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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #35 牧村と白里

果たして月曜の放課後、授業が終わるや否や溝口は一目散に図書室へ向かった。名目としては席の確保であるが、その実着席位置を変えるのが目的である。
卓は十分空いていたので、窓際の卓を確保すると共に、溝口は図書室入口から最も遠くなる左角奥の席に腰を下ろした。この位置であれば、先に来た者から順番に奥に詰めていくはずだからだ。
先週の形であれば牧村と白里に挟まれる形になるため、どちらかの相手をすれば必然的にもう片方を放置する形だった。しかし端の位置であれば、隣に来た者だけを相手にすればよい。対面に来られた場合でも、会話程度はするだろうがノートを見せ合うには向かないだろう。

ペンケースとノートを出して待っていると、相川達4人が一団となって入ってきた。手を挙げて呼び込むと、相川が溝口の正面を位置取った。
その隣にレーティアが来て、更にその横に川上である。牧村はさも当然のように溝口の右隣に腰を下ろした。
この形は溝口にとっては想定通りであり、理想的ともいえた。早速、不明点を科目別にリストアップしたノートを広げ、牧村の前に差し出す。
「何?」
牧村はそう言いながら視線を落とし、内容に目を走らせた。
「ざっと見た感じ、この辺りがよくわからんのよ」
昨日の話だとは言わない方がいいのだろう、と溝口は推測していた。牧村と川上の友人関係はともかく他の者からすれば、日曜に2人だけで一体何の話をしていたのかという話になりかねない。5人でのグループがあるのだから、1対1の内容はどうしても内緒話という事になるのである。
牧村はうんうんと頷くと、ノートを溝口の方へずらし、自分の教科書とノートを広げて説明に取り掛かった。自然、肩と肩を寄せ合う形になる。
「じゃ、頭から行きましょ。まずこれなんだけど…」
その時、図書室に白里が入ってきた。溝口が小さく「お」と声を漏らすと、牧村は白里にちらと視線を向けたが、まるで何も見なかったかのように、解説を続けた。

白里は小さく会釈をしながら残った一席に座り、あちらはあちらで何の問題もないと言わんばかりにノート類を広げる。
その後は溝口・牧村ペアとそれ以外、という形でこれといった引っ掛かりもなく、比較的静かに時間が過ぎていった。どうやら牧村と川上の間には何らかの暗黙の了解があるらしい、という事に溝口は気付いたが、その内容や経緯について考えるのは意味がなさそうだった。

翌日も溝口は図書室に急いだが、図書室へと向かう廊下で白里と鉢合わせた。すぐに牧村達も追いついてきたが、結果、前日の状態から牧村と白里が入れ替わった形の席順になった。白里は溝口の写すノートに対してあれこれと補足説明を入れる形で口を挟むようになり、その向こう側で牧村があからさまに不機嫌な顔を見せる。
しかも、普段の猫背気味の姿勢とやや太めの体形のため分かり辛いが、白里はなかなかの巨乳である。隣接した状態でペンを持つ右手を動かしていると、ただでさえ小柄な白里が溝口のノートを見るために身を乗り出して距離を詰めてきた場合、うっかり胸に接触してしまう危険性がある。
牧村の場合は胸自体はそこそこだが身長があり、隣り合わせても肩が触れ合う程度で済むのだ。
こうなる事は想定外だっただけに、それからの2時間半で溝口は大いに神経を擦り減らした。

そこで次の日は、溝口は最後に到着するようにした。しかしこの手は既に読まれており、先週と同じ席取りで牧村と白里の間が空いているのだった。これには対面3人の位置取りも影響していて、特に制約がなければ相川が真ん中に来るのである。そこで男子の正面は男子という暗黙の了解が働いて、真ん中が空いていても誰も疑問に思わない形が出来上がる。
どのような順番で席についたにせよ、白里が左側を選んだのは前日の件があったからだろう。
そうしてこの日は、対面の相川と同じように、両サイドからの解説とダメ出しを延々聞かされる羽目になった。

