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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #17 代償

「ともかく、下手に嘘をついて怪しまれるくらいなら、最初から本当の事を言っちまったほうがいい。幸い新垣先輩は結構な堅物だからな。校則に触れていなければ問題視はしないはずだし、この事は絶対に秘密にしてくれと言えば約束もしてくれるはずだ」
溝口がそう〆ると、4人は感嘆の声を上げた。
「すごい…ちょっと見直した」
川上が素直な感想を口にすると、即座に牧村が茶々を入れる。
「瑞穂、騙されちゃ駄目。こいつは普段から風紀委員とやりあってる悪党なんだから、経験値が違うのよ」
「それでも、流石は溝口だよ。成績学年上位は伊達じゃないってところか」
続けざまに相川がそんな事を言うので、溝口はようやく、自分のしでかした事の重大さに気が付いた。
途端、時間停止が来る。

《やはり、まずい事になりましたね》
(そう思ってたんなら止めてくれても良かったろ…)
《私は観測者です。助言はできますが選択権はありませんよ。それに、どのような変化が起こるのか興味もありましたし》
(…くそ。今後風紀委員を敵に回して、成績上位も獲れってか。サラッと人を不利にさせやがる)
《ですが、実際たいした理屈でした。よくも即興であれだけ喋れるものです。私にも読めませんでしたよ》
(嘘をつけ、あんなのはパターンの組み合わせでしかないだろ。こう言えばこう来るってのがバレバレだったからできた、それだけだ)
《校則違反のヘアゴムについてですね?》
(そうだ。あれは俺が小学生の頃の、校則でも何でもない、ただの決まりごとだぜ。そこに意味なんか無ぇし目的もよくわかんねえのに、とりあえず駄目ってことになってたんだ。ただ漠然と、子供は派手じゃいけないって認識があるんだろうよ)
《その認識が通ったから押し切れた、という事ですね。興味深いです》
(なんとなくそんなイメージ、ってのが現実になる世界だって事だろ。それがテメーに跳ね返ってくるのも当然か…)

とはいえ今更どうにもならない。怒りに任せて出任せをやった結果がこうなのである。
言い訳をしようにも、話が掘り下げられればそれだけ逃げ道が塞がれてしまうだろう。今は話を先に進めるしかない。
「風紀委員全体って訳にはいかねーが、最低限、新垣先輩は味方につけとこう。真正面から話せばわかってもらえるはずだから、レーティアさんは気負わずに、正直にいけば大丈夫だ。
 けど、他にもまだ問題が残ってる」
「問題?まだ何かあるのか?」
相川の問いに、溝口は声を潜めて答える。
「…宮野だよ。レーティアさんの正体があいつにバレるのだけはマズい。騒動が起きたのは朝で、あいつがどんなに取材下手でもいい加減情報が耳に届いてる頃だ。生徒指導室の周囲を嗅ぎまわられると厄介だな」
すると、牧村が口を出してくる。
「だったら、顔なじみのアンタがうまく誘導できないの?今みたいに」
言われて溝口は一瞬言葉に詰まる。しかしカティル経由の台詞指示が無いので、ここは少し頭を捻る必要があった。過去に一度、宮野の追求から逃げている事についても整合性を持たせなければならないからだ。
「…俺はアイツとは相性が悪いんだよ。なんつーか、新垣先輩は基本他人を信じるタイプなんだけど、宮野は疑う所から入るだろ? 要するに、アイツがどんな答えを求めてるのかがわからんから、誤魔化しようがねーんだわ。
 そんな訳で、宮野には川上か牧村で対処してくれ。相川は付き添いの体で生徒指導室の前を見張りだ。俺は風紀委員とも宮野とも鉢合わせるとマズいから、この作戦には参加できねー。悪いが頑張ってくれ」
半ば強引に役割を振りわけて、溝口はこの状況を切り上げる事にした。

殆ど手を付けていないパンをレジ袋に突っ込んで、4人を残したまま屋上から去った。強く引き止められもしなかったので、ひとまず彼の役割は終わったと考えていいらしかった。

(やっぱどう考えても、出しゃばり過ぎだよな…)
《そうですね、否定はできません。今後、貴方の立ち位置は大幅に変更される可能性が高いでしょう》
(押し付けられたギャグキャラよりは多少気楽なんだが、どうなるかな?)
《厄介なのは、貴方がブレーン的能力を発揮してしまった事です。これまではその役柄を牧村さんが担うと考えられたのですが、この件により彼女は自分の役割を大方失った形です》
(それは…俺としちゃ胸のすく思いだが、まずそうか?)
《ブレーンとしての役割を失った彼女が今後どのように扱われるか、いくつか可能性は考えられますが…結果待ちですね》
(最悪どうなると思う?)
《牧村さんの存在が消えます。あくまで最悪の場合ですが、その可能性がないとは言えません》

少しの反省と、大きな不安があった。予定されていたシナリオを大幅に狂わせて、人間関係の均衡を崩したのだ。パターンが切り替わるだけだと考えれば少しは気が楽になるが、問題はその過渡期にある。どのような変化が生じるかは予測がつかない。
ただでさえ、溝口の予測は既存のパターンによる憶測である。知りうるパターンも決して多い訳ではなく、先のヘアゴム然り、漠然と「こんなものだろう」という認識でしかない。
逆に言えば、一般的に「こんなものだろう」と思える事こそが論理にもなる訳で、だからこそ「事実は小説より奇なり」という諺も産まれるのだ。パターンというものがある限り、そこから逸脱した物事はそうそう起こらない。
それだから、パターン破りの発生は危険なのである。そしてそれをやってしまったのが自分だという事実は、重い。

(俺がこの世界を壊しているんじゃないのか?)
その問いに、カティルは答えなかった。

午後の授業は普段通りに流れていく。時間経過がないという事は、この間それぞれに思惑や葛藤があるのかもしれなかった。
いずれにせよ、溝口はこの件についてこれ以上関わらないつもりでいる事を明言してしまっている。このパターン破りがどのような結果をもたらすのか、外側から見ているしかできない立場になった。

溝口は考える。もし本来のシナリオに逆らわなければどうなっていたか?
恐らくレーティアは、解決策を何も持たないまま呼び出しに応じるしかない。そこで相川達は生徒指導室の外で状況を見守るのだろう。
レーティアは話を誤魔化すことができず、何らかのトラブルを発生させる。外で待機していた者も巻き込まれるのだろう。つまりはそこがサービスシーン的見所になったはずで、正体がどうとかいう話はただの設定であり、大きな問題ではない。
しかし溝口の反逆によって状況が変わり、重要なのは正体だという事になってしまった。これは溝口個人の思い込みによる過ちである。そして宮野の存在を思い出させてしまった事で、状況をややこしくしてしまった。

コメディ的世界観が彼個人にとって都合が悪いのは確かだが、既に宇宙人というワードが存在する以上、シリアスに向かうと死人が出かねない。そもそも状況として見ればとっくに破綻しているのだ。
あるいは現在の風景が根本からひっくり返るような設定を打ち込まれる可能性も充分にあると考えれば、どうにかしてこの状況を笑いものに変える必要がありそうだった。

だが、ストーリーの外で賑やかしをやった程度では、世界観に影響を与えるには程遠い。ここから中核に切り込んで話を更に掻き回すのも、混乱に拍車をかけるだけだろう。
様子を見るべきか、何かしらの手を打つべきか。手を打つにしても、この状況から何をどうすれば展開を軌道修正できるのか。

代償は、大きい。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/11/16(金) 22:02:07|
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