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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #55 新聞部部室

昼休みになって、購買で買ったパンの袋をぶら下げながら、溝口は足取りも軽く新聞部の部室に向かった。
場所についてはカティルから聞いていたが、部活棟三階の一番奥とは帰宅部だった溝口には縁など無く、決して行動的とは言えなかった彼にとって初めて訪れる場所であった。
『新聞部』そう書かれた頭上のプレートを確認し、ひとつ深呼吸をして扉に手を掛けた。

室内には既に宮野がいた。中央に二つ平行に置かれた長テーブルの右奥で、入口に立つ溝口に無言の視線を向けている。
空いている席は三つ。宮野の左隣、対面、その左隣。対話をしに来た以上、選択肢は一つしかない。
無言の圧力に溝口は多少気圧されながらも、後ろ手に扉を閉めて宮野の対面に回る。
東側の壁にはスチール棚が三つ並び、そのうちの一つは何かしらの冊子やファイルがぎっしりと詰め込まれている。
カーテンは開かれており、見ると窓も少し開いている。空気に若干のカビ臭さがあるので、宮野が開けておいたのだろう。
机の上には閉じられたノートパソコンとプリンター、宮野の前には弁当と思しき巾着袋がある。

溝口が腰を下ろすのを待って、宮野が口を開いた。
「何かやってくるとは思ってたけど、ちょっとひどくない?」
既に、溝口が何かを仕掛けたという前提で切り出してくる。溝口は苦笑しながら答える。
「俺は嘘をついたつもりもないし、騙したつもりもないんだがな」
「屁理屈じゃん…!」
宮野は口を尖らせるが、その事で溝口を追及するつもりは無いようだった。ともかくもこれである程度は納得をしているらしいのである。幾分、というよりもかなり拍子抜けする展開ではあったが、そのようになると考えて仕向けたのは自分なのだから、警戒をしすぎたという事なのだろう。
となれば、溝口としては余計な事を言わずに有耶無耶にするのが無難な所であった、のだが。

「で、どう思う?」
溝口は尋ねた。余計な一言だとはわかっていたが、わざわざ呼び出しに応じたというのに二言三言で会話が終わってしまうというのが、どうにもつまらなく思えたからである。
「どうって…レーティアさんの話?なんで?」
そのため、なんで、と尋ね返されて、溝口は内心慌てた。宮野からすれば、レーティアの語った話は溝口の入れ知恵なのである。そこに疑問を持たせてしまうのはまずいのであって、ともすれば裏の裏をかかれて、ここまで順調だった計画がおじゃんになりかねない。
「いや、記事にしないのかと思ってな…」
咄嗟にそう答える。すると、宮野は大きく溜息をついた。
「あんなデタラメ、書ける訳ないでしょ…。いくら本人が実際にそう言ったからって、『ワタシはウチュウジンだ』なんて記事にしたら、私の方がバカみたいじゃん」
古いコメディのようなふざけた言い回しに、思わず溝口の口元に笑みがこぼれる。思いのほか宮野が常識的な捉え方をしている事がわかって、溝口の心中には余裕とともに多少の悪戯心が湧いてくる。
「そうか?エンタメ記事としてはウケるんじゃないかと思うがね」
「冗談でしょ?そもそもあからさまなデマなんか書いたら、掲示許可が下りないっての…」
不貞腐れた宮野の言に、溝口は声を出して笑った。

考えてみれば、校内新聞の内容に対して掲示を許可するかの審査があるはずだという簡単な理解が、溝口にはなかった。それは改変によって容易に破壊されてしまうシステムであったからなのだが、少なくとも宮野はまだそのシステムに縛られているのだ。
そうして宮野はまたひとつ、溜息をついた。

宮野が手元の巾着袋を開いて弁当を広げだしたので、溝口も昼食をとる事にする。総菜パン2個とパックのミルクティーをレジ袋から出し、包装を裂いて齧り付こうとした瞬間、宮野が質問を投げかけてきた。
「そういえばアンタさ、いっつも金欠だーって騒いでる割には、お弁当持ってこないよね。なんで?」
いつか、どこかで聞いたような些細な質問に、溝口は一瞬体を強張らせた。そして条件反射のように、何度も頭の中だけで反芻した言い訳を返す。
「なんでって…飯代をもらっといて節約すれば、小遣いになるだろ?弁当箱も荷物になるしな」
「それはまあ、そうかもだけど。アンタんとこのお母さん、専業主婦でしょ?お弁当持って行けって言われない?」
『言われなかった』溝口はその言葉をぐっと飲み込んだ。そんなのは、不貞腐れたガキの台詞でしかない。
「…ウチは放任主義なんだよ」
それもまた、いつか誰かに答えるために用意された言い訳だった。その言い訳をしたことが、今は自分自身にひどく堪える。

「そういえばさ、アンタいつの間に白里さんと仲良くなったの?」
食事を終えた宮野がそんな質問を投げてきた。こちらの事情や状況を探られているような雰囲気を即座に感じて、溝口は慎重に答える。
「いや…別に、仲良くなったって覚えはないんだが…」
「そう?知り合いではあるんでしょ?」
「まあ、連絡先の交換くらいはな。先々週あたり、相川達と図書室でテスト勉強してたら、たまたま同席したというか…」
「あ!それってもしかして、白里さんが泣かされたって話じゃない!?」
身を乗り出して食い付く宮野。しまった、と思った時にはもう遅かった。ここで誤魔化しても、いずれ近いうちに彼女はICレコーダーを携えて、嬉々として戻ってくるだろう。

溝口は机に肘をつき頭を掻きながら、なるべく妙な誤解や先入観を与えないように気を付けつつ、説明を試みた。
「白里を泣かせたってのは、誤解だ。あの時、話の流れで白里が泣いたのは事実なんだが、何と言うかな…。
 共感、そう、共感したんだよ。白里も学年トップを維持するのに色々大変だって話で、みんなで慰めてたら感極まった的な?
 やっぱこう、白里にも人には言えない苦労とか背景があるみたいでな。俺には実際よくわからんが、大体そんなとこだ」
宮野はその説明を頷きながら聞いていたが、溝口が口を閉じた瞬間、
「アンタ、嘘つくときそういう喋り方するよね」
と、ばっさりと切り捨てた。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/04/02(火) 21:42:29|
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