テスト前日の木曜日は、左奥で先に着席して待っていた所を、牧村の指示により白里と入れ替えさせられた。2者によるどのような協議の結果か、両側から挟んでスパルタ的な指導をするというのが最効率という事に決まったらしい。
「せっかく貴重な私の時間を削ってまで教えてあげてるんだから、せめて30位以内には入ってもらわないとね」
牧村がサディスティックな笑みを浮かべながらそう言うと、対照的に、白里は嬉しそうな顔をする。
「人に勉強を教えるのって、なんだか自分に自信が持てる気がするんです。30位以内、目指して頑張りましょう!」
このような状況になってしまえば、精神はますます擦り減っていく。唯一の救いは、本番はもう明日だという事だ。たとえ結果が出せなくても、とりあえず頑張っている姿勢さえ見せておけば、時間が足りなかったと言い訳はできるだろう。

しかしながら、本題はそこにはない。テストの点数や順位が妥当な結果として出る可能性を信じられない以上、その結果を求める努力が大きな意味を持つことはないのだ。
それよりも重要な、このタイミングで確認しておかなければならない事がひとつあった。

じき18時という頃になって、溝口は話を切り出した。
「明後日さ、テスト全部終わったら打ち上げやらないか?終わるの昼だし、ファミレスかカラオケでさ」
すると、まず相川が手元の問題集から顔を上げて、即座に賛同した。
「打ち上げか…いいな、それ」
川上と牧村もこれに続く。
「今回結構頑張ったし、パーッといきたいよね」
「結果が出るまでは安心できないけど…ま、終わった後でジタバタしても仕方ないか。いいよ」
レーティアはキョトンとした顔である。
「打ち上げ…?何を打ち上げるのですか?何かの記念でしょうか」
「レーティア…ここで言う打ち上げっていうのは、お疲れ様のパーティーみたいなもんだよ」
相川が説明をすると、レーティアは得心したように胸元で手を合わせた。
「そうなのですか。日本語というのは複雑なのですね…」
こうした流れはお決まりのパターンといえる。それと、こうなればもうひとつ。

「白里も来るよな?」
溝口が声を掛けると、白里はようやく顔を上げた。
「あの…いいんですか?私なんかが…」
自信なさげにそんな事を言う白里に、川上やレーティアが語気を強める。
「私なんか、って事はないと思うよ。白里さんのお陰で、今回はだいぶ捗ったんだから」
「マツリはお友達でしょう?それとも、私達と一緒に打ち上げるのはお嫌ですか…?」
「そ、そんな事は…ないです。一緒に行っても…いいんですか?」
白里はそう言うと、全員の顔に順に視線を向け…牧村を向いて動きを止めた。そんな露骨な事をされれば、牧村でなくても溜息くらいつきたくなるだろう。
「はぁ…いいに決まってるでしょ。遠慮なんてしなくていいって」
牧村は微笑みながら言ったが、苦笑であるのは一目瞭然だった。個人の意思に関わらず、そう言わざるを得ない状況だからだ。
「じゃ、決まりな。土曜のテスト終わったら、校門前に集合!」
溝口が締めて、この日の合同テスト勉強は終わりである。

(焦点はどうだ?)
《来ませんでしたね。こちらの状況を『見ている』のは確かだと思うのですが…こちらのこの行動は、改変者にとって都合が悪いのかも知れません。単に意図が読めていないだけかも知れませんが》
(とはいえ、このタイミングだ。あっちはあっちで予定があると考えていいだろうな。こっちはこっちで仕込みをしておこう)
《仕込みが生きれば良し、潰されてもそれはそれで良し、ですからね》
(潰されたら良くはないけどな…。まあ、織り込み済みだ)
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  1. 2019/01/01(火) 22:22:55|
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