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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #56 油断

「いや、嘘はついてないんだが…」
溝口はひどく戸惑いながらそう返したが、宮野は鼻で笑って何かを確信したような顔を見せる。
「嘘はついてない。って事は、何か誤魔化そうとしてるって事よね。…あー、なるほどなるほど。
 つまり、白里さんを泣かせたのは、アンタなんだ」
さっと血の気が引く感覚。と同時に、時間が止まった。

《これはどうも、貴方の思考パターンは見透かされているようです》
(前回もそうだったが、どういうんだ?これも改変のせいなのか?)
《そうとも言えますし、そうでないとも言えます。彼女のキャラクター性として、貴方の人間性に対する深い理解が備わっているらしいのです》
(ちょっと待て、俺は改変の影響を受けないはずだ。その理解はどこから来る?)
《彼女自身からです。簡単に言えば、宮野さんは貴方に対してのみテレパスのように振る舞うのです。もっとも、彼女自身にその認識はありませんが》
(そんな出鱈目な…いや待て、そうなるとレーティアの件はどうなる!?)
《それについては、彼女自身の先入観が認識を阻害したのかも知れません。あくまで推測ですが、レーティアさんの件については彼女自身が結論を出しており、それ以上追及する意図がなかったために、貴方の内面を覗く必要がなかったのではないでしょうか》
(…裏をかければ良し、そうでなければ隠し事はできないってか。天敵かよ…!)

時間が動き出しても、溝口は何と言い返せばよいのかわからず、顔をしかめて仰け反った。あるいは沈黙こそ正解という場面かもしれない、そんな淡い期待を抱く。
が、宮野はそれすら見透かしてくる。
「黙り込むって事は、正解なのよね。なーるほど、大体わかってきた。アンタ相当余計な事言ったんじゃない?立ち入った事って言うかさ。
 そういうとこデリカシーないもんねぇ、溝口は」
挑発的な物言いにも、今の溝口は反発する気になれない。宮野の持たされた能力を考えれば、何を言っても相手を付け上がらせるだけだろう。
となれば、これ以上ここにいても消耗するばかりで無駄ではないか。少なくとも、当初の目的は達成されているのだ。

溝口は無言のまま席を立ち、まっすぐ部室を出た。その際に宮野の制止がなかったのは意外で、このために余計な罪悪感と羞恥を感じたが、恐らくはそれさえも宮野には筒抜けになっているのだろう。
どちらにせよ、白里については直接当たりに行くのだろうし、それを溝口がコントロールするのは不可能である。
溝口にとっては癪な話だが、こうなってしまえば今後宮野とははっきり距離を置くべきだろう。それでも接触を避けられない場合は、可能な限り下準備をして万全の体勢で迎え撃つしかない。
どのような事態であれ、まずいのは溝口の置かれている状況を悟られる事である。もし溝口がアカシックレコードと接続してこの世界に抵抗していると知られれば、悪役として全てを敵に回す危険性すらある。

教室に戻って中を覗くと、相川達が集まって何事か相談している最中のようだった。見れば溝口の椅子も牧村に使われていたので、気付かれない内にその場を一旦離れ、男子トイレに向かう。
せっかくある程度状況が落ち着いたと思っていたのに、宮野が特異な能力を持ったせいで先が全く読めなくなってきている。他にも厄介な能力を持つ者が出てくるとすれば、それはなるべく溝口には関係のないものであるべきだ。

数分間を個室内で過ごし、チャイム3分前になって再度教室へと戻る。相談はまだ続いていたが、今度はそのまま自分の机に向かう。すると牧村が溝口を認めて席から立ったので、入れ替わりに腰を下ろした。
できれば関わり合いになりたくなかったが、この状況をスルーする訳にもいかない。カティルに問うまでもなく、部活の事だろうと適当にカマをかけて尋ねる。
「どうだ、何か進展はありそうか?」
これに相川は首をすくめて、代わりに牧村が答える。
「まだ情報も集めてないのに、進展なんかしないわよ。とりあえずどうするか、って方向性だけは決めとこうって段階」
「フゥン…長引きそうだな」
溝口は小さく頷き、再度相川に目を向けて言う。
「ま、急ぐ話でもないからな。目的を焦ってややこしい事になるよりは、色んな可能性を模索してみるのもいいと思うぜ」
その言葉に色々な含みと、そして己への自戒を込めた。

その後は特に何事もなく授業が終わる。宮野からの追撃もなく、溝口は若干の胸騒ぎを感じながらも、ひとまずはアルバイトを確保するために自転車を走らせた。
幹線国道に出て北に向かうと、次第に建物と建物の間隔が広がって、風景が田園地帯に変わっていく。目指すホームセンターはその先にぽつんと存在していた。
特に駐輪場というような場所もなく、とりあえず駐車場の端、フェンス際に自転車を止める。鞄を持ち店内へ入ろうとするが、その前に入口前に貼られたパート・アルバイト募集のチラシに目を通す。時給870円~、時間は応相談、高校生可。条件としては悪くない。
だがここで一つ問題が発生する。希望者は予め電話で面談の予約を入れなければならないらしく、こうなると飛び込みをやるのは気が引けてくる。
こういう事をカティルは教えてくれないのだ。尋ねれば応答はしてくれるが、親切丁寧なナビゲーションという訳ではない。
溝口は舌打ちをしながらスマホを取り出し、記載された番号に電話をかける。

数回のコールの間に、溝口は自転車の所まで戻ってきていた。応答が遅いのは仕事に追われているからだろうか?駐車場には車が7台ほどしか停まっていないが、先ほどちらと見えた店内の様子は、二つあるレジは片方しか動いておらず、そこに三人が並んでいるという状況だった。人手不足なのは間違いないようだ。

7回目のコールでようやっと繋がった。
『お電話ありがとうございます、ホームセンタームラキ泉光店、人事担当の長谷川です。パート、アルバイトのご用件でしょうか?』
幾分急いた女性の声。大方、やりかけの仕事を手放してきたのだろう。
「はい、アルバイトの件で…。高校生なんですけど」
『はい、大丈夫です。では一度履歴書をお持ち頂いて、面接を行いたいのですが、いつがご希望ですか?』
「あーっと、そのですね、実は履歴書も持って今店の前にいるんですけど、都合悪いですかね…」
血の気の引く感覚、そして冷や汗。引け目のある状況に加え、面と向かって話すのであれば演技ぶって多少は取り繕えもするのだろうが、やはりこういう場面で素が出てしまう。溝口は元来、人付き合いには不慣れなのである。
『今ですか…今というのはちょっと都合がつきませんので、明日…は大丈夫ですか?』
こちらから希望を伝えるはずが、いつのまにか逆になっている。ここから察するに、相手の方もこのような展開にはあまり慣れていないのだろう。無理もない。いきおい、溝口は余裕を取り戻す。
「あ、じゃあ明日でお願いします。また今と同じ時間で大丈夫ですか?」
『はい、大丈夫です。では明日の16時、お待ちしております』
「はい、では…」

通話を切り、ふう、と息をつく。やたらと『大丈夫』が飛び交う会話だったが、とりあえず大丈夫そうではある。
予定は狂ったが、事前調査や想像が足りていなかった事から生じた自業自得である。先の件が片付いたと思って、気が抜けていたのかもしれない。

どのような展開であれ、油断をしていられる暇などは無い。溝口は気合を入れ直し、自転車のペダルを踏み込んだ。
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  1. 2019/04/05(金) 22:17:47|
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