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有象無象ディメンション

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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #22 疑念

翌朝は前日よりも30分早く起床した。植木と鉢合わせないためにである。
昨日の成果か、両足に軽い筋肉痛が出ていた。若干の気だるさはあるが、使命感が上回っている。
階下では既に母が朝食の用意を始めていた。挨拶ついでに「ジョギング行ってくる」と伝えると、驚いたように時計に目を向けた。
「まだ5時半じゃん!アンタ、ちょっと大丈夫?どこか頭でも打ったんじゃない?」
「頭打って健康になるんなら結構だろ」
言い捨てて、玄関を出る。このところは快晴が続いているが、これもまた改変の影響なのだろうか?

前日の結果を踏まえて、ゆっくり同じペースで3周半。休憩は取らず、ラスト半周を全力で駆け抜ける。
この時間帯ならば人通りはほとんど無いが、まだ若干暗いので周囲には注意しなければならない。とはいっても危険が差し迫ればカティルが教えてくれるという保証があるので、溝口自身はペースの維持に集中することができていた。

汗だくになって帰宅し、シャワーを浴びる。心地いい疲労感と共に襲い来る睡魔を、熱めの湯で振り払う。
着替えて朝食をとる。妹と同じタイミングでの朝食は2年ぶりになる。

30分早く起きたせいで時間が大分余ったので、今後のために新聞を読んでおく事にした。
ポストから新聞を取ってくると、母はますます怪訝な顔をしてみせる。あと10分もすれば父が起きてきて新聞を奪われてしまうので、ひとまず一面を集中的に読み込んでおく事にする。

読みながら、ふと思う。

(確かに妙な話だ。こういう状況でもない限り、ジョギングなんて始めようとはしなかったろうし、こうして新聞を読む事もなかった)
《この世界同様、貴方の日常も大いに狂い始めていると言えますね》
(そう悪いことばっかりでもないって事か…?)
《私からすれば、ただ厄介だという一点に尽きます。善悪で問う問題ではありませんよ》
そんなものか、とひとりごちる。少なくともこの状況は、溝口にとっては敵でしかない。敵がいるから備える、それだけの事である。

学校へと向かう電車の中、もうすぐ中間テストだという事を思い出す。

(確か、5月末頃だった筈だ)
《行事予定によれば、例の学級長会議の翌日からですね》
(マジか。まいったな…完全に失念してた)
《テスト勉強というイベントが、どのように処理されるかにもよりますが》
(つっても前日だろ?レーティアだけ外して二人を呼び出せるもんかね)
《通常ならば難しいでしょうが…心配せずとも、考えるのは私達ではありませんよ》
(あ、そうか。必要な展開に至る改変は、神に丸投げしていいのか)
《整合性や時系列だって、必要ならば向こうでどうとでもできるでしょうね。中間テストそのものが強く認識されずに流される可能性もあります》
(テストそのものが無くなったりしねえかな…)
《さて、どうでしょうか》

ともかくも溝口は、誰かが話題に出すまではテストについて触れない事に決めた。成績はどうせ改変されるに違いないが、最悪の場合はこのところの騒動を言い訳にする事もできるだろう。

教室に入ってしばらくボンヤリしていると、やがて相川とレーティアが登校してくる。カティルによれば、焦点は発生していない。
風紀委員との決着はついたものと考えてよさそうだった。だが、気を抜いていられる保証は何もない。
連れだって教室に入ってきた二人と挨拶を交わし、昨日の首尾を訪ねた。

「昨日は結局、どうなったんだ?」
「いや、それがさ…」
相川は気まずそうにレーティアを見る。当のレーティアも赤面しており、あまり積極的に話したい内容ではないらしい。
溝口は軽く二度頷いて、状況は察した、という顔をしてみせた。実のところ、カティルから詳細は聞いているのだ。
「そうか、何があったかは聞かない事にしとこう。結果としては?」
「それなら、ひとまず新垣先輩の説得には成功したよ。今後は便宜を図ってくれるそうだ」
「話してみたら、とても良い方でした」
レーティアが嬉しそうにそう言ったので、溝口は内心溜息をついた。やはりレーティアは、状況をまるで理解していない。少なくともそのようなキャラ付けがなされており、周囲が気を使ってやらなければ、自由奔放に博愛を振りまくのだろう。
宮野と一対一で話をするとなれば、何の躊躇いもなく自分が宇宙人であると語るにちがいない。

《ですが、決め手に欠けます》
(新垣に証拠を見せる際、髪の毛が動くというだけで信用しなかった新垣は、髪の毛を掴んだ。それで暴走した)
《宮野さんも同じ事をするかもしれないとなれば、相手に危害を与えるかもしれないのですから、レーティアさんは躊躇するでしょう》
(つまり、新しい証拠が出せない以上は与太話にしかならない。宮野はレーティアを知らないから、疑うだけで終わるだろう)

次に何かが起こるとすれば、それはレーティアと宮野の個人的な友人関係の構築にちがいない。
宮野はレーティアについての記事を書くことができないはずだ。それは宇宙人だという自称を信じることができないためで、そのためにまず人間性を理解しようと努めれば、尚更煙に巻かれる事になる。そうして身動きが取れないならば、川上と牧村は宮野が秘密を守れる人間だと判断して警戒を緩め、関係性が強まれば、状況はどんどん泥沼になっていく。

《概ね同意です。強いて言えば、相川さんがその中でどのような役割を持てるかが鍵でしょうね》
(だが、今のところ相川は単なる巻き込まれ型だ。ああいうタイプが主体的に動くのは、大事件が発生した時くらいだろう)
《ですから、主役のキャラに魅力がないとなれば、何かしら起こる可能性があります》
(…勘弁して欲しいよなあ。そうかあ、クソ、主役はあくまでも相川なんだな。勘違いするとこだった)
《そう悲観するものでもありませんよ。テンプレート通りのキャラクターでは無個性過ぎて主役交代というのは、珍しい事ではありませんから》
(そんな事期待しちゃいない。問題なのは、あるべき流れが理不尽な改変のせいで滅茶苦茶にされる事だ…おっと)
《はい、その通りです。理念を共有できて嬉しく思いますよ》
(なあ、俺は本当に俺のままなのか?お前、俺に何かしちゃいないよな?洗脳とか…)

溝口は深く溜息をついた。頭の中ではカティルとあてどない会話をしながらも、不思議と授業の内容はすんなりと頭に入ってくる。
あるいはこの脳内会話の全てがカティルによるシミュレートなのかもしれない。そうして溝口自身の思考がシミュレートされたそれに沿うようになれば、本来の溝口の人格というものは、一体どこにあるのだろうか?
少なくとも、以前の自分とは何もかもが違っている。カティルにより正気を取り戻す前のキャラクターである溝口新はすでに無いが、ではそれ以前に存在していたはずの無気力な少年は、一体どこに?
記憶だけは連続している。だが、それをもって自分が自分である事を立証はできない。重要なのはその時何を考えたか。

(何を考えている?俺は…)

カティルは答えない。
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  1. 2018/11/30(金) 20:03:46|
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