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有象無象ディメンション

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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #16 キレる

一限目の休み時間になって、カティルから焦点到来の報を受ける。すると教室後ろの戸が勢いよく開かれて、先ほどの風紀委員、新垣が緊迫した面持ちで現れた。
「レーティアという生徒はいるか!」
おもむろに向けられたその剣幕にレーティアはおずおずと立ち上がる。
「わ、私です…」
「うむ、お前だ。放課後生徒指導室まで来るように!以上!」
それだけ言うと、新垣は戸をぴしゃりと閉めて立ち去った。

あまりに唐突な出来事に、教室中が一時騒然とする中、川上と牧村が駆け寄ってくる。
「ちょっとちょっと、大変な事になってない!?」
「なんとなく想像はつくけど…」
牧村はまだ事情を知らないが、察してはいる様子である。その『世間の事なら大抵はわかります』的キャラが、溝口には癪であった。相川は声を潜めて、
「ともかく、ここで話をするのはマズい。昼休みに屋上で相談しよう」
それでこの場での話は一旦締め切られて、各々は席に戻り、溝口は前に向き直った。
休み時間の間は教室中がザワザワとしていたが、それでも二限目開始のチャイムが鳴り教師が入ってくると、普段通りに戻っていく。

途端、時間経過が発生した。即座にカティルが時間を止める。

(…もう昼休みか?)
《正確には、その5秒前ですね》
(授業を受けなくていいのは助かるが、こうも気軽に飛ばされるとな…ついていけねぇなぁ)
《学力の更なる低下が懸念されますね》
(ホントその通りだから冗談はやめてくれ。マジで洒落にならん、考えたくない)

時間が動き出すと、間もなく四限目終了のチャイムが鳴った。二限目からいた教師が教室を出ていくのを見て、溝口はやるせない気分になる。

(時間経過ってのは、人間の配置までは変化がないのかね?)
《というよりも、その必要がなかったのではないでしょうか。皆口教諭という存在に対して焦点が当たらないために、その所在について考慮する必要がなかったものと思われます》
(うーむ…そういう感じでいいのか?辻褄はどうなる?)
《彼らに具体性のある内容は与えられていませんよ。あるのは『今が一体何時なのか』という認識だけです。その中身が必要になれば、『神』が創造するでしょうね》

溝口は席を立ち、購買に向かう。彼にしてみれば、普段より3時間も早い昼食である。腹など減っている訳がない。
それでも見た目の体裁を整える必要があるので、サンドイッチとアンパン、烏龍茶を買い、屋上に向かう。

泉光高校の屋上はまさしくただの屋上であり、何の施設もない。本来生徒が屋上に出る事すら想定されていないので、階段は半ば物置と化しており、屋上に出る扉は施錠されていたし、外に出れば手すりなどは存在しなかった。
屋上を運動スペースなどに活用している都会の学校ならともかく、校庭が十分に確保できている田舎の学校というのは、そういうものである。漫画やアニメに登場するような開放感のある屋上に憧れても、現実は安全のため立ち入り禁止、なのだった。

しかし先の改変以降、屋上への階段から荷物は消滅し、扉は開放された。ベンチや手すりが配置され、ささやかではあるが夢のような空間になったのである。

(さすがにこれは、少し感動するな)
《フィクション的なものに対する羨望ですか》
(お約束というかな。物語だと、屋上ってのは当たり前の舞台なんだよな)
《屋上が規制されるのであれば、3階の窓というのも危険に思えますが…》
(屋上は教師の目が届きにくいってのが問題なんだろ。エアコンだって普及してるんだし、いずれ教室の窓だって開かなくなるかもしれんぜ)

それほどまでに待ち望まれた場所である屋上だが、利用する生徒はほとんどいない。ご都合主義ではあるにせよ、実際のところ、利便性の低い場所は敬遠されるのが現実である。

《「階段を昇るのが面倒だ」とか「日当たりが良すぎる」など、つまりは面倒になるのです。憧れと日常とは別物で、一度登ってみれば「こんなものか」と満足してしまう。
 進入を禁止されていない中庭にだって、わざわざ好んで行く人はいません。靴を履き替えるのが面倒だし、校舎から丸見えだからです。そういうものです》

出入り口の影になっている所で、4人は車座になって各々の昼食を広げていた。相川は購買のパンで、女子3人は弁当持参である。
川上の弁当は手製で、牧村は母が、そしてレーティアのは付き人のエルシィによるものらしい。それは溝口にとっては実にどうだっていいような情報なのだが、そのように指示を受けたなら、世間話をする必要はあった。

