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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #54 ノルマ

カティルによれば、幹線道路沿いで何件か、高校生の求人が出ているようだった。それだけ世間も人手不足という事なのだろう。
今後の展開を考えて、学校から少し北にある大型ホームセンターに決める。高校生界隈ではあまり用事のない店であり、なおかつ自分にとって必要なものがある程度揃っているからだ。時給はそれなりだが、時間に融通が利くのは大きい。

翌日、履歴書を鞄に入れて登校する。この日はやる事が大きく二つ。
未だ悩んでいる様子の相川は放置。いずれ自己解決するだろうし、焦点が来ない以上こちらから関与する必要性は薄い。
レーティアは相川を気遣っており、宮野との事は気にしていない様子である。レーティアからすれば宮野には自分の正体を知られたという認識だろうが、そこについても今はフォローする必要はない。ファンクラブの件については聞いていないようだ。
川上と牧村はオカルト研究会について話し合っている。これについても当分は放置でいいが、相談されれば手助けをする用意はある。少なくとも部活については、確実に達成して貰わなければ困るからだ。

ともかくも溝口は、教室の中をぐるりと見回した。そして、その生徒を発見する。
沢木泰三、いかにも適当につけられた名前である。低い身長と細い目が特徴といえば特徴だろう。
後藤進のものだった席に座り、後藤の友人だった和田や中本と親しげに雑談を交わしている沢木という人間は、果たしてわざわざ新規に作られなければならない存在だったのだろうか?それでは、溝口という人間はどうなる?

《理由はわかりません。推測ですが、相川さんの主観がある程度影響している可能性はあります》
(あいつの認識範囲に俺は入ってた、それだけの事か?)
《元々の相川さんにとって、貴方は同種の人間だったのでしょう》

納得できるような、そうでもないような憶測。だが、とりあえずの気休めにはなる。
後席の相川をちらと見やって、溝口は重い腰を上げた。

「なあ沢木、ちょっと話があるんだが、いいか?」
さも普段から話し慣れているかのような馴れ馴れしさを、腹の奥から絞り出す。沢木は仲間との会話を一旦止め、少し驚いたように溝口を見上げた。
「…おう、溝口じゃん。何?」
その反応は、クラスメイトとして以上の認識に基づいている事を確信させる。レーティアの近くにいる事で、ある程度の注目を集めているのは間違いない。
若干の萎縮を押し殺しながら、飄々を装って顔を近づけ、小声で要件を伝える。
「お前を男と見込んで頼みがある。レーティアのファンクラブを作ろうと思ってるんだが、その代表を任せたい」
「ファッ…!?」
「シィッ!!」
大声を上げる沢木を素早く制止する。なんだかんだ言葉を最後まで聞いてくれるのは、漫画的反応なのだろう。そういうシステムが既に浸透してしまっている…。

「落ち着け、この話が他所に漏れると面倒な事になる。正式に立ち上げるまでは最小限で進めたい」
「お、おう。確かにな。それで、俺はどうすればいい?」
物分かりのよい、というよりも疑う事を知らないのかもしれない。手応えのない会話である。
「そうだな、とりあえずは非公式って形で、水面下でメンバーを集めてくれ。こっちの段取りと準備が出来次第、レーティア本人の承認をとりつけて公式に格上げする」
「レーティアさんの承認…できんのかよ?」
疑いと、期待の混じった声音。なるほど沢木は、殊の外純情なキャラクターであるらしい。溝口はニッと笑って見せた。
「問題ない。既に根回しは済んでるし、後は俺らの本気度を見てもらえば、絶対に納得してくれる」
「そ、そうか。まあ溝口がそう言うんなら、大丈夫だな」
沢木の変な納得の仕方に、溝口は多少の動揺を覚える。

ともあれノルマをひとつ片づけて、席に戻る。ふと見ると、牧村と目が合った。事の成り行きを観察していたようである。
軽く肩をすくめて見せたその時、スマホに通知が入った。見れば、宮野からのメッセージである。

『昼休み、部室に来て』

フン、と息をつく。てっきり宮野は教室に殴り込んでくるかと思っていたからだ。
となれば、向こうもそれなりに頭を冷やした上で、こちらの真意を探りに来るという事だろう。こうなった以上どの道さほど大局に影響する要件ではないのだが、先日のリベンジということもある。
つまるところ、溝口にとってこの日最も重要な案件がそれであった。直接対決で今度こそ宮野を言い負かし、記事作成の意気を削ぐ。
大雑把なシミュレーションは何度もやってみたが、実際にどう転がるかはわからない。焦点下でなければアカシックレコードの未来予測はほぼ正確といえるが、断片であるカティルからその情報を引き出す事はできないし、こんな事で力を借りるつもりもない。
実際の所、溝口はこの状況を楽しんでいるのだった。

そうして少しの興奮があり、勃起をする。だが、下心によるものではない。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/03/20(水) 21:49:27|
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