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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #24 ノート

「どうって…そういう事なら、無視する訳にもいかないよな」
相川は当惑した様子だったが、ひとまず受け入れる形になった。
「けど、俺や溝口が話し掛けるのも警戒されるだけだろうしな…」
「そういう事なら、私行ってくるよ」
川上はそう言うなりぱっと立ち上がり、白里のところに向かっていった。

溝口がその様子をぼんやり眺めていると、背後から牧村に肩をつつかれた。
「アンタ、席こっちにずれなさいよ。知らない人に挟まれるんじゃあ、白里さんも座りづらいでしょ」
「あ、ああ…」
溝口はこの牧村の態度に若干の違和感を感じながらも、もぞもぞと真ん中の席に移動した。

やがて向こうの方でも話がついたようで、川上が白里を連れてくる。
白里は両手で胸元に鞄を抱え、俯いて完全に委縮した様子である。見た目通りの人見知りなのだろう。卓の5人を前に小さく会釈をすると、先ほどまで溝口が座っていた席に腰を下ろした。

このような状況になれば、白里を無視して勉強を続ける訳にもいかないというのが、セオリーである。
やはり、先陣を切ったのは川上だった。
「白里さんは、テスト勉強?」
尋ねると、白里は首を横に振った。
「じゃあ、本読みに来たんだ」
この質問には、頷きを返す。どうやら白崎は、図書室では喋らないようにしているらしいとわかる。
次いで、牧村が質問を投げかける。
「それなら、テスト勉強は家でやってるんだ?」
再度白里は頷いた。が、万事この調子では一向に会話が進まない。
するとここで、溝口に台詞の指示が来た。

『もしかして、喋れないとか?』
そんな訳がない。白里はここが図書室という事を鑑みて、私語を慎んでいるだけだろう。冗談にしても質が悪い。
いくらデリカシーのない馬鹿を演じるにしても、こんな台詞は到底言える訳がなかった。
そこで溝口は咄嗟に、最低限相手を尊重した上でデリカシー皆無、という台詞を捻り出してみせた。

「なあ白里さん、良ければなんだけど、現代文のノートとか持ってたら写させてくれねぇか?」

この言葉に、白里は一気に顔を赤面させた。
「…えっ!?」
動揺とともに発せられたらしいその一言は、一瞬呆気に取られるほど可愛らしい声である。
漸く言葉を出させたという一つの結果に内心してやったりの溝口の後頭部を、背後から牧村が叩いた。
丸めたノートによるその打撃は、スパァン!と小気味のいい音を図書室中に響かせ、視線が集中する。

周囲から視線を浴びた牧村は、溝口の前を横切るように身を乗り出して、白里に苦笑を向ける。自然、溝口はのけ反るような恰好を取らざるを得ない。溝口の眼前には牧村のスラっとした肩と背中があって、柔軟剤かそれとも軽く香水でも使っているのか、フワッと花のような香りがした。牧村との距離感が明らかに縮まっているのを、否応なしに感じさせられる。
「ごめんね白里さん、こいつ本っ当にバカな奴で…」
「い、いえ、大丈夫です…」
答えながらも白里はひどく赤面しながら俯いていたが、そのまま身を屈めると、鞄から一冊のノートを取り出して溝口の前に差し出した。
「ど、どうぞ…」
「え…いいのか?」
意表を突かれたのは溝口の方である。会話の切っ掛けを作るための軽い冗談というつもりだったので、まさか本当に受け入れられるなどとは思ってもみなかったのだ。
とはいえ向こうも相当に恥ずかしい思いをしている事は容易に理解できるので、今更冗談だと突き返す訳にもいかなかった。
「じゃ、ちょっと借りる…」
緊張により幾分挙動不審になりつつ、ノートを手に取る。実の所、そのものに興味はあるのだ。

(今さっき生み出されたキャラクターのノート…ねぇ)
《これは面白い展開になりましたね。私もとても興味があります》
(もし全部白紙だったらどうするよ?)
《事こうなった以上、それは考えにくいですね。しかし『深度』を確認するには良い機会ですから、後々のためにもきっちり書き写しておいた方がいいでしょう》
(深度…?まあいいや、やるか)

そうして開いたノートには、若干癖のある、しかし見易い字で中身のある内容がみっちりと、それでいて要点をしっかり押さえた形で書き込まれていた。
「これは…すげえな」
率直な感想が漏れた。
「すごい?すごいって、どんな?」
身を乗り出して聞いてくる川上に、溝口は一瞬ノートを見せるべきか迷う。その上で、白里に問いかける。
「これ、みんなに見せてもいいか?」
彼女がやはり赤面しつつも頷いたので、溝口はそのノートを卓の中央に広げてみせた。

「すごい…わかりやすく簡潔にまとめられてる…」
「要点がきちんと整理されてるよね。流石としか言いようがないわ…」
「字もとても丁寧で見やすいです」
「これが学年トップのノートかぁ…すごいな」
4人が口々に褒めちぎる中、溝口は白里の横顔に目を向けていた。赤面しているには変わりないが、その表情はどこか嬉しそうに見えたのだった。
であれば、キャラクターの導入としては一件落着、であろう。

(…結果オーライだとは思うが、またかなり余計な事をした気がする。途中から指示聞いてなかったし…)
《はい。気がする、では済まない状況ですね。ここまでの所、話の主役が貴方になりかねない程の大躍進です》
(マジか。お前がそう言うって事は、実際そういう変化が生じてるのか?)
《こればかりは私から言わない方がいいでしょう。先も言いましたが、私にとってはとても興味深い状況なのです》
(さっきの『面白い』ってそういう意味だったのかよ!くそ、こりゃしばらく大人しくするしかねえぞ…)

「さて、そんじゃノート使わせてもらうわ。ちょっと集中するから、後よろしく」
溝口はそう言うと、白里のノートを手元に引き寄せた。そうしてこの現実からしばし目を背けるために、一心不乱にノートを書き写し始めたのだった。
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  1. 2018/12/06(木) 20:54:29|
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