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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #18 宮野

6限目が終わり、放課後になっても、溝口は何ら有効な手段を思いつく事ができなかった。
それはカティルにしても同じで、まず何をするにしても焦点が当たらなければ影響を及ぼす事はできないという結論である。

(かといって、生徒指導室に出向く理由が無い)
《再度、相川さんと話をしてみるというのはどうでしょう》
(それこそ何を話す事がある?やっぱりさっきの作戦は問題があるって事にするのか?代替案が出ないぞ)
《役割を入れ替える位でしょうね。宮野さんを引き受けるしか選択肢もありませんが》
(厄介だな。実際問題、俺はあいつの事を全く知らん。引き受ける理由もないしな)
《貴方が導き出したこの状況は完璧ですね》
(嫌味はやめてくれ、取り返しのつかん事になってるのはこっちなんだ…諦めるしかないか)

相談などするまでもなく、既に相川達は生徒指導室に向かっている。追いかければまだギリギリ間に合うだろうが、その行動に意味を持たせる事はできないだろう。つまるところこの問題は、溝口個人にしか認識できない問題なのである。

「…ダーメだ、諦めよう」
そう呟くと、溝口は鞄を持ち教室を出た。これ以上考えても策は浮かびそうになかったし、とうにタイムリミットは過ぎている。
自分の犯した過ちは自分のものとして受け入れなければならない。それを知っているという事と、飲み込んで実行に移せるかどうかは別問題なのである。

正面玄関を出て、校舎を振り仰ぐ。今頃生徒指導室では乱痴気騒ぎが始まっているのだろうか?
溝口はひとつため息をついて、肩を落とした。喪失感と脱力感。少なくとも、一旦肩の荷は降りた。
明日からの事を考えると気が重くなるが、どう転ぶかはわからない。くよくよしても仕方のない事ではある。

懸念を振り払うように頭を振り、勢いをつけて歩き出す。「来るなら来い」、口の中で小さく呟いた。

「溝口ー、ちょっといい?」

突然、何者かに声を掛けられた。校門を一歩出た所である。
まさか、と思いつつ見ると、声の主は宮野だった。待ち伏せをされていたらしい。

(なんで宮野がここにいる…?!)
《それは直接聞くべきでしょうね。焦点はあちらとこちら、同時に来ています》
(同時進行か?向こうから仕掛けてきたのか)
《渡りに船、ですね。どうしますか?》
(指示はどうなってる?様子を見たい)
《『宮野、お前がなんでここに…』です》

「宮野…お前、なんでここに…?」
「そりゃ勿論、取材のためでしょ。アンタに聞きたい事があるのよね」
溝口の動揺を嘲笑うかのように、宮野は悪戯っぽく笑みを浮かべていた。
何らかの意図があるのは確かなようで、指示を待つまでもなく、この話は断れないものだとわかった。
だが、了解を即答できるものでもない。回答を渋っていると、宮野は何かを察したような顔をして小さく頷いた。
「じゃ、駅前の喫茶店に行きましょ。ここじゃ落ち着いて話もできないだろうから」
「お、おう…」
溝口の答えを待たず、宮野はすたすたと歩いていく。慌ててその後を追いながら、溝口は彼女の揺れるポニーテールから目を離せずにいた。

今朝見た喫茶店の扉をくぐると、芳醇なコーヒーの香りに全身が包まれるような気がした。
全体が茶色で統一されたシックな店内は、落ち着いているといえば落ち着いているが、おおよそ高校生の相手をするには格調高すぎるように思えた。見ればテーブルや椅子もかなりの年季もので、しかし綺麗に磨かれており何とも言えない艶がある。天井から下がっているランプシェードの柔らかな明かりは、この時間にはあまり役に立っていないようだった。

客の姿はなく、カウンターの向こうには店主らしい初老の男性がいたが、こちらを一瞥するだけで一声もない。
宮野は一番奥のテーブル席に腰を下ろしたので、溝口はその対面に座るしかなかった。
座るなり、宮野はメニューを溝口の前に差し出してきた。
「何でも好きなもの頼んで。遠慮しないでいいから」
買収にしてはあからさますぎる、と溝口が一瞬渋ると、即座にカティルから指示が来た。
「ここ、お前の家だろ。奢るとも言ってねえし。たちのわるい客引きかよ」
内心焦りながらも落ち着いて言うと、宮野はまたも悪戯っぽく笑ってみせた。恐らくは定型文に近い冗談だったのだろうが、溝口にはまだ状況が飲み込めていない。

(こんな設定が順次出てくるのか?)
《どうやら、貴方と宮野さんの関係性を掘り下げたいようですね。指示は来ています、落ち着いて対処しましょう》

「…まあいいや、こちとらわかってて乗ってんだ。ホットコーヒー、砂糖多めで頼むわ」
溝口はメニューには目も通さずに言う。これまで何度か来たことがある設定だと解釈したのである。
すると宮野は、
「はいはい、アンタいっつもそれだけよね。たまにはパンケーキなんてどう?オススメなんだけど」
と、すっかり飾るのをやめた表情で淡々と返してきた。
「お前、俺が金欠なの知ってんだろ?正直コーヒー400円だって結構痛いんだからな」
店主に聞こえないように小声で言うと、それを受けた宮野は片手を挙げて店主に注文を告げた。
「父さーん、コーヒーとパンケーキ2つずつね!」
「おいこらちょっと待て」
止めるが、宮野はキョトンとした顔で言う。
「いいじゃん、情報料情報料。不義理だと思われたくないし?」
「俺は喋るなんて一言も言ってねーんだけど!?」

ここまでの会話で、溝口にもおおよその関係性が見えてきた。
どうやら宮野とは冗談や軽口の通じる、言わば悪友に近い関係であるようだ。顔なじみどころではない、ある程度相手の出方がわかっている間柄という事である。
どういった理由でそこまで近しい関係になったのかは不明だが、とりあえず今のところはこの小気味よい会話に身を委ねても良さそうだった。
指示は逐一来ており、溝口は当事者であるにも関わらず、傍観者の気分でいられるから気楽なのである。
突然、元カノなどといった設定が放り込まれない限りは、だが。

「この店は相変わらずだな…」
溝口がそう呟いてみせると、宮野が噛みついてくる。
「なにそれ。相変わらずガラガラだって言いたいの?」
「そうじゃねえよ。前に来たのは去年の秋頃だったからな…変わってないって言ってんの」
「たかだか半年くらいで変わる訳ないじゃん。この店、おじいちゃんの代から60年やってんのよ」
「まったく、大したもんだよな。継続は力なり、だ」
溝口が何の気なしにそう言うと、宮野は表情を曇らせた。
「アンタがそれ言う…?」
その表情の理由が、溝口にはわからない。

少しの沈黙の後、店主が宮野を手招きした。呼ばれて席を立った宮野は、コーヒーとパンケーキの乗ったトレイを運んでくる。
「お待たせしましたー、こちらホットコーヒーとパンケーキでーす。ごゆっくりどうぞー」
抑えた声で歌うように定型文を読み上げる宮野の姿は、日常的に店の手伝いをしているらしいと察するのに十分である。
トレイをカウンターに戻して、宮野は再び席についた。
「さ、食べてみて。アンタ甘党だから絶対気に入るって」
促され、フォークとナイフを手に取る。躊躇はするべき場面なのだが、既に品物が出されてしまっている以上は拒否するだけ時間の無駄である。
それよりも、まだ本題に移っていないのが気掛かりではあった。彼女は溝口という人間に一体何を求めているのだろうか?

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  1. 2018/11/19(月) 21:23:59|
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