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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #20 知る権利

溝口は精神的に押されていると感じていた。それは改変された設定から来る負い目なのか、あるいは単に相手が嫌いではない女子だからかもしれない。いずれにせよこの話は、長引けば長引くほど不利になると思えた。
どの道今はこれ以上話せる事も無い。宮野のカードは既に出尽くしているから、エルシィについてここで話すのは得策ではないだろう。彼女の存在はある意味で先の噂を補強する要素にもなるが、溝口からすればやはり説明のしようがない。
ここは一旦話題を逸らしつつ、相手の弱点を探り出して話を終わらせるのが得策と思えた。

「そもそもお前、なんでレーティアさんを探ってるんだ?前に『何か怪しい』とか言ってたが、それだけか?」
この質問に、宮野はあからさまに渋い顔をした。
「アンタねえ、何言ってんのよ。新聞部なのよ?校内で何か怪しい事があれば調査する、それが仕事でしょうが」
「ああ、ああ、そうだな。けどよ、事件でもない個人の秘密を暴く事に何の意味がある?それが新聞の役割なのか?」
「まったく、アンタは…」
宮野はすっかり呆れたという風に頬杖をついて、溝口をきっと睨みつけた。
「そうやってアンタは、昔の話を持ち出すつもり?部を辞めた時みたいに?もういいじゃん、アンタは部外者なんだから…!」
その剣幕に一瞬押されたが、逆に言えばそこがウィークポイントという事でもある、と溝口は判断した。
溝口の知らない『部を辞めた時の話』はともかく、この新聞の意味という所には、宮野自身わだかまりがあるのではないか?

「世の中には、別に知らなくたっていい事もあるだろ。知らない方が幸せな事だって、いくらでもある」
溝口は敢えて優しく、諭すように言う。欲しいのは議論であり、感情的な言葉のぶつけ合いではないからだ。
すると、宮野はまだ不貞腐れた顔ながら、この仕掛けにうまく乗ってくれた。
「…レーティアさんの秘密が、そうだって言いたい訳?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。どちらにせよ、それは個人が秘密にするべきだと考えた結果だ。
 お前にそれを知る必然性があるのか?知って、新聞を書いて、ただの野次馬連中に知らせてやる必要があるのか?」
「でも、人には誰しも『知る権利』がある。その権利を妨害する事は、何ものにもできない」
宮野はその言葉を、不自然なくらい明瞭に言い切った。

(どこかで聞きかじったような事を言う…)
《それが彼女なりの矜持なのでしょう。どのような理由があるのかは不明ですが、崩すならそこでしょうね》

「知る権利、か」
溝口はその言葉を復唱し、眉を顰めて続ける。つとめて格調高く。苦悩に悩む喜劇役者のように。
「人に『知る権利』というものがあるとなれば、同時に『知られないようにする権利』もあると思わないか?」
「…何よ、それ。逆に言えばって奴?」
「いや、そのままの意味でな。確かに、知る権利は大事なものなんだろう。命に関わるような大事なことを秘密にされてちゃあ、たまらない。
 だが同時に、これはなるべく他人に知られたくないぞ、って事もあるわけだ。そこには知られないようにする権利があって、こいつが知る権利と拮抗しているから、世の中のバランスがとれているんだな。そうでなきゃ大変なことになる」
少々おどけた口ぶりで話したのが功を奏し、うまく宮野の興味を引いたようだった。
「大変な事って?例えば?」
先を促してくる宮野に、溝口は勝利を確信した。

「簡単な事だ。そうだな…
 例えば、これは本当にひとつの例としての話だが、俺がお前の下着をどうしても見たいと言ったら、どうする?」

この設問は、宮野を大いに動揺させた。溝口としてはこれでもなるべくマイルドな内容にしたつもりで、あるいはもっと性的な設問でなければ拒絶してくれないかとも推測したのだが、生憎とここはアウェーである。即座に店を叩き出されるような話はできない。
いずれにせよ即答はできない筈の設問である。無論断られるのが大前提で、その過程で自らの過ちに気付いてもらえばよい。
宮野は顔を真っ赤にして俯き、小さい声で言う。
「それは…溝口の『知る権利』って事?」
「そうだな。そしてお前には、『知られないようにする権利』がある。まさにこれは対等である訳だな」
溝口は明快に答えた。内心はすっかり勝ち誇った気分で、後は相手の降参を待つばかりである。

宮野はまだ俯いたまま、モジモジと顔を赤らめている。その状態が2分近く続いたろうか?おもむろに、
「あれ?アンタのスマホ、私のアドレスって登録してなかった?」
唐突にそんな事を言い出したので、溝口は怪訝に思いながらも自分のスマホをポケットから出し、テーブルの上に置いた。
「何だろうな?こないだのアップデートから、微妙に調子悪いんだわ」
とぼけてみせる。溝口が身に着けている以上、スマホは改変の影響を受けていない。一旦体から離せば、改変された情報が流れ込んでくるのだ。
「…ああ、来た来た。変なの…」
宮野は一人で何事か納得している。その意図はよくわからないが、溝口はこの機を逃すつもりはない。
「それで、さっきの…」
言いかけたところで、スマホに通知が入ってくる。タイミング的に、宮野からという事には違いない。

内容を見た瞬間、時間が止まった。カティルの起こした現象としても、溝口の気分としても、である。
送られてきたのは、一枚の画像である。全体的に暗い画面、両側にぬっと出た艶めかしく白い物体、その奥に見える灰色の…布。
なんということか、事もあろうに宮野は自分自身のパンツを撮影し、送り付けてきたのだった。

時間が停止しているので、画面を消す事も、目を逸らす事もできない。
(待て、待て、待ってくれ。これはまずい)
《はい。ですから時間を止めています…落ち着いてください》
(この状況で落ち着けると思うのか!?)
《逆に興奮させてしまっているようですね。無理もありませんが》
(解って煽ってるだろ!お前!)
《はい。僭越ながら、ここで鬱憤を発散して頂くべきかと思いまして》
(余計に溜まるっつってんだよ!いいから動かしてくれ!)

動けるようになった途端、溝口はスマホの画面を消し、すっかり狼狽しながら小声で宮野に詰め寄った。
「お前、これ、一体…!」
すると宮野は、口に指を当てて『静かに』というジェスチャーをした。その視線の先に彼女の父親がいるのは明白で、その点についても身のすくむ思いである。
すると再度、スマホに通知が入った。恐る恐る見ると、目の前の宮野からメッセージである。

『これが私の回答』

完敗であった。
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  1. 2018/11/21(水) 20:24:53|
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