「それで、どうするの?」
川上がこう切り出して、新垣にどう対処するかという話し合いがはじまる。
とはいえ溝口からすれば、今回この件に首を突っ込むつもりはないから、結論待ちの出来レースであった。
「レーティアが宇宙人だってバレるのは、まずいよな…」
相川がそう言うと、即座に牧村が反論する。
「でも、このままだと風紀委員を敵に回す事になるんじゃない?」
「それは…困ります…」
レーティアは落ち込んだ様子を見せている。正体がどうこうというよりも、敵を増やすという所に抵抗感を感じるという事だろう。
それを受けて、川上は頭を捻りながら言う。
「うまく誤魔化すしかないのかな…?」
「でも、どうやって?」
相川の疑問に、全員が考え込んでしまう。正確には、溝口を除いた4人であるが。

「うーん…溝口はどう思う?」
相川から話を振られたので、溝口は指示の通りに返答する。
「そうだなぁ…。いっそ、正体をバラしちまうってのは?」
明らかに、叩かれるための言葉である。この場では誰も選ばない選択肢を提示する事によって、キャラとしての無能を見せしめるための台詞。あからさますぎる白々しさに、溝口はこの台詞をほとんど棒読みで垂れ流した。
そうして、この台詞に牧村が噛み付く。
「あんたねえ、少しは真面目に考えなさいよ。まったく、役立たずなんだから…」
予定調和である。多少落ち込んでみせればギャグになる、そのことは溝口自身よく理解していた。

だが、このとき彼はとうとう、キレてしまった。

ひとつ大きな溜息をつくと、溝口はつとめて冷静に、しかし確実にこの連中を叩きのめすために、語り始めた。
「真面目に、か。そうだな、この際ちょっと真面目に考えてみようぜ。
 まず第一に、風紀委員から逃げるってのは論外だ。いたずらに騒ぎが大きくなって、風紀委員だけじゃなく学校中から疑いの目を向けられるからな。
 じゃあどうやって誤魔化すかって話なんだが、落ち着いて考えてみてくれ。そもそも新垣先輩は何を疑った?」
この質問に相川が答える。
「レーティアの髪、だけど…」
「ああ、そうだ。じゃあもうひとつ質問なんだが、それは一体何だと思われたんだろうな?」
「あ…!」
何かに気付いたように、牧村が声を上げた。溝口はそれを無視して、川上に目を向ける。
「川上はどうだ?」
「ええと…アクセサリーとか…?」
「正解。少なくとも新垣先輩が見たのは、髪が動いているという現象だけなんだよ。それをもって『私、実は宇宙人なんです』ってのは、下手な言い訳にしかならないよな?」
「動くのは、事実なんですけど…」
おずおずとレーティアが口を挟むが、溝口はそれも無視をして話を続ける。
「つまり逆に言えば、適当な仕掛けをデッチ上げて『もうやりません、ごめんなさい』と言えば、それで終わり。むしろそれこそが相手の望んでいるシナリオだよな」
「なるほど…。でも、その仕掛けはどうするつもり?そんなの作ってる余裕なんてないけど?」
牧村の指摘に、溝口は薄笑いで返す。
「そんなもん、何だっていいんだよ。それこそただのヘアゴムでもいい。確か校則では、派手な色のヘアゴムは禁止されてたよな?」
「ええと…うん。蛍光色のとかは禁止されてた筈。みんな守ってないけど」
予想通り川上がそう答えたので、溝口はこの状況に対する勝利を確信した。

「つまり、こういう事だ。レーティアは校則違反の色のヘアゴムで頭頂部の髪を括っていた。それが風に揺られて動いていたんだな。ところがそこを風紀委員に見つかってしまった。まだ学校に慣れていないレーティアのために、相川が咄嗟に嘘をついて逃がしてしまった…と」
この溝口のシナリオに、4人は文字通り目を丸くして驚嘆した。

しかし、牧村はまだ納得できないという顔で溝口に食って掛かる。
「アンタねえ、そこまで考えてあるんだったら、なんでさっきは適当な事を…」
溝口はその言葉を遮った。そう来るであろう事は予測済みなのである。
「実はな、このシナリオには最大の欠陥があるんだ」
「欠陥?」
川上の、理解が追い付かないという顔。
「そう、最大の障壁であると同時にとんでもなくシンプルな問題だ。
 …あのな、レーティアにそんな嘘がつけると思うか?」

「「「「あ!」」」」

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  1. 2018/11/12(月) 20:36:15|
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