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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #29 お茶

学校から駅へ向かう道を、駅とは逆方向に10分ほど歩く。溝口はこの辺りに来た事がない上、周囲が暗い状況で牧村と会話しながら歩いてきたため風景を見ている余裕もなく、自分が一体どこをどう歩いてきたのかわからなくなっていた。
すると、高いブロック塀のある角を曲がった所で牧村の足が止まった。

「じゃ、私の家ここだから」
見ると、なかなかに立派なマンションである。建てられてから長くても5年といったところだろう。
「いいとこ住んでるなぁ」
見上げつつ率直に言うと、牧村は少し複雑な顔をした。
「けど、あんまり便利が良くないのよね。コンビニもスーパーも遠いし…一人暮らしには大変」
「そうなのか」
溝口は「そうだったのか」という言葉を飲み込んだ。友人関係である以上、牧村が一人暮らしであるという点については知っているべきだと考えたからだ。同様に、何故一人暮らしをしているかについても聞くべきではないと直感した。
「さて、そんじゃ俺も帰るかな…」
言いつつ踵を返すと、牧村が呼び止めてきた。
「ねえ溝口、せっかくここまで来たんだし、ちょっと寄ってかない?お茶くらいなら出すけど…」
ナンパかよ、という言葉をまた飲み込んで、溝口は振り返りつつ苦笑を返した。
「いやー、さすがに一人暮らしの女子の家に上がり込むってのは、悪りぃわ」
「そっか。だよね」
そう言う牧村は笑っているが、誘うにもそれなりの決意があっての事だろう。溝口は多少の罪悪感をおぼえる。
「んじゃ、また明日な」
「また明日。洗剤買って帰るんでしょ?忘れないように!」
冗談めかして言う牧村に、溝口は心の中で謝る。すまん、それも嘘だ…と。

(シンドい)
《なかなかの好感度ですね。友人関係であるのは間違いないようですが、問題の先送りという状態でしょうか》
(…どうでもいいだろ、そんな分析。それより帰り道教えてくれ)
《帰り道もなにも、校門を出て駅の反対方向に真っ直ぐ歩いてきただけですが…》

言われた通りに先程まで歩いていた道を真っ直ぐ進むと、やがて見知った道に出た。既に校舎の照明はほとんど消え、明るいのは職員室のみである。テスト期間に入ったので運動部ももう帰宅したらしかった。
スマホで時刻を確認すると、19時を回った所だった。帰宅部の溝口には、かつてこのような時間に学校周辺にいた事はない。校門の前に設置されているLEDの街灯が辺りを照らしているが、見える範囲に人の姿はなかった。
溜息をつきながら校門前を横切っていくと、不意に、視界の端に何か動くものが見えた。ギョッとして立ち止まり校舎の方を見ると、すぐそこに見知った顔がいた。

「…宮野?」
「溝口じゃん。アンタなんであっちの方から来たのよ」
内心安堵しつつ、溝口は宮野に対し、牧村を送って行った事については黙っていると決めた。
「そっちこそ、なんでこんな時間まで学校にいんだよ」
話を逸らそうとそう言うと、宮野はあからさまに不機嫌そうな顔でつっけんどんに答えた。
「ハァ?アンタ何言ってんのよ…。取材整理してたに決まってんでしょ」
そりゃそうか、そうだよな、という認識があった。溝口は不思議と愉快な気持ちになり、笑いながら言う。
「まあ、お前だもんなぁ。だいぶキツいのか?」
漠然と適当な質問を投げかけると、宮野は大きく溜息をついた。
「まあね。春季大会が終わって、ウチの運動部そこそこ強いじゃん?準優勝だベスト8だとかって、一応取材しとかない訳にもいかなくてさ。けどねー、んな記事誰も読んでくれないっての!」
見事な毒吐きに、溝口はゲラゲラと笑ってみせた。

歩きながら、宮野は愚痴を続ける。
「実際問題、運動部連中の自慢話なんて誰も読みたくないし。読者が気になるのは全国行くかどうかだけだっつーの。そんなんでも一応記事起こして体裁整えないと掲示許可下りないし、私が本当に書きたい記事はどうせ三面記事だし…」
慰めようと思っても、新聞部や新聞そのものについて知識のない溝口には、何を言えばいいのかわからない。仕方がないので相槌を打ちながら話を聞いていると、
「…アンタがいてくれれば、つまんない仕事は全部押し付けられるのに…」
と、冗談とも本気とも取れないような事を言われた。

