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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #26 階段

その後はひとまず、滞りなく会話が進行していった。
「実は私、今日は図書室でテスト勉強するつもりだったんです。でも、知らない人と一緒だと思うと、つい…」
白里がそう告白すると、川上は納得したように言う。
「わかる。同じことしてると、猶更疎外感感じちゃうよね」
「そう?私はあんまり気にならないけど」
ひたすら同情的な川上に対し、牧村は白里とは距離を取っている様子が見える。
すると、レーティアは何か良い事を思いついたという風に、嬉しそうに言う。
「だったら、今日から一緒にテスト勉強しませんか?私達、もうお友達ですよね」
「友達…」
白里が面食らった表情を見せると、レーティアは尚も嬉しそうな顔で答えた。
「はい、お友達です!…お嫌ですか?」
「あ、いえ、嫌とかそういう事ではなくて…私、皆さんにご迷惑かけてますし…」
引っ込み思案をやる白里に、牧村がややぶっきらぼうに言葉を投げかける。
「いいじゃん、友達なんてお互い迷惑かけるもんでしょ。それに白里さんだって、『知らない人』の前で泣くより、友達の前で泣いたって方が楽でしょ?」
「牧村さん…ありがとうございます」
ここまで来れば、放っておいても話はまとまっていくようだった。

「じゃ、アドレス交換しようよ」
川上の提案に、各々がスマホを手に取った。いつの間にかレーティアも自分のスマホを持っていたようだ。
この状況で溝口だけ断るという訳にもいかないので、仕方なくポケットに手を入れた瞬間。
メッセージの着信通知が来た。嫌な予感である。このタイミング、恐らく宮野にちがいない。であれば、牧村に気取られるのだけはマズい。
背筋を伸ばすフリをして後方に仰け反りつつ、ロックを外して素早く確認する。案の定、宮野からのメッセージである。

『委員長会議はテスト明けの月曜日だって』

(だろうな)と内心呆れつつ、通知を消して姿勢を戻した。恐らく、そう不自然な動きではなかっただろう。
しかし、このタイミングでこうなる以上、次に起こる事は目に見えていた。どういう訳か、先程から急に距離感を詰めてきた牧村が、やけに馴れ馴れしく訊ねてくる。
「何何?誰から?」
「誰からって…母ちゃんからだよ。帰りに洗剤買って来いってさ」
適当な言葉で誤魔化すと、牧村は「ふうん」とだけ言って、興味をなくしたようだった。

その後アドレスを交換したところで、時間経過により時刻は18時前になっていた。結局ノートは1ページ半ほどしか写せていない。
外もだいぶ暗くなってきていたので、今日のところはこれで解散、という事になった。
連れ立って図書室を出、階段を降りていく。その間も溝口は一歩引いて後方から状況を見ていたのだが、白里が時折ちらちらと何かを伺うような視線を向けてくる。その意図するところは判るだけに、溝口は憔悴していた。

(別に、好意を向けられるのが嫌って訳じゃねえんだよ…ただ)
《ただ、あまりにも理想と違いすぎる?》
(そう。理想っても、もっとこう…憎みようがある状況になると思ってたんだよ。わかるだろ?)
《わかるつもりです。このままだと懐柔されてしまいそうなのでしょう?》
(そこまで楽観的でもねえよ。面倒くさそうな状況なのは変わらんし…)
《しかし、状況を見届けたくなっている》
(まあ…そういう事だよな。自分が当事者でさえなけりゃあな)

もやもやしていると、いつの間にか隣に来ていた白里が話し掛けてきた。
「あの…何か、悩み事ですか?」
そう言われるという事は、余程難しい顔をしていたのだろうか?溝口は苦笑いをしながら取り繕う。
「いや、悩みって程でもねぇんだ。ノート写しながら解らなかった所を、ちょっと色々反芻してただけでさ」
「そうなんですか。でも溝口さんって、前回けっこう上位の方に入ったって聞きました」
「ヤマを張ったのがたまたま当たっただけで、普段は真ん中ちょい上くらいだって…」
溝口はここで少しだけサバを読んだ。本当は中の下が関の山なのだが、それでは落差があまりに大きすぎるからだ。
どのみち過去の成績は書き換えられてしまっているし、ともかくも今は、白里を納得させる事ができている。
「じゃあ、次も維持できるように頑張らないとですね」
無邪気にそんな事を言われると、溝口としては眩暈のする気分である。

