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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #57 面接

翌日、溝口は改めてホームセンターを訪れていた。約束の時間にはまだ少し早かったが、時間ピッタリまで待つ必要は無いだろうと判断し、ひとまず誰か店員に声を掛けてみる事にした。
だが、店内をざっと見たところ、レジに立つ中年女性店員1人しか見当たらない。レジには客が2人並んでおり、割り込んで質問をすると仕事の邪魔になるかもしれない。
そんな訳で、溝口はレジ待ちの列に手ぶらで並ぶ事にした。
だが、2人目の客である老人男性が厄介な品物を持ってきた。見たところそれは数本のボルトだったのだが、買おうとした本人は手持ちのボルトと似たものを選んだだけでそれがどんな品物なのかきちんと理解しておらず、バーコードも貼られていないので値段がわからない。
レジの店員は棚を見に行く必要に駆られたが、レジには自分ひとりしかいないので離れられない。結果、ヘルプを呼ぶ事になる。

少しして、どこからか黒縁眼鏡の若い女性店員が小走りに駆けてきた。彼女は溝口の姿を見て一瞬怪訝な顔をしたが、すぐさまレジの店員と小声で何やら言葉を交わし、ボルトを1本手に取って確認に向かっていった。
どうやらあの女性が、昨日電話で話した相手であるようだ。

そうして再度戻ってきた彼女は、自らレジに入って手早く入力を行うと、この客の会計を済ませる。
つまり次は溝口の順番ということで、進み出た溝口は若い女性店員に「バイトの面接に来たんですけど」と伝えた。
するとその店員は、「そうだと思いました」ときっぱり答えると、ふう、と息をついて言葉を継いだ。
「…まあ、いいです。それじゃあこっちに来て下さい」
言いながら早足で歩いていく彼女を追いながら、溝口はキョトンとした顔のレジの店員に小さく頭を下げた。

電化製品コーナー手前の飾り気のないドアの先に、狭い事務室があった。壁に向かって机が2台、その後ろにはスチール棚が4台。業務用のコピー複合機が1台。
女性は壁に立てかけてあったパイプ椅子を広げて、「どうぞ」と溝口に座るよう促した。そうして彼女は手前側の机に向かうと、OAチェアに腰を下ろし、くるりと向き直る。

溝口が着席するのを待って、女性が口を開いた。
「レジに並んで待ってたんですか?」
呆れ気味の声音に、苦笑。溝口は猛烈な恥ずかしさを感じつつも、正直に答える。
「どうも忙しそうだったので。他に聞けそうな人もいなかったですし…」
すると、女性はクスリと笑う。
「変な所に気を遣うんですね。アルバイトをするのは初めてですか?」
「はい」
溝口は短く答える。彼女の雰囲気が急に柔らかくなったのは、溝口の緊張を解すためだろうか?あるいは、この少年の経験不足から来る底の浅さを感じ取ったのかも知れなかった。
「それじゃ、履歴書を見せてくれますか?」
言われて、溝口は鞄から履歴書を取り出し、手渡した。彼女はそれにさっと目を通し、
「溝口さん…。溝口、アラタ、さんね。昨日の電話で名前聞くの忘れちゃってて、時間ギリギリになっても来ないから、どうしたのかと思いました」
「はぁ…」
恐縮する溝口をよそに、女性は履歴書に再度目を落とし、しばらくしてひとつ頷いた。
「…はい、履歴書の方は大丈夫です。こちらとしては即採用、という感じですね。お給料については掲示の通り自給870円、25日締めの月末払いになります。
 それで、希望される時間帯や曜日などはありますか?」

いきなり仕事の話になったが、一通りの質問は想定してある。溝口は淀みなく答える。
「特には無いです。学校が終わってからと、土日祝日も平気なんで」
「そうですか、それは助かります。ウチは慢性的に人手不足ですし。でも毎日入ってもらうという訳にもいかないので、週に5日程度入ってもらうという形で調整しましょう。時間は16時からで大丈夫ですか?」
「ええと…いえ、今日は7限だったんですけど、月曜と木金は8限になるんで、17時になりますかね」
彼女は手元のクリップボードに何事か記入しつつ、ふうん、と息を漏らす。
「…はい、わかりました。土曜日は隔週でしたっけ?」
「第2と第4が休みです」
「じゃあ、その日は朝から夕方まで入ってください。日曜日は休んでもらうとして、後は…金曜日も余裕あるから大丈夫かな…」
女性は小声でぶつぶつ呟きながら、シートにチェックと入れていった。

そこで溝口はふと引っ掛かりを感じて、思ったままを質問する。
「俺、日曜日に休んでも平気なんですか?忙しいんじゃ…」
すると彼女は、「あー…」と反応し、口元に笑みを浮かべながら答える。
「ウチは基本、日曜日って暇なんですよ。お客さんは農家の方とか業者の方が多いので、忙しいのは平日の日中なんですよね。なので、溝口さんが働ける時間帯っていうのは大体暇なんです」
「へぇ…そうなんですか?」
意外な答えだった。なんとなく先入観で日曜日は忙しいものだと思っていたからだ。拍子抜けした溝口に対し、彼女は言葉を続ける。
「それにそもそもの話、法律で18歳未満は法定休日に働かせてはいけない事になってるんです。日曜祝日はNG。土曜日は学校休日なので大丈夫…だと思います。そこは確認しておきますね」
言いながら、彼女は苦笑いをしてみせた。

「ウチの営業時間は朝8時半から夜は20時半まで、溝口さんは平日は17時から閉店まで作業して頂く形になります。一応確認しておきますが、親御さんの許可の方は大丈夫ですか?」
「あ、はい。話はしてあります。ウチは放任主義なんで、その位の時間なら全然大丈夫です」
「そうですか。一応、同意書の雛型を渡しておきますので、これに記入してもらって下さい。基本的にはバックヤードでの作業になりますが、時々お客様から商品の場所を聞かれたり、積み込みのお手伝いをする事もありますので、もし何かあった時のために、提出をお願いします」
「わかりました」
差し出された一枚の紙を受け取り、一見して鞄にしまう。何やら面倒そうな事を言われたが、万が一の話という程度に認識をとどめておく。

「溝口さんは、学校から直接来られるんですよね。制服についてはウチは特に無いので、スタッフ用のジャンパーは貸し出しますが、汚れてもいい服を着替えとして持ってきた方がいいと思います。ロッカーと洗濯機もありますので、各々で洗濯してください。
 それでは、明日から実際の作業に移ってもらいます。品出し作業の事は、専任の小寺さんという方がいますので、その人に教わってください。棚と商品の配置さえ覚えれば、そんなに難しい仕事ではないのですぐ慣れると思いますよ。
申し遅れましたが、私は長谷川といいます。正社員は私の他に店長の石田がいるんですが、店長はこの辺りの3店舗を掛け持ちされてるので普段はあまりいません。なので実質、私がここの責任者になります。よろしくお願いします」
言いながら、彼女は名刺を差し出してきた。溝口はそれを両手で受け取って、頭を下げる。
「よろしくお願いします」
一通りの話は済んで、この日はこれで解散となった。

ホームセンターの内部構造をどうすか迷って、三日手が止まりました
後になって考えたら、そんなのどうでもよかったんですけどね
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  1. 2019/04/14(日) 18:43:09|
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