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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #43 カラオケ戦略

まずは滞りなく状況を進めるため、カラオケの受付方法について刷り込みを行った。短時間の部分的行動に絞ったのは、その方が記憶領域への負担が少ないからである。
溝口の目的は、カラオケで最低3時間もたせる事にあった。そのためには常に場を盛り上げ続けなければならない。受付一つ取っても踏み外す訳にはいかないのである。

先頭に立って滞りなく受付を済ませると、割り当てられた部屋へ移動して、そこでまたデンモクと呼ばれるリモコンの操作方法を刷り込んでおく。
ともかくも、まずは食事である。道中での協議の結果、大雑把に一人1000円の割勘として、パーティサイズの大判ピザ2種と山盛りポテト、サラダ2皿という注文になった。飲み物はドリンクバーである。
食べ物が来るのを待つ間に、溝口が歌の先陣を切る事にする。

曲の選定はかなりの難問である。特に一曲目となると、なるべく全員が知っている、最低でもどこかで聴いたことがあるレベルの曲を探さなければならない。と同時に曲自体のハードルが低くてノリやすい必要がある。
条件に当て嵌まってくるのはドラマの主題歌やCMソング、校内で局地的に流行っている曲、古いバンドの定番曲など。セールスランキングはアイドルグループとそのオタクに支配されているので一般に周知されていないものが殆どであり、全く当てにならない。

まず難しいのは白里である。カティルによれば彼女はあまりドラマを見ないタイプで、公にはしていないが深夜アニメを好む。見ている番組もCMも異なるので、世間のトレンドには疎い。
一方、もうひとつの懸念であるレーティアは古い曲については知らないが、持ち前の好奇心で最近の曲やトレンドについては熟知している。彼女であれば、知らない曲であろうとも問題はないだろう。
川上と牧村の趣味は殆ど同じである。二人は相互に情報交換をしているためだが、川上は密かに女性アイドルグループについて強い興味を持っており、牧村はマイナーめのロックバンドを好む傾向がある。当面この辺りは無視しても良さそうだった。
相川については良く判らないというのが実情である。彼自身の元々の人格は白里と同じくアニメ趣味なのだが、今の相川はキャラクターとして都合の良い存在に置き換えられているため、一般的な曲であれば対応はできるだろうと判断した。

そんな考慮と観察の結果、溝口とカティルが一曲目に選んだのは、時間帯を問わず流れるコンビニのCMに使われている、古い洋楽の日本語カバー曲だった。歌詞はともかくメロディについては広く知られているので、前奏の時点で「この曲か」とわかるのは大きい。
決定後即座に記憶の刷り込みを行う。これは実際に歌ったという記憶を取り込むもので、直後はモニターを見なくても歌詞がわかるようになり、歌い方については本人のものを可能な限りトレースする。訓練していない声帯では音域や声質までは似せられないので、結果的にはクセはあるが普通に上手いというレベルに落ち着く。席を立たず歌詞も見ずに歌えば、あたかも上級者のように見えるだろう。
これらにより「カラオケ慣れしている」という印象を周囲に与え、いざとなれば溝口一人だけで時間を稼ぐ事さえ可能とする作戦である。

この試みは上手くいった。溝口が歌い終わると自然に拍手が起こり、後に続こうとデンモクを手に取る者も出る。
「アンタ、結構やるんじゃん」
隣に座っている牧村が、そう言いながら肘で溝口の脇腹をつついた。褒められて悪い気はしないが、実のところカティル頼みの出来不出来である。
「サンキュー。好きなんだよこの曲」
中身のない返答。決して嘘ではないが、そんな理由で歌った訳ではない。

先の一曲によって場は暖まったが、なかなか次の動きがない。理由は簡単で、歌っている最中に店員が入ってくるのは嫌だからだ。
カティルの観測によれば、注文した品物が届くまでにはまだ5分ほどかかる。その間にもう一曲はいけるのだが、開始早々立て続けに二曲というのはあまりに独りよがりであり、避けたい所である。
しかしながら、雑談自体はそれなりに続いている。ことレーティアが先の曲に興味を持ち質問をしてくるので、適当に答えているだけでもなんとなく場がもってしまう。
であれば、急ぐ理由はない。本腰を入れるべきは食事の後であろう。溝口は手元のコーラをぐいっと飲み干すと、次の一杯のために部屋を出た。

再度コーラを手に戻ってくると、丁度相川が曲を入れ、モニターの前に出る所だった。近年人気のあるメジャー系ロックバンドで、昨年、映画の主題歌にもなった曲である。サビの部分だけなら溝口にも聞き覚えのあるものだった。
相川の歌は一応それなりに歌えているというレベルで、音程などはさほど外れておらず決して下手ではないのだが、表面をただなぞっているだけでこなれておらず、予想以上に華のない歌唱といえた。が、相川のテンションが高いのでそれなりに場も盛り上がっている。
そうして一回目のサビを過ぎたところでおもむろに部屋の扉が開き、店員が食べ物を持ってきた。
ワゴンで運ばれてきた皿がテーブルに並ぶのを待つ間、相川は歌うのを止め、笑ったような気まずいような顔で店員に会釈などしていたが、それで間が持つはずもなく、店員が退出した頃には2度目のサビが途中まで過ぎてしまっていて、盛り下がったテンションを立て直すのは不可能であった。

「タイミング悪いなぁ…」
溜息をつきながら腰を下ろす相川に、溝口は励ましの声をかける。
「カラオケあるあるだよな。飯食って立て直そうぜ」
「だな」
相川は苦笑いをしつつも、目の前のピザに手を伸ばしていく。

苦しんだ結果がこの出来か、と正直しんどい
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/25(金) 22:21:45|
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