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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #42 大通りへ向かう

正面玄関を出た所で、相川が溝口に尋ねた。
「それで、どこに行くんだ?」
「とりあえず飯だな。大通りの方出ればすぐファミレスもカラオケ屋もあるし、まあ道々決めようや」
溝口にしてみればどちらでも良いのである。この打ち上げ自体には何の意味もないからだ。
大通りというのは、泉光高校における幹線国道の俗称である。徒歩で15分かかるが、泉光高校の生徒は何かあればとりあえず大通りまで行くというのが定石であった。溝口にはそのような放課後に付き合った経験はなかったが、何度かは自転車で通った事もあり、一応どんな店があるか位は知っていた。

「あの、私、自転車なんですけど…」
白里がおずおずと口を出す。他のメンバーが徒歩なのを知っているので、自分一人だけが自転車を押していくのは気が引けたのだろう。すかさず溝口はフォローを入れる。
「俺も今日はチャリ通なんだよな。急ぎでないなら置いていこうぜ、帰りに取りに来ればいいし」
「あ、じゃあ、そうします」
狙い通り、白里はこの提案をすんなり受け入れた。溝口にしてみれば今日一日でここが最も大事なところだったので、ひとまず目途がついた事に内心ホッとする。後は状況を見つつ、切り上げ時を間違えなければよい。

「そうなると、カバンも邪魔じゃない?」
おもむろに牧村がそんな不満を口に出すと、川上も乗ってきた。
「上着ももう暑いしね。明後日から衣替えだし」
「けど、また教室に戻って置いてくるのか?」
相川がいかにも面倒くさそうにぼやくと、牧村は呆れたように言葉を返す。
「そんな訳ないでしょ?私の家が通り道だから、ちょっと寄って行くのよ」
「サユキのおうち、ですか?行きたいです!」
レーティアは好奇心が刺激されたのか、無邪気に喜んでいる。
「はいはい、じゃあ行きましょうね。でも、荷物置いて行くだけだからね?」
そうやって上手にあしらう川上の姿は、まるで姉か母親のようでもあった。

雑談を交わしながら歩いていく。学校から大通りへと通じる道には歩道がなく、車通りこそ少ないものの、あまりにも自由に横に広がって歩けば顰蹙モノである。そのため自然と前後3人に分かれる形になり、この並びは図書室でのそれと同じになった。
傍から見れば、男子二人が両側に女子を侍らせて歩いていると見えるだろう。事実その通りではあるのだが、当事者の溝口からすれば非常に居心地の悪い状態であった。

やがて牧村のマンションに到着する。
清潔なエントランスからエレベータに乗り、7階へ。712号室が牧村の家ということである。
「このところちゃんと掃除できてないから、少し散らかってるけど…」
先もって言い訳をしながら牧村が扉を開けると、そこには言葉とは裏腹にきちんと整理された玄関があった。恐らく、こうなる事を見越して昨日か今朝のうちに、掃除しておいたのだろう。そうと判るのは、靴箱の上には明らかにほとんど減っていない消臭ボトルが置かれていて、それとは別の消臭スプレーの匂いも残っていたからである。
「ここがサユキの家ですね。お邪魔していいですか?」
レーティアは目を輝かせながら、牧村ではなく川上に許可を求めている。ここまでくると傍目には子犬とその飼い主のようで、二人の間には、既にそのような上下関係が形成されているようだった。川上は子供に言い聞かせるように答える。
「だーめ。もうお昼なんだから、先にごはん食べないとでしょ?」
「ここじゃ駄目なんですか?」
レーティアが食い下がると、牧村は苦笑いを見せた。
「ごめんね、私、普段料理とかしないからさ。何にも無いんだよね」
「そうですか、残念です…」
そう言うレーティアは心底残念といった顔で、ひとまずは引き下がった。その姿はまるっきり叱られた飼い犬である。そのようにデザインをされているのか、あるいは王家という環境で象徴として生きてきた設定がそのようにさせているのかは、溝口には判断のつかない所である。

荷物と上着を置かせてもらい、マンションを出る。いまだ名残惜しそうなレーティアに、相川が慰めの声を掛ける。
「レーティア、後でまた来るんだから…その時に上がらせてもらえばいいじゃないか」
「はい…」
レーティアは渋々頷くが、家主である牧村の意思は無視されている。溝口は牧村に顔を近づけて、小声で尋ねた。
「大丈夫なのか?」
「まあ、今更駄目とも言えないでしょ。…大丈夫かって、どういう意味?」
「玄関、わざわざ掃除したんだろ?他の部屋は片付いてるのか?」
溝口がそう指摘すると、牧村の顔はみるみる赤くなる。
「な、なんでわかって…!大丈夫、大丈夫に決まってるでしょ!リビングも掃除したし、不燃ゴミもちゃんと捨てたし!」
その慌てぶりを見れば、日頃のズボラ加減もわかろうというものである。溝口はクスリと小さく笑いを漏らしつつ、全て理解したという風に頷いて見せた。
その様子を白里に見られていたかもしれないが、今は問題にはならない。

が、打ち上げの後で牧村の家に立ち寄るという事であれば、多少は時間を使う必要もあるようだった。
「よし、そんじゃあカラオケでパーッと行くか!」
おもむろに溝口が声を上げると、各々から賛同の声が上がった。それぞれが空気を読んだという事情もあれ、異論を出す者がいないというのは有難いことだった。
もっとも溝口は、生まれてこのかたカラオケになぞ行った経験がない。歌に自信もなく、好きな曲さえ特に無いのだから、これは彼自身にしてみれば一大決心なのだった。
この難局を切り抜けるには、結局のところ、カティルによる記憶の刷り込みに頼るしかないのである。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/20(日) 21:54:54|
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