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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #37 勝手な話

舌と喉の激痛に耐えながらも着実に食べ進めた結果、普段の倍ほどの時間がかかりながらも、どうにか麺だけは食べきる事ができた。
汗だくになった溝口に対し、牧村は悪戯っぽく言う。
「当然、お出汁も飲むんでしょ?」
「そっちに向かって吹き出してもいいんなら、やってみてもいい」
溝口は呆れつつそう答えると、しかしものの試しにと一口だけ汁を啜り、顔をしかめてみせた。
「…ん、やっぱ無理だわ。さすがにもう限界」
「やっぱダメかー」
牧村はケラケラと笑った。

食事も終わったので片付けるために席を立とうとした途端、牧村が小さく「あ」と声を上げた。その視線の先を辿ると、風紀委員の新垣がこちらに向かってくる所に目が合った。彼女は自身の昼食と思しきトレイを抱えており、牧村のふたつ隣に無言で腰を下ろした。新垣の昼食は天ぷら蕎麦である。

「溝口新と牧村紗雪か。何故残っている?」
初めて聞く新垣の声は、いかにも格好をつけている風で、威圧的である。風紀委員と確執がある設定の溝口はともかく、牧村についても何かしら関係性があるようだった。
「テスト勉強です」
牧村は平然と、しかし言葉少なに答えた。すると新垣は牧村と溝口を交互に見、疑わしそうに言う。
「テスト勉強?君はともかく、溝口がか?」
妥当な反応と言わざるを得ない。溝口自身、自分が今ここにいるという事については違和感しか感じていない。
しかし牧村は何が気に入らないのか、新垣に食いついていく。
「溝口って、こう見えて結構成績いいんです。日頃からちゃんと努力してますから」
そんな話は初耳である。新垣もこれには驚きを隠せない様子で、訝しげな自然を溝口に向けた。
「努力…ね。確かに、要らん小細工にかけては我々も随分と煮え湯を飲まされたものだが…」
そんな話は初耳であり、溝口には全く身に覚えもない。一体どんな出鱈目な設定を盛られたのかわからないが、少なくとも評価されているのは間違いないらしかった。無論、悪い意味でだが。
「だが、今年度に入ってからは校則違反もしていないようだ。宮野の方も君が部を去ったことで無茶な事はしなくなったし、新聞部を辞めたのは正解だったようだな」
そんな感じの話か、と内心納得しつつ、溝口は「はぁ…」と苦笑を返した。まるで知らない話なのだから、返す言葉などありはしないのだ。

にも拘わらず、この件について牧村は突如猛反発を繰り出した。
「溝口が部を辞めたのは、別に風紀委員のためじゃないでしょう!外野が事情も知らないのに、勝手な事言わないで貰えますか!?」
その剣幕は大したもので、新垣は大いに面食らった様子だったが、他ならぬ溝口が一番驚いた。内野も外野もなく、そもそも知らない舞台の話だからである。
こんな調子で場が荒れるのは面白くない事態である。身に覚えがないとはいえ、口論の主題は溝口というキャラクターにあるのだから、放っておけばますます面倒な事になるのは間違いなかった。
とはいえ、なあなあで済ませようとするのも心証が悪いに違いない。仕方なく溝口は、ここは牧村の肩を持つ事にした。
「風紀委員にも風紀委員の都合があるとは思うんですが、こっちもこっちの事情でやってる事です。校則がどうとかは俺には関係ありません。それが必要なら、いつ何時でもやってみせるってだけです…失礼します」
返事を待たず、溝口は席を立った。これで風紀委員との確執は一層強固なものになっただろうか?しかし少なくとも焦点の下ではないのだから、その場限りの関係性に過ぎないはずである。

学食を出たところで、牧村が申し訳なさそうに言った。
「ごめん、なんか変な感じにしちゃったみたい」
「別にいいって。どの道合わねえんだから、あの人達とは」
溝口は表向きそう答えたが、実の所は新垣はもとより他の風紀委員についても全く知識がないのだから、感想など持ちようもない。

鞄など残してあるため、教室へと戻る。その間廊下を歩いている生徒は一人もおらず、教室に残っている生徒も殆どいなかった。
2-B教室には既に誰もおらず、がらんとしている。
「どうする?図書室行くか?」
尋ねると、牧村は肩をすくめて答える。
「本読む訳じゃないし、今日は図書室よりこっちの方が静かじゃん」
「そりゃそうだ」
言いながら溝口は少し考えて、
「俺がそっち行くか?」
と問うと、牧村は自分の席に向かいながら
「相川の机借りる」
と答えたので、溝口は自分の机を反対に回して相川の机と向かい合わせにした。
図書室であれば対面より隣の方が作業しやすいのだが、教室でふたり横並びになるのは不思議と違和感がある。恐らく、その理由について考えるのはあまり意義のある事ではない。

牧村はこの状況について特に何も言わず、当然のように相川の席に腰を下ろした。牧村の身長は相川とほとんど変わらないので、本人としても特に不便や違和感はないらしかった。
「じゃ、英単語からやろっか」
そう言うと牧村は手製の単語帳を取り出し、英単語を読み上げ始める。基本的だが、図書室ではできない勉強方法である。
無論、正しい発音ができなければあまり意味のない方法でもあるが、その点牧村は自信があるらしかった。
多少わざとらしい位に強調された発音を聴きながら、溝口は牧村の英語に対する本気度をなんとなく理解したし、このようなコミュニケーションは白里には難しいだろうな、と思いもした。

(そういや、白里は今図書室にいるのか?)
《はい。一人で勉強しているようです》
(昼飯はどうしてた?)
《一旦は学食に行ったところ、思い直して購買でパンを買ったようですね》
(…何だかなぁ)

知らなくてよい事ではあるが、知る手段があれば知りたくなるのが人の業というものだ。しかし溝口には、白里に対して何かをしてやれるような環境も、腹案さえも無いのだった。

(白里は、わりと好きなタイプなんだがなぁ)
《本来、貴方とは似た者同士でしょうからね。お互い自発的に距離を詰めていく性格ではないですから、この分だとテストが終われば接点がなくなります》
(そうか、だから馬鹿なトラブルメーカーが必要になるんだな。嫌われてでも無理やりに切っ掛けをどんどん作っていくキャラクターが…)
《貴方がその役を降りたのでこうなった、とも言えます》
(こんな状況が続くと、キャラが増えたところで閉塞していく一方だ。いい加減な設定で作り出されて即放置というのでは、あまりに悲惨すぎる)
《では、貴方が頑張るしかないでしょう。それとも、事態が勝手に動くのを待ちますか?》
(これ以上、俺の知らん所で勝手な事をされたくない)

余計な感情移入だという自覚はある。けれども溝口は、改変者によって都合よく生み出された人々にもそれぞれの生き方があると知ってしまったから、可能な限りは庇護者にもなってみせようと思えたのである。
だが、そのためにはもう一つ、考えなければならない問題があった。
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  1. 2019/01/05(土) 16:10:29|
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