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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #36 学食のうどん

翌日金曜日より中間テストが始まった。2日間で8科目、両日とも4科目をやって午前中で終わりである。
1日目の試験が終わって皆が帰宅していく中、溝口もまた自宅で勉強をするつもりだったが、牧村に呼び止められた。
「溝口、もう帰る?残って明日の対策やってかない?」
溝口は一旦は手に取ったカバンを机に置き、少し考える仕草をする。瞬間、時間停止。

《焦点は来ていません》
(だったら受けなくてもいい話だな)
《しかし、後で焦点が発生する可能性もあるのでは?》
(まあ、否定はできんが…気乗りしねーんだよなぁ)
《あくまで判断はお任せします》

そうして時間が動き出すと、溝口は意を決して答えた。
「んじゃ、やりますか…」
この決断は、溝口にとっては断腸の思いと言ってよかった。どう考えても何かしら面倒のありそうな方向性である。必然性がないとなれば、わざわざ苦労をしに行く必要など無かった。
それでも溝口が敢えてこの決断をしたのは、面倒だからと逃げていてはこの先起こりうる事態に対応できないかもしれない、という危機意識と、あくまでグループでのテスト勉強という名目であれば逃げ道はあるだろう、という楽観があったからである。
だが、ここにきてようやくひとつの問題に気が付いた。何故牧村が誘ってきたのか、という疑問である。その瞬間、溝口は自分がとんでもない失敗をしたのだと理解した。
最早確認するまでもない事実だったが、溝口は一縷の望みをかけて牧村に尋ねる。
「…相川達は来るのか?」
「さっき帰っちゃったじゃん」
牧村は「なにを今頃」とでも言う様に、呆れた顔をした。

昼間なので、まずは昼食をとるために2人で学食に向かう。以前、風紀委員に対処するための相談をした時、牧村は自身の母が作ったものという弁当を持参していた。だが、その後で一人暮らしをしているという設定が追加されたために、このところは専ら購買を利用しているようだった。
「私、学食ってあんまり使った事ないんだよね」
おもむろに牧村がそんな事を言い出したので、溝口はとりあえずその話題に乗っておく。
「川上は弁当持ちだしな。別に、学食で弁当食ったって構わんだろうに」
「それはそうなんだけど、そういうんでもなくて。ジロジロ見られたり声掛けられたりするのが嫌なの!」
牧村は怒ったように口を尖らせた。しかし、溝口からすれば違和感のある話である。
「言ってもそんな見られるか?飯食ってる時に知らん奴から話し掛けられるなんて、そうそう無いだろ」
猜疑的に言うと、牧村は溜息をついた。
「普通はそうなんだけどね…。こっちは去年のモデル疑惑やらで、変に注目されちゃってんのよ。瑞穂だって結構モテるタイプだし?混んでるから隣いいですかー、なんて下心ミエミエだっつーの」
「ああ…」
溝口はわかったような顔で頷いて見せたが、実の所モデル絡みの件には心当たりが無く、下心については「お前がそれ言うか?」と言い返したい気分をぐっと堪えた。

学食はがらりと空いていた。既に大半の生徒は帰宅しており、部活や委員会もテスト期間中は休止になっているため、わざわざ学校で昼食を買ってまで残ろうという者はほとんどいないのである。
食券の自動販売機の前に立ち、牧村は溝口に尋ねる。
「溝口的には、何かオススメとかある?」
「オススメねぇ…」
溝口は自販機のボタンに記されたメニューを見ながら思案する。

かつて溝口は、学食をよく利用していた。教室に一緒に飯を食べる友達もいなかったので、昼食は常に学食で摂っていた。が、学食のメニューについては一通り試したことがあるという程度で、普段は購買で買ったカップ麺だけで済ませていたのである。
そのため、どれが良いかと問われても即座に答える事などできない。男子の視点でいくと味は二の次でコストパフォーマンスが重視されるものだし、その点では170円の素うどんなのだが、ただ安いというだけで選ぶというのは相手の好みや懐事情を無視しており、オススメと呼べるものではない。

苦心した結果、溝口は苦し紛れの言葉を口にした。
「そうだな…とりあえず日替わりAが無難じゃねーかな。今日は鶏唐だし」
「へー。ところで溝口は何にすんの?」
「俺は素うどんだわ。一番安いしな」
「じゃ、私もそれにしよっと」
牧村は言いながら小銭を投入し、ボタンを押す。溝口は「え、何それ」という言葉をぐっと飲み込んだ。

カウンターで品物を受け取って先に行った牧村は、最奥列の中ほどに席を取る。ガラガラの学食で何故わざわざ遠い所まで行くのかは不明だが、恐らく彼女なりに他の者に近寄られたくない等の理由があるのだろう。
そんな事を考えながらうどんに七味を振りかけていたら、見るとかまぼこの上に小さく七味の山ができていた。思ったより七味の出が良すぎたらしい。

少し迷って、牧村の正面に座る。溝口の器に盛られた七味を見て、牧村はケラケラと笑った。
「何それ。アンタ辛党だったっけ?」
「思ったより出過ぎたんだよ…。食えない事はない、と思う」
溝口は言いながらうどんに箸を突っ込み、掻き回す。七味が全体にばらけて一見それほど辛くないように見える。
恐る恐るうどんを一本口に入れてみると、刺激はあるが思った程の辛さではない。しかし飲み込む際、強烈な刺激が喉に突き刺さる。迂闊に啜り込もうものなら、確実にむせて噴き出すだろう。この状況では絶対に許されない行為である。
「どう?いけそう?」
心配そうな牧村に頷きを返しつつ、溝口は体を少し斜めに向けた。万が一を考えての事である。

落ち着いて、少しずつゆっくり食べれば大丈夫。あまり余裕は無いが、幸い時間は充分ある…。
決意する溝口の額に、ひとすじ汗が流れた。やはり単純に辛く、あっという間に舌が限度を迎える。
こうなると水を飲みたくなる所だが、辛い物を食べている途中で水を飲むと耐性がリセットされてしまうため不可である。
あまりにもどうでもよい自業自得で窮地に陥った溝口だったが、この程度の苦しみは良い精神鍛錬になる、とポジティブに捉えて乗り切る事にした。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/03(木) 11:07:49|
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