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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #40 算段

階段を数歩降りた時点で危険だと判断したのか、牧村は握っていた溝口の左腕から手を離した。実際ひどく前方につんのめってバランスを崩しかけていた溝口は、それでどうにか姿勢を立て直す。
「あっぶねえ、下手したら落ちるとこだった」
階段を小走りに駆け下りながら小声でぼやくと、牧村は振り返りもせずに言った。
「下りでやるもんじゃないわね…ごめん」
「マンガだとよくあるパターンなんだけどな。実際やると身長差やら高低差がダイレクトだぜ」
溝口は牧村が状況を深刻に捉えすぎないよう、冗談めかして答える。

下足箱で手早く靴を履き替え、突っ掛けのままで歩き出す。爪先を数度床に打ち付け、踵を入れる。
踵を踏んで歩くわけにもいかない牧村を待って、足早に校門を出た。説明を求められた以上、必然的に牧村を送る形になる。

しばらく歩いた所で、牧村が口を開いた。
「それで、例の件って何?」
「ああ。宮野がレーティアと直接話をする機会をつくる、そういう約束があんだよ」
溝口は率直に答える。この件についてはぐらかすのは簡単だが、労力の割に意味はないと判断したからである。
が、この内容を聞けば、牧村が懸念を持つのは当然といえた。
「…一応聞くけど、なんでそんな事になってんの?」
牧村がつとめて冷静を装っているのがわかる。となれば、極力刺激を与えない言い回しを考えなければならなかった。

(せめて、少しは怒ってくれるとやりやすいんだが)
《判断力を失っている相手は御しやすいですからね》
(そういう意味じゃねえんだよ…くそ)

「結論から言えば、ちょっと勝算が見えたんでな」
溝口はそう切り出した。過程をあれこれ話すよりも、この方が話がスムーズになると思えたからだ。
しかしやはり、牧村の疑いを晴らすには至らない。
「勝算って、それどういう意味で?」
口を尖らせる牧村を黙らせるには、明確に言い切る必要がある。確信の持てる考えではなかったが、押し切るしかない。
「レーティアの正体を公表させないって意味だ」
「公表させない?知らせない、じゃなくて?」
「そうだ。要するにだ、宮野がレーティアの正体を知る事自体は問題じゃない。問題はその情報をゴシップにされる事だからな」
この理屈に、とりあえず牧村は納得した様子である。だが、理屈だけで問題が解決することはない。
「それはわかるけど、どうやるつもり?宮野さんを止める算段があるって事よね、それ」
「算段は、ある」
再度、溝口は断言した。

それから牧村は何事かを思案し、両者無言のまま数分が過ぎる。どこかの庭に生い茂る柿の木の向こうに、牧村の住むマンションが見えてきていた。
すると牧村が歩く速度を緩めたので、溝口は内心舌打ちをしつつもペースを合わせた。何かまた面倒な事に思い至ったに違いないのだ。であれば、長話になるのは避けたい。
「…アンタの話だと、宮野さんとレーティアを直接会わせるって事よね。それって、一対一ってこと?」
「向こうはそう考えてるかもな」
間髪入れず溝口がそう答えると、牧村は一瞬クスリと笑ったが、すぐに元の澄ました顔に戻る。
「なるほど、そこがアンタの作戦の肝って訳ね」
いつもの、わかったような台詞である。それはあながち外れてもいないが、100点の回答には程遠い。
だが今は、牧村を少しでも良い気分にさせておいた方が得だろう。
「そうだ。レーティアにはサポートをつけて、俺が場をコントロールする。約束を反故にはしないが、宮野の奴には無駄足を踏ませてやる」
肝心な部分は濁しつつ、きっぱりと言い切った。

それで牧村の方も溝口の意図を汲めたと感じられたのだろう。
「そ、随分とやる気になってるみたいじゃない。…いいわ、信じたげる。その代わり、失敗したらただじゃおかないわよ」
冗談を言うように、しかしきっちりと釘を刺して、牧村はすっと歩を早めた。その後を追うように、溝口も歩を強める。

マンションの前。
「じゃ、当面は明日のテストを頑張るって事で」
「ああ、そんじゃな」
軽口に頷いて牧村と別れ、もと来た道を引き返す。今後このような事が続くとすれば、電車よりも自転車で通学した方がいいのかもしれなかった。

牧村のマンションからもう5分ほど進めば幹線国道に出る。そちらに出れば飲食店や大型のホームセンターなどがあり、アルバイトの募集もあるだろう。
幹線国道を南進すれば、溝口の住む昭和台へは30分程度である。幹線国道に出るルートよりも川沿いを行くルートの方が信号もなく早いため、電車に乗り遅れて自転車で登校する際は川沿いルートしか選択肢がない。
以前の溝口は、無気力に家と学校を往復するだけの生活を続けており、学校帰りにどこかに寄るという思考が無かった。しかし現在、溝口は已(や)むに已まれぬ事情によって行動半径を広げる必要に駆られており、またそのための資金も不足している。
となれば、定期券を返却して返金してもらい、以後は自転車通学をする方が効率的に違いない。

だが、それを踏ん切るには、今少しの決心が必要である。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/12(土) 20:18:32|
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