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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #31 刷り込み

公立泉光高校では隔週で土曜授業があり、この週の土曜日は休みだった。
それでも、朝は同じ時間に起きてジョギングをする。朝食の後は時間をかけて新聞を隅々まで読んだ。
それから自室に戻り、テスト勉強をはじめる。とはいえ続発した時間経過のためにろくに授業を受けられていない現状、当てにできるのは教科書と手持ちの参考書だけである。書き写した白里のノートは限られているし、どこまで信頼できるのか不明である。

(やっぱ、実際の授業のノートが無いのはキツいな…ただでさえ俺の脳ミソは周回遅れだってのに)
《要点や補足が不明というのは辛い所ですね。そもそも貴方は基礎ができていませんから、わからない箇所がどこなのかさえわかっていないようですし》
(今更、中学の内容からやり直してる暇なんかねえんだよ。当面、目の前にある問題をなんとか誤魔化さねえと…)

溝口は参考書に線を引くべく蛍光ペンを持つが、そもそもどこを覚えるべきなのかさえ判別できないでいた。要点を絞って押さえなければ、結局は一から十まで丸暗記をするしかなくなる。

《でしたら、少し試してみたい事があるのですが》

珍しく、カティルからの提案である。となれば必然、嫌な予感しかしない。

(何だ?一応は聞く)
《はい。時間を止めている際の私達の会話は、実際にはこちらでシミュレーションした情報を貴方の記憶として挟み込んでいるという事は、以前説明しましたね》
(そこまで子細な説明だったかはわからんが、大体そんな話だったな。それで?)
《つまりこれは、時間経過時に世界中の人々が受け取っている『因果』を、こちらでも再現できるという事です。貴方自身の行うべきだった因果を忠実にシミュレートし、記憶に取り入れる事が可能なのです》
(…なるほど、そうなるのか。自分の記憶だけに限定はされるが、代わりに時間経過という現象を必要としない訳だ)
《そうです。ただし予想はされていると思いますが、これには難点、というか副作用が発生する可能性があります》
(だろうな。何だ?)
《貴方はこの記憶を、実際には存在しなかったものだと理解しています。それでも短い会話であれば違和感なく受け取れるでしょうが、それが長時間に及ぶものとなると、刷り込みだけでなく過去全ての記憶に対する主観を失うのではないか、と考えられるのです》
(主観を失う…つまり、自分の記憶ではなく他者の記録であるように感じるということか)
《はい。そうなれば、貴方は自分自身の記憶に対して常に違和感を感じるようになるでしょう。長期的には人格乖離、分裂が生じるかもしれません》
(最悪じゃねえか!お前、そんなヤベーもんを俺に試そうとしてるのかよ!)

《一応、この可能性を貴方が理解しておく事で、リスクはかなり軽減できると考えています》
(まあ、何が現実で何が嘘かさえわかってりゃ、混乱は少なくなるだろうが…)
《後は、私を信頼してもらうだけです。まずは軽めに1時間で試してみましょうか》
(ちょっと待て、俺はやるとは言って――)

刹那のフラッシュバック。記憶の奔流が一瞬にして脳に流れ込んだ。
直後、溝口は『呼吸の仕方を忘れた』。

《おっと、これは…すみません、一時間『無呼吸で』勉強したという記憶を刷り込んでしまいました》

再度、短い記憶の刷り込みが発生した。それはただ、数分間呼吸をしたというだけの記憶である。
しかしこれにより、溝口は再び自発呼吸ができるようになった。

(馬鹿野郎、殺す気か!)
《いえ、放っておいても死にはしませんでしたよ。今のは言うなれば『慣性』によるものです。過去に呼吸をしていた記憶は失われていないのですから、苦しくなれば自然と思い出したでしょう》
(くそ…だからお前は信用ならねえんだ)
《ですが、記憶についてはどうですか?》
(…成程、確かに1時間分、机に向かって勉強をしたって記憶がある。ご丁寧にストップウォッチまで使いやがって。時計もちゃんと止まってた)
《念のため、学習効率も上げておきました。どうですか?今の1時間分の記憶で、未理解だった中学時の内容については完全に理解できていると思いますが》
(本来の自分からは逸脱しているとわかる分、実感が沸かないってのが難点だな。けど確かに『覚えてる』。すげえな)
《どうやら、今のところは問題ないようですね。どうしますか?このまま高校1年の復習を行いますか?計6時間になりますが》
(…まあ、こんな感じなら多分大丈夫だろう。とりあえずまた1時間で区切ってくれ)
《わかりました。では始めます》

次の一瞬は、先程のような問題を発生させる事はなかった。
溝口は目を閉じて自分に刷り込まれた記憶を認識し、辿る。どうやら何の異常もないようだった。
部屋の時計を見ると、今はきちんと動いている。机に向かってから、わずかに4分しか経っていない。その間に2時間分の、しかも高密度の勉強ができているのである。

(…よし、大丈夫だ。こうもラクチンだと反則やってる気になるが、こっちが損した時間の分は取り戻させてもらう)
《では、続きといきましょうか》
(ああ。次は…そうだな、残りの半分で、2時間半でいこう)
《わかりました》

そうして3度目の刷り込みが行われ、直後、溝口は昏倒していた。

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  1. 2018/12/21(金) 20:57:11|
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