという訳じゃないです。説得にかかった時間は時給も出しますから、何とかしてあげて下さい!」

全くもってクズの言い分である。そこにあるのはただの保身、仕事に穴が開くのは困るという、店長代理という立場からの一方的な願望であり要求に過ぎない。
溝口は西島の娘について、又聞きの噂程度の情報しか持っていない。面識がないどころか、ついでに言えば性別も違う後輩である。接点どころか共通項もない相手に対し、どうすれば説得ができるなどと思えるのだろうか?

だが、この長谷川の身勝手なクズっぷりは、溝口にひどく危機感を与えた。この申し出を拒否したとなれば、これから先どうなるかわかったものじゃない、という恐怖である。それに西島母のやつれっぷりを見れば、彼女の置かれた状況が破綻寸前である事にも容易に想像がつく。
焦点の来ている今、現実的な判断をしてこの場から離れれば、破滅的展開を許すという事にもなりかねない。その前例ができてしまえば、この先どんな悲劇が起こっても不思議ではないという事になってしまうだろう。

つまり、選択肢などは無いのである。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/05/21(火) 22:40:24|
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