そうしていると唐突にレーティアが声を上げた。
「あ…!私、教室にお弁当箱忘れてきちゃいました…」
「それは…エルシィに叱られるなぁ。取りに行こうか?」
「はい…」
相川とレーティアが離れていくと、次いで牧村が絶望に満ちた言葉を吐き出した。
「げ、しまったぁ~…。そういや、私も図書室ついでに本返そうと思ってたの、すっかり忘れてた…」
「急げばまだギリギリ大丈夫なんじゃない?それとも明日にする?」
川上が言うと、牧村は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「そういう訳にもいかないのよ…次返却遅れたらブラックリストって言われてんの。ちょっと行ってくる!」
言うが早いか、牧村はもと来た道を全速力で引き返していった。
残された川上は、
「あの子、案外ルーズなとこあるんだよね…」
と、呆れたように溜息をついた。

そんなこんなで気が付くと、一歩後ろを歩いていたはずの溝口は白里と並んで川上の前を歩いていた。
当然、溝口はこれに違和感を覚える。

(なんでまた急にバタバタし始めた?焦点は?)
《まだ続いています。何かあると思った方が良さそうですね》
(どうも嫌な予感が…)

その時だった。隣を歩いていた白里の体が大きくバランスを崩して傾いた。踊り場からの階段を踏み外したのだ。
「きゃ…!」
瞬間、時間が停止する。

(クソ、やっぱりこうなるのか!)
《階下までは14段、これは大変危険な状態といえます。どうしますか?》
(放っておける訳ねえだろ!これで怪我ならともかく死にでもされたら、今後平気で人死にが出るようになる!)
《そうですね、その通りです。しかしこれは難しい状況ですよ?》
(これ、助けようとすると一緒に落ちるパターンだよな…。となれば、無事には済まんか)
《良くて打ち身、しかし死亡も充分あり得るケースです。まして二人分の体重を支えるとなると…絶望的ですね》
(漫画じゃよくある状況には違いねえけどさ…問題は俺がどうやって無傷で切り抜けるかだぜ。この際パターンは無視だ)
《それなら、現実的な方法は一つしかないでしょう》

時間が動き出した瞬間、溝口は右手から鞄を放し、振り上げつつ白里の左手首を下から掴む。と同時に自ら左後方に倒れ込み、自重で一気に白里を踊り場側へと引き寄せた。
後頭部を打たないよう首を内側へ引き込みつつ、左腕で白里の頭部をしっかりと胸部へ抱え込む。背中を丸めて着地することで、尻から背中へと衝撃を分散させる。その間わずかに1秒未満、限られた時間で体をどう動かすべきか、綿密に組み立てた結果の形である。考えうる限り、最善の動きであった。

二人分の重量を受けたため腰を想定以上に強打したものの、それ以外については問題ないようだった。白里の頭を胸元に引き寄せたことで衝撃から保護し、この体勢になった時発生する可能性の高い偶発的キスも抑え込んだ。成果としては上々だが、あまり見栄えのする方法ではないというのが唯一の欠点だろう。
ホッとしつつ横を見ると、そこには慌てて屈み込んだ川上のスカートの中が丸見えになっていた。
「だ、大丈夫?!」
「大丈夫大丈夫、問題ない!」
溝口は慌てて顔を反対側に向ける。と、胸元から白里のくぐもった声。
「あの…苦しいです…」
「あ、すまん」
咄嗟に手に力が入ってしまっていたようだった。すぐさま両手を放すが、白里は体を動かそうとしない。あるいは一時的なショックで動転しているのかも知れなかったが、それよりも今は、自分の上に乗った白里の体重と柔らかさが気になってきた。

男性というものは、自らに生命の危険が迫ると子孫を残そうという本能が働くものらしい。ただでさえ急激な興奮状態にあった溝口の下半身は、瞬く間に熱を帯びてきた。
「ええと…その…溝口さん?お、お腹に何か、硬いものが…」
言わんとする白里の両肩を素早く掴んで体から引き離し、腰を屈めたまま起き上がると、
「どうも腰をやっちまったらしい!保健室言ってくる!」
と捨て台詞のように言い残し、階段を転がるように駆け下りたのだった。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/10(月) 19:11:05|
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