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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #23 図書室で

その後2日間は、これといって何もなく日常が経過した。相川の自宅方で焦点が発生したが、エルシィ絡みでつまらないドタバタをやっただけ、との事である。
時間経過も発生しなかったので、その間溝口はテスト勉強に集中することができた。

金曜日のホームルームで、担任の小諸が中間テストについて言及し、そこに焦点が発生した。
「来週の金・土、中間試験がある。2年になって最初のテストだ。各自きちんと準備しておくように」
わかっていた事ではあるが、これで事象が確定したと見れば、ざわついたクラスメイトに共感もできた。
間もなく、休み時間になる。文字通りであり、容赦なく時間経過が生じていた。

レーティアの席の周りに、川上と牧村が集まってきていた。
「レーティアは日本に来て初めてのテストだよね」
川上がそう言うと、レーティアは頷いた。次いで牧村が、
「でも、レーティアが来たのは先々週よね。勉強のほうはどう?授業ついていけてる?」
と尋ねると、やはりレーティアははにかみながら答えた。
「国ではもっと難しい内容も教わっていますから、大丈夫だと思います。でも、歴史とか古文なんかは、ちょっと…」
「そうか。この国の歴史なんかは、レーティアはあんまり知らないもんな」
相川は納得したように言うが、溝口は内心呆れていた。

(そもそも言語を覚える方がキツいだろ。日本語に加えて英語もだぞ…暗記だけの歴史なんか屁だろーが)
《言葉については、通じるのが当たり前というのが暗黙の了解ですからね。小型デバイスによる自動翻訳という言い訳もできますが》
(だったら古文だって答えが見えてるようなもんじゃねえか。それだけ精度の高いAIが機能してるなら、テストなんて答え全部わかっちまうだろ…)
《落ち着きましょう。常識や道理の通用しない状況ですから》

「じゃあさ、今日からテストまでの放課後、図書室でテスト勉強しないか?」
相川がそう提案すると、
「いいんじゃない?一人でやるよりも集中できそうだし」
「人に教えるのも復習になるし、私も構わないわよ」
と、川上と牧村は即座に同意をみせた。次いで溝口も、指示の通りに参加を表明してみせる。
「あ、そんじゃ俺も俺も…」
「アンタは遠慮しなさいよ、どうせ無駄話しかしないんだから。図書室は私語厳禁だって、わかってんの?」
当然のように牧村の反発が出る。実際問題、溝口としてはむしろ断られた方が気が楽ではあった。
だが、ここはレーティアが場をまとめる形になった。
「折角の機会ですから、皆さんと一緒にテスト勉強したいです。だめですか?」
このように言われれば、牧村は折れるしかなかった。

文字通り、瞬く間に放課後が来た。5人は一団となって図書室に向かう。
他愛のない雑談を交わす4人の後方で、溝口は釈然としない気分を抱えていた。

(このテスト勉強や中間テストそのものには、一体全体中身があるのかね?)
《物語的な意味でとなれば、中身は必要ないはずですね。どのような創作であれ、わざわざ授業やテストの中身まで創造するような几帳面な作者はいないでしょう》
(だろうよな。でなきゃあ、俺が今日一日1ページもノートを取れていないなんて事態には、ならねえよな)
《ですが、それは物語としての都合です。この世界において改変の影響を受けていない所は平常通りなのですから、問題用紙が白紙ということにはなりませんよ》
(それなら、俺だけが現実と物語の狭間でデメリット被ってるだけじゃねえか…)
《残念ですが、その通りです》

テスト前ということもあって、図書室は混雑していた。普段全く図書室に来ない、というよりもむしろ高校に入って初めて図書室に来た溝口にしてみれば、違和感しかない光景である。
しかしそれは、開放された屋上と同じく「テスト前は図書室で勉強」という暗黙の了解に基づいて発生した状況かもしれなかった。
その中で、窓際にある6人掛けの机がひとつ空いていたのは、ご都合主義に他ならない。

通路側から相川、レーティア、川上と並び、その対面に溝口、ひとつ空いて牧村が席に着いた。そうして各々勉強道具を広げ、自習をはじめる。
溝口も一応のポーズとしてノートと教科書を広げはするが、この状況で勉強に身が入る訳がない。ただ勉強をするだけでは物語にならないのだから、何かしらの事件が発生するのは間違いないからだ。

そんな風に構えていると、カティルが何かに気付いた。

《これは…『キャラクターの発生』ですね。たった今、何者かが新規に出現しました》
(マジかよ!この状態に合わせて、って事か?)
《そのようです。もうすぐ図書室に入ってくる筈です…が、今はまだ目を向けない方がいいでしょう。不自然になります》
(くそ、だったら知らせるなよ…気になるっつーの)

かくして、間もなく図書室の戸が静かに開いた。それは十分に注意していないと気が付かないほどで、いくら私語厳禁の空間といっても、各々がノートを開きペンを走らせているのだから、それなりに物音はしている。
溝口にしてもその音が果たして本当に新キャラによるものか確信は持てなかったのだが、ゆっくりと足音が近づいてくるのを感じれば、ひとまずこの認識を疑う必要はないとわかった。
そこで、少し余所見をする風に何気なく視線を入口の方へと向けてみると、その方向には、所在無げに右往左往する女子の姿があった。
肩まであるもっさりとした髪、いかにも漫画チックな丸眼鏡、小柄な身長とややぽっちゃり目の体格。あまり華があるようには見えないが、この手のタイプは髪形を整えて眼鏡を外せば美少女と相場が決まっている。

(いかにも文芸部って感じだな)
《ご明察です。さあ、お芝居の時間ですよ》

溝口は身を乗り出すと、相川に向かって小声で囁いた。
「おい、あれ見ろよ。D組の白里茉莉(しらさと まつり)だぜ」
「白里…?」
相川はそれが誰なのかまるで知らないという様子である。そこに川上も会話に混ざってきた。
「白里さんって、1年の時からずっと学年トップの?」
「そうそう。ディフェンディングチャンピオン。相川は知らなかったのか?」
溝口はさも知っていて当然とでもいうようにいけしゃあしゃあと言ってみせるが、当然ながらそれは与えられた台詞を繰り返しているだけで、実のところこの場にいる誰よりも、白里についての知識を持っていないのである。
「白里ってさ、文芸部員でいつも図書室にいるんだよな。見たとこ今日は試験勉強の連中が多すぎて、自分の座る席が見つからないんだろう」
そこまで言った後、溝口は何気なく、指示にない一言を付け足した。
「…どうする?」
それは全く無意識に近い所から出た言葉である。どうせ何がどのように転ぼうと関連は避けられない、その諦めが出させた言葉なのかもしれなかった。

だが、その余計な一言が、溝口新というキャラクターの性質をまた歪めたのである。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/05(水) 20:13:43|
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