交差点を曲がると、前方に駅が見えてくる。やはりというべきか、人通りはほとんどない。コンビニの前にエンジンをかけたままの車が一台停まっていた。
ここまでずっと宮野の愚痴を聞いてきた溝口だったが、新聞製作における不満点や部としての事情など、その内容については興味深いものがあり、悪い気分ではなかった。それだから、随分と機嫌の良くなった宮野に
「そうだ。せっかくだしコーヒー飲んでく?愚痴に付き合わせたお詫び」
と言われれば、付き合う気になったのである。
「オゴりなら」
そう答えると、宮野は悪戯っぽく笑ってみせた。

前回と同じ奥の席、他に客の姿は無し。店内には静かなジャズが流れ、宮野の父親である店主はカウンターの向こうで静かに座っている。今日は一体何人の客が来たのだろうか?見回していると、腰が少し痛んだ。
「ホットでいい?」
尋ねられ、頷く。すると宮野は席を立ち、カウンターの奥へと入って行った。どうやら自分で淹れるつもりらしい。
見ていると、豆を選び取り出す仕草、それを挽いてドリップする一連の動作はそれなりに様になっている。時間のある時などは店を手伝っているのだろう。
少しして、宮野はソーサー無しのコーヒーカップ二つを直接持って運んできた。こちらの嗜好を聞くまでもなく、既に必要な分量の砂糖は投入済みであった。
「はいどーぞ。タダなんだから、味に文句は言わないように」
宮野は冷たく言うが、それが一種の照れ隠しであるのは溝口にもわかった。一口飲んでみると、店主が淹れた前回のものと変わらないように思える。とはいえ、溝口にはコーヒーの味の違いなどよくわからないのだが。
「いいんじゃないか?充分美味い。タダだと思うと尚更だな」
自然とそんな軽口も出る。溝口の感想に笑いながら頷くと、宮野もコーヒーに口をつけた。

「それで、算段はついてんの?」
おもむろに言われて、溝口はそれがレーティアの件についてだと即座に理解した。
「算段って程じゃないが、一応いくつか考えてはある。状況次第だな」
曖昧に答えると、宮野は少しムスッとした顔で言った。
「状況次第って、そこまで臨機応変な話でもないでしょ?二人を足止めするだけなんだから」
「5分や10分でいいならどうとでもできるけど、いいのか?連中は保護者だぞ?」
溝口が持ち前の瞬発力で切り返すと、宮野は苦い顔でコーヒーを飲んだ。
「任せとけ、最低でも30分は時間を稼いでやる。お前はその間に普通に取材をして、普通に帰しゃいい。それで万事問題ない」
確信を持っているかのような口調で言い切ってみせると、宮野は口元に笑みを浮かべて
「じゃ、よろしくね」
とだけ言った。どうやらうまく誘導されたらしい、と溝口が理解したのは、コーヒーを飲み終えた直後である。

店を出て時計を見ると、19時半になっていた。かなり色々な事があった一日だったが、流石にもう帰宅しなければならない。
幸い、電車の時間は10分後だった。田舎のローカル線は、この時間になれば一時間に一本しかないというのも珍しくなく、次の電車を逃せばまた一時間どこかで時間を潰さなければならない羽目になる。
成程そう考えてみれば、宮野の喫茶店は待ち時間を潰すには丁度良いのかもしれなかった。問題は、ここで電車に乗る人の総数がごく限られているという事なのだが。

(疲れた!本ッ当に疲れた!)
《お疲れ様です。しかし全体的には役得だったのでは?》
(傍から見てりゃあ俺だって面白がれただろうけどな…。にしても、俺の話ばっかり続いた感じじゃないのか?いいのか?)
《さて、良いかどうかは我々には判断のつきかねる問題ですね。しかし一応伝えておきますが、焦点はとっくに消えていますよ》
(とっくに?とっくにって、いつだよ)
《貴方が保健室へと走った時点で、ですね。それ以降は改変の結果とはいえ、今のこの世界において通常の因果です》

これを知って、溝口は唖然とせざるを得なかった。脳裏にアリジゴクのイメージが浮かぶ…。

昨日までに書いた20行ほどを全消しして書き直し。書けなくなる時ってのは、やっぱり何かがズレているんだなぁ。
書き直したら時間はかかったが、とりあえずスムーズに書けた。
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  1. 2018/12/15(土) 21:48:25|
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