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Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #41 緩み

翌日、テスト2日目最終日。溝口は普段より10分早く家を出て、自転車で学校へ向かった。テスト後の打ち上げに備えてである。
坂道を下り、駅の横の踏切を渡る。コンビニのある交差点を西に曲がり、2分程度で川沿いの堤防に設置された自転車道に出る。
逆に、東へ進めば5分ほどで幹線国道に出る。朝は時間の都合上、そちらを通る事はない。

このところのジョギングとランニングの成果か、自転車を漕ぐ速度が明らかに上昇していた。カティルの助言により、サドルを足が届く限界まで高くしたのも功を奏している。サドルを高くすることでペダル踏み込み時に余計な力がいらなくなり、より速く、そして疲れにくくなるのである。
以前は自転車を運転している間もちょくちょくスマホを操作していたので、サドルを低くして常に両足がつけられる状態にしていた。その方が不意の状況に対処するにも安全だったからである。
しかし今は、スマホなどは単なる連絡手段でしかない。自転車の運転に集中できるようになって、ようやく中学の頃から乗っていたこの自転車本来の性能というものを知ったのだった。

結果、自転車による通学時間は22分にまで縮まった。以前は急いでも25分、しかも効率の悪い漕ぎ方で汗だくになっていたのだから、大きな進歩である。この分なら最短で20分を切れるかも知れず、そこまで行けば、場合によっては電車を使うよりも早いだろう。アルバイトで資金を貯めて安いクロスバイクでも買ったならば、15分台さえ見えてくるかもしれない。
そこまで行くと冗談のようにも思えるが、いつ時間経過が発生するか知れないという不安を抱えている以上、いかにして最速で学校に到着するかは文字通りの死活問題になり得るのである。

ともあれ、この日の重点はテストであった。そうしてそれは予定通りに開始され、滞りなく終わっていった。
最終の答案用紙が回収されていくのを見ながら、溝口は大きく伸びをした。手応えはあった。だが、決して充分ではない。
テストの間は沈黙を保っていたカティルに問いかける。

(やるだけはやった。どんなもんだ?)
《5教科合計364点、学年58位です。上位と言うには厳しいですが、貴方自身の本来の成績から考えれば、この内容はお見事と言うべきでしょう》
(終わった直後に結果が解るってのも味気ねえもんだが、正確な結果を知るって点では今しか無いのかもな…)
《さて、どうでしょうか。いずれにせよ、このテストには興味深い点がいくつかありました》
(深度がどうとかって話か。どうなったんだ?)
《まず、今回のテストは非常に平均的なものであった、と前置きしておきます。それはつまり、本来この高校で出題されるよりも若干レベルの高い内容だったという事です》
(ああ…この学校、レベル低いもんな。それで?)
《その上で、テストの内容と白里さんのノートはほぼ相互関係にありました。これにより、この高校自体の偏差値そのものが、白里さんの登場によって引き上げられたと考えられます》
(たった一人の登場でか?)
《彼女が設定される際に、彼女を基準とした学力の再計算がなされたのかも知れません。勉学に一途という設定も、舞台が平均未満の学校というのでは引き立ちませんからね》
(つまり…この学校は比較的レベルの高い高校になった、という事か?)
《あくまで平均的な位置付けという事ですから、偏差値で言えば55前後といった所ですが…》
(偏差値で言われてもよくわからん)

改変の起こる前、前回のテストでは、5教科合計で241点、学年126位という結果であった。そこから比べれば雲泥の差、しかもテストの難易度が上がっていたとなれば、溝口にしては会心の出来といえる。過去これほどテスト勉強をした事はなかったし、記憶の刷り込みによるインチキもやったとはいえ、こうも明確に手応えがあるというのは、単純に喜ばしいものである。

こうなれば、俄然勢いがつく。溝口は手早く筆記用具を鞄に放り込んで、後席の相川へと顔を向けた。
「よう、どんな感じだ?」
問いかけると、相川は肩をすくめて苦笑する。
「いやー、まあ、いつも通りかな…」
溝口は軽く頷くと、次いでレーティアにも同じ質問をした。
「レーティアはどうだ?初めてのテストだったろ」
「はい、殆どはできたと思います。アラタはご機嫌ですね?」

一瞬の沈黙と困惑。
アラタ、という言葉の指しているものが自分だと理解するのに、ひと呼吸ぶんの時間が必要だった。レーティアは他人について、下の名前を呼び捨てにするキャラクターだという理解はあったが、いざ自分がそのように呼ばれてみれば、違和感しかないのである。
「あー…。まあ、なんつーか、割と調子は良かった方だな。いやー、これで気分良く打ち上げができるってもんだ!」
溝口は先程の戸惑いを誤魔化すように、明るく言い放った。

暫くして、担任の小諸が教室に入ってくる。
「はーい皆、お疲れさん。…えー、私からは特に何もありません。テストが終わったからってあまり羽目を外さないように、以上!」
それだけ言うと、小諸は生徒たちの礼も待たずに教室を出て行った。号令をかけ損ねた牧村は、周囲を見回して苦笑するのみである。
それで三々五々、なんとなく解散という形になった。

牧村と川上が駆け寄ってきて、担任への愚痴をこぼす。
「小諸先生、さすがにちょっといい加減だよね」
川上が呆れたように溜息をつくと、牧村は先程のように苦笑して言う。
「私としちゃ楽なんだけど、クラス委員としての立場がないのよね…」
その言い草に、気が緩んでいた溝口はついケラケラと笑ってしまう。
「ちょっとぉ…!」
牧村は咎めるように言うが、相川やレーティア、川上までもが笑い出したので、この場は笑って済ませる形に落ち着いた。

連れ立って教室を出ると、廊下の先にこちらを見ている白里の姿があった。ちょうど自分の教室から出て、2-B教室へ向かおうをしていた所のようだった。
「よっしゃ、んじゃ行くか!」
溝口は先に立って歩き出す。

焦点は来ていない。ひとまず事件が起こる心配だけは、なさそうだった。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/16(水) 22:24:11|
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