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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #25 プライド

溝口がノートの書き写しに集中している間も、溝口を除いた4人と白里との会話は続いていた。一応声は抑えられてはいるが、既にこの場所が私語厳禁であるという点については『無かった事』になっているようだった。

「白里さんって、普段も図書室にいるんだよね?やっぱり小説とか読んでるの?」
この声は川上である。文芸部なら物語を好むだろうという先入観があるようだ。
「いえ、小説も好きですけど、実用書とか図鑑もよく読みます」
白里の受け答えは随分とはっきりしてきた。5人が卓の中央で顔を寄せ合い小声で喋っている事もあり、白里と牧村に挟まれる位置にいる溝口の耳には、左右至近距離から白里のころころとした声と牧村の落ち着いた声が聞こえてくる状況で、その事が溝口の脳をどうにもムズムズさせるのだった。

「1年の頃からずっと学年トップなのよね。私も結構頑張ってるつもりなんだけどなぁ」
牧村はそう皮肉を言うが、口調からすれば軽い冗談のようだ。しかし当の白里はそれを理解していない。
「す、すみません…」
「やだ、別に非難してる訳じゃないよ。すごいなーって思っただけ!」
慌てて取り繕っている。さしもの牧村も、白里のようなタイプは得手ではないらしい。
「すごくなんかないです…。私、勉強くらいしか取り柄なくて…それで…」
白里の声は今にも消え入りそうになっている。
「そんな事ないと思うけどな」
そう言ったのは相川である。
「取り柄があるだけ凄いじゃんか。俺なんか勉強も運動も、誇れる事なんて一つもないんだぜ?」
「うーん…否定できないかも」
間髪入れず川上がそんな事を言ったので、レーティアと牧村はクスクスと笑い出す。
「確かに、相川はザ・平均的って感じ!」
「でも、そこがカズヤのいい所ですから…」
容赦ない牧村と、フォローになっていないレーティアの発言もあって、白里の緊張は再度解れるかに思われた。

が、これらの茶番はあまり効果をもたらさなかったようだった。
「…」
白里は黙り込んでしまっている。

《あまり良くない状況ですね》
(だが、何故こうなる?今のは何となく有耶無耶になるパターンじゃないのか?)
《状況が既にそれを許していないのです。この『物語』は既に、独自の路線を進もうとしています》
(お前、何か確信がありげだな。独自路線ってのは?)
《少なくとも、貴方の知るパターンが通用しなくなっている事だけは確かです。しかし残念な事に、相川さん達は既存のパターンにしか対応できないキャラクターといえます》
(…つまり?)
《この物語にとって、貴方は既に重要な存在だという事です。その貴方が状況から目を背けてしまうと、話が進まなくなってしまいます》
(そうかそうか、つまり自業自得だって訳だな…。クソ、こんな事やっててますますおかしな事にならなきゃいいが)

「できて当然ってのは、シンドいよな」
おもむろに溝口がそう口にすると、一瞬、白里の体がビクッと震えたのがわかった。
「俺さ、小学生の頃は何でもできたんだよな。勉強しなくてもテストはいつも満点で、体育だって一番だった。体の成長が早くて、人より飲み込みが良かったんだろうな。
 けど、中学に入った途端、それまでが嘘みたいに何もできなくなっちまった。中学の勉強は難しくてさ、きちんと勉強しないと点は取れない、でもそもそも勉強の仕方がわからねえ。他の奴よりも高かった身長はあっという間に追い付かれて、筋力の差だろうな、スポーツやってた奴にはまるで敵わなくなった。それまで漠然と持ってたプライドなんか、あっという間にズタズタだよ」
4人の呆気にとられた表情。しかし白里だけは思うところがあるのか、静かに俯いている。
「このままじゃヤバいってんで、自分なりに色々やってみる訳だ。ノートはなるべくきちんと取ろう、授業は真面目に受けよう、人の話はちゃんと聞こう。けどそんなのは、普通の奴なら当たり前にできてるんだよな。俺が普通の連中を見下してる間に、そいつらは普通にできて当たり前の事ができるようになってた。でも俺には、普通が何なのかすらわからん。学ぶべき時に学ぼうとしなかったからだ。
 そうして、俺がなんとか普通っぽく取り繕えるようになった頃には、普通の連中はもっと先に進んでる。この差はもう何をどうやったって埋まらねえ。だから…」
「だから、他の全部を諦めて、勉強に集中するしかなかった」
ぼそりとそう続けたのは、白里だった。溝口は小さく溜息をつく。
「やっぱり、そうか」
「私の家、父が大学の教授なんです。中学の頃に、急に授業についていけなくなって…」
「ああ、ああ。大丈夫、わかるよ。俺は普通をやろうとしたけど、白里は勉強するしかなかったんだよな」
「…っ、はい…!」
言葉を詰まらせる白里。見ると、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ノートを見りゃわかる。これは『人に見せるためのノート』だよな。白里が白里でいられるためのプライドなんだよな」
「――っ…!」
言葉にならない、押し殺した嗚咽。白里は俯き、声を出さないよう歯を食いしばっている。固く握りしめた両手の甲に、ぱたぱたと涙のしずくが落ちていく。

気まずい。

(ドツボじゃねーか!!)
《貴方が自分の判断でやった事ですよ。よくもまあ毎度毎度、面白いアドリブをぶっ込むものですね?》
(ほとんど只の、自分自身の体験談だよ!それがこんな…)
《ドラマチックにもなるでしょう。物語なんですから》
(あーあ…もうやだよ俺…どうすんだよこんな、この先…)
《いやはや楽しみですねぇ》
(お前もう帰れ!!!)
《おっと、5分経過です。白里さん、落ち着いたようですよ》
(ああーもう…)

「その…大丈夫?」
川上の問いに、白里は小さく頷いた。
「すいません、みっともない所を…」
「こっちこそゴメン。俺、白里さんの気持ち、全然わかってなくて…」
相川が頭を下げると、牧村もそれに続いた。
「私も、事情知らないで軽率な事言っちゃって…ごめんなさい!」
「ええと、その、私も…ゴメンナサイ…?」
レーティアは完全に雰囲気に飲まれており、困惑と申し訳無さが入り混じった表情である。
この状況に白里は慌てて姿勢を正し、額を卓にぶつけかねない勢いで深く頭を下げた。
「わ、私こそ本当にごめんなさい!これは私自身の問題なのに、皆さんに気を使わせてしまって…!」
そうして頭を上げると、今度は溝口に向き直り、
「溝口さんも…その、本当にありがとうございました。私の事わかってくれたの、溝口さんが初めてです」
と、すっかり紅潮した顔で上目遣いに言うのである。これには溝口もすっかり赤面してしまって、若干目を逸らしつつ。
「お、おう…。あんま気にすんなよ…」
そう答えるのが精一杯なのだった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/09(日) 13:12:39|
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