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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #46 小さな仕掛け・1

牧村とマキについての会話の中で、溝口は一切口を挟もうとはしなかったし、話題が溝口に向かう事もなかった。牧村や溝口自身の事情はともかくとして、相川や川上がこの点について触れないのには若干の違和感もあり、また別の裏事情を感じさせる。
ともあれ、話題は再びファッションに戻っていき、相変わらず溝口と相川はろくに会話に加われないまま、各々手持ち無沙汰にスマホを弄っているのだった。

スマホの充電がそろそろ20%を切りそうというところで、時計は17時を回っていた。いい頃合いである。
「あー、俺、そろそろ帰るわ」
そう言って立ち上がると、続いて相川も声を上げた。
「俺も帰ろうかな。レーティアはどうする?」
「じゃあ、私も帰ります」
「そうね、もう5時過ぎだし」
レーティアに続いて川上も帰るという事になれば、お開きである。

帰り際、白里は牧村から、先程まで読んでいた本を押し付けられていた。
「それ、あげるから。今度一緒に服買いに行こうよ」
「え、あの…都合が合えば」
白里の臆し方は断り辛い様子と見えるが、牧村は気にしないだろう。
「そんじゃあな」
この場での会話を切り上げるためにも、溝口は適当に別れの挨拶をし、一足早くその場を後にした。これ以上の長居に意味はないのだし、どの道エレベーターが来るのを待っている間に他の連中も追いついてくるだろう。というより、待たない訳にもいかないのだが。

5人でマンションを出て、学校への道を戻る。道中はやはり女子のファッションの話題が中心になって、溝口と相川には口を挟む余地などなかった。相川は自分から話題を切り出すタイプではないし、溝口にしても特に話す事など無いのだから、結果論でもある。

「白里さん、紗雪と服、買いに行くの?」
川上が尋ねると、白里は明確に困惑した顔を見せた。
「うーん…どうなんでしょうか?私、牧村さんの事、まだあんまりわからなくて…」
「まあ、それはそうかもね。ちょっと押しの強い所もあるし…でも、悪い子じゃないから」
その川上の言い分を聞くに、取っ付きの悪さについては既に共通認識と見ていいようだった。牧村についても、この3週間ほどで性質に変化があった事を伺わせる。

(牧村は、温和で取っつきやすいって性格設定だった筈だが)
《距離感が近過ぎるためでしょう。貴方のキャラが原因でもありますよ》
(ツッコミをやらされたから、という事か?それは俺のせいじゃないだろう)
《温和で優しい牧村さんが、貴方だけを露骨に嫌っているという状況は、コメディになった筈でしょう》
(…全部俺が悪い、認めますよ。認めた上で、償うつもりは更々ないけどな)
その強がりは、覚悟というよりも諦めに近い。

学校前に差し掛かって、自転車が置きっぱなしの溝口と白里は相川達と別れた。自転車置き場に向かいながら、溝口は素早く思考を巡らせた。まだ、ここではまずい。
「白里の家って、どの辺だ?」
「平田です。小学校の近く…」
「平田か。橋越えて北行ったとこだっけ?結構距離あるんじゃないか?」
「自転車で、30分くらい…です」
「それなら俺と変わらんくらいか。俺は昭和台で、逆方向だけどな」
どうでもいい会話を交わしつつ、それとなく周囲に目を向ける。自転車置き場周辺には、人の姿はない。自転車はまだ10台ほど残っているが、置き自転車だろう。

自分の自転車には向かわず、それとなく白里の後ろにつく。念のため、視線を遮る遮蔽物は大いに越したことはない。
だが悠長にはしていられない。すぐにも白里は、後方の溝口を不審に思うだろう。仕掛けるなら今である。
「なあ白里。ちょっと頼みがあるんだが、いいか?」
溝口は、極力普段と変わらない口調で切り出した。すると白里は立ち止まり、怪訝そうに振り返る。不信感を与える前に、要件を使えなければならない。溝口は言葉を続けた。
「なに、簡単な話なんだけどな?来週月曜の放課後、レーティアを家まで送ってやって欲しいんだよ」
「レーティアさんを…?」
白里は一層不可解といった顔を見せる。それは当然で、相川ならばともかく、溝口からそのような事を頼む筋合いはないからだ。
やはり最低限の説明は必要になる。ここで全てを説明する訳にはいかないが、嘘をつく事もできない以上、慎重に言葉を選ばなければならない。万一にもこの依頼が他の者に知れれば、計画は失敗である。

「実はな、ちょっと今、面倒な事になってんだ」
溝口は少しわざとらしく声を潜める。
「新聞部の宮野って女、知ってるか?2-Cの奴なんだが」
尋ねると、白里は曖昧な表情のまま小さく頷いた。
「多分、知ってると思います。前に一度、取材だとかで話をした事があるので…」
「そうか。白里は2年の中ではちょっとした有名人だもんな」
心にもないお世辞。それで少しでも気をよくしてくれればという、打算である。白里のリアクションを待たず、続ける。
「その宮野なんだが、このところレーティアに付き纏ってる。レーティアに関する噂について、本人から直接話を聞きたいらしい」
そう言うと、白里はキョトンとした顔で訊いてきた。
「レーティアさんの噂って、何ですか…?」
ああ、と溝口は内心落ち込んだ。白里の人間関係が希薄なのは承知していたが、ちょっとした噂も耳に届かないレベルで孤立しているとは思わなかったからだ。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/02/05(火) 21:07:25|
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