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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #15 客観性

『泉光高校前』駅で電車を降りる。かつての青沼駅は、外観こそほとんど変化はないものの、周辺の状況は一変していた。
道幅は明らかに広くなっており、車道と歩道が分離されている。シャッター商店街だったはずのそこは、活気があるとまでは言えないものの、それなりに明るく生気のある街並みになっていた。

なにせ、シャッターを下ろしている店が一軒もないのである。以前より営業していた小さな薬屋はそのままに、木の陳列棚が歴史を感じさせる本屋、朝からコーヒーの良い香りを漂わせているシックな喫茶店、白を基調とした明るいクリーニング店、いかにも古くからそこにあったと思わせる寿司屋、たこ焼きやアイスなどテイクアウト専門の軽食屋、そして駐車場のないコンビニまでもが、さも当然とでも言うように存在している。
一体どこの誰が、これらの店を必要とするのだろうか?駅を利用する者など、泉光高校の生徒くらいしかいないのに!

(こんなんで採算取れる訳がない…!)
《この状態へと変化したのは昨日の朝ですね。貴方が待ち合わせのために到着した時点で改変が行われています》
(それも見栄えのためか?近場でイベントを起こすための舞台装置か?)
《現状ではそのように考えるのが妥当でしょう。しかし、まだ改変の影響が局地的であることを鑑みるべきですね》
(…状況がフィットしてくるってのか?かなり大規模な改変ってことになるぞ)
《何が起こっても不思議ではありませんよ。既に異星人が存在しているのですから》

学校までの道のりは以前と変わりがない。川沿いを歩くというシチュエーションはそれなりに捨てがたかったのだろうか?
それでも校門が近づいてくると、生徒達の喧騒が大きくなってきた。そこに溝口はどことなく違和感を覚える。
そして間もなく、その違和感の正体が見えてきた。

見覚えのない女生徒――とはいえ、溝口にとってはクラスメイト以外の女生徒は全て見知らぬ存在だったが――が、校門の前に腕組みをして立っている。几帳面な性格を誇示するかのようにまっすぐに切りそろえられた黒々とした前髪、右に結んだサイドポニーテール。その左腕には「風紀」とこれ見よがしに書かれた腕章があった。

(風紀委員か…いかにもなパターンだな)
溝口は深く溜息をつき、肩を落とした。予想できる事態だっただけに、パターンを外してこない展開に脱力感が大きい。
《3年C組、新垣志乃(あらがき・しの)だそうです。今朝『発生』したばかりのようですね》
(風紀委員会もな。そんなもんが現実に存在するなんて聞いた事ねえよ)
《歴史の古い学校であれば、慣例的に存続している場合もあるようですが》
(生徒が生徒を取り締まるだなんて、喧嘩のもとにしかならねぇだろ?)
《それは捉え方次第ですね。生徒自身が規律を掲げ、意識を共有する事に意義はあるでしょう》

勝ち目のない口論になりそうだったので、溝口は一旦その会話を切り上げた。
実のところ、彼は大いに安堵していたのだ。その風紀委員が武器を持っていなかった事に。
最悪は刀そのものだが、木刀であっても致命傷になりかねない。竹刀であれば許容範囲だろうが、防具なしで受ける一撃のダメージは軽視できるものではない。
もし彼女が武器を持っているならば、その武器を使う事そのものが彼女のアイデンティティにもなってくる。その矛先を向けられるとすれば男性陣しかありえないのだから、溝口の立ち位置はまさに一触即発の危険区域といえた。

(ああいうのが出てきてるって事は、ここに焦点が来てるのか?)
《今のところは反応が見られません。少なくとも今の私達には絡まないようです》

その回答を得て、溝口は風紀委員の横を堂々と通過してみせた。少なくとも今の彼に、外観上校則に違反するような点はない。

教室に入ると、まだ相川達は来ていなかった。机にカバンを置き、椅子に浅く腰かけて大きく欠伸をした。
少し遅れて、植木が教室に入ってくる。溝口は横目に様子を伺うが、植木の方は溝口を気に掛ける素振りもない。
朝、公園にいたという事に気付かれていないのだから、関係性に変化のあるはずがないのだ。それは理解していても、漠然とした妙な感覚があった。
それは、とりもなおさず溝口の側から関係性を改めたという事に他ならないのだが、彼自身にはその認識がない。
植木の席は最後列の右から3番目、レーティアの右隣である。

しばらくすると、相川とレーティア、それに川上が一緒に教室に入ってきた。見たところ、相川は落ち込んでいる様子である。
瞬間、カティルから通知がくる。

《この場に焦点が当たっているようです。校門で先の風紀委員の方と、衝突があったようですね》
(ああ…そっちか。指示は?)
《まだですが、顛末を尋ねる必要はありそうですね》
(だろうな。さっきの風紀委員…何て言ったっけ?)
《新垣志乃、です。風紀委員長で、校内に名の知れた堅物…ということです》
(了解)

相川の接近を待って、溝口は自分から声を掛けた。

「よう、どうした?素行不良で新垣先輩にとっちめられたか?」
茶化して言うと、相川は気まずそうな顔でレーティアを見やった。
「いや…それがさ。俺じゃなくて、レーティアがさ」
「レーティアさんが?」
キョトンとする溝口。ヒロインが何がしかの嫌疑をかけられるというのは、意外な方向ではあった。
見ると、レーティアは状況を理解していないようで、平然としている。到底何かがあったようには見えない。
そこで、声を潜めて再度問い掛ける。
「レーティアさんの、何がまずかったんだ?」
すると相川は、同じように声を落として答えた。
「…アホ毛が動いてるのを、見られたみたいなんだ」

つまるところ、このような話である。

相川と川上、二人と共に登校してきたレーティアは上機嫌だった。昨日の話で随分と盛り上がっていたらしい。
その上機嫌が、アホ毛の方にも伝わっていたらしいのだ。
知らず知らずのうちに動いていたアホ毛を、新垣に発見された。そして新垣は、レーティアのアホ毛をアクセサリーだと勘違いしたらしく、3人を呼び止めた。
だが、レーティアのアホ毛は、彼女が宇宙人である事の証明みたいなものなのだ。取り外す事はできないし、正体がバレるのはもっとまずい。
そこで相川は咄嗟に「気のせいだ」と言い切り、レーティアの手を引いてその場から逃げた…。

「それ、完全に目ぇつけられるじゃねーか…」
溝口がそう言うと、相川は大いに肩を落とした。

(どう思う?)
《上々でしょう。うまく対応できたようです》
(ああ…まあ、状況としてはな。ただ、物語として見るとどうも怪しい)
《レーティアさんの正体を隠す、というのが主題になっているようですね。如何せんインパクトに欠ける展開です》
(それなんだよな。そもそもレーティアの異星人たる証拠がアホ毛とか、舐めてんのかって話だ。装置として小さすぎる)
《その感想を一般的感覚として捉えるならば、その設定に今後何らかの改変が生じる可能性はありますね》
(わかりやすい異質感か。一般的かどうかはわからんぜ)
《少なくとも、客観性という意味では私にその視点はありませんから。全ての主観の集合体であるアカシックレコードは、この事態に対する客観性を持ち得ないのです》
(それで俺に客観性を求めるのか?更に面倒な立ち位置になったぞ)
《何もかもを期待はしませんよ。貴方が自由であるという事実が、私にとって重要なのです》
(四方八方を取り囲まれているようにしか思えんけどな…)

客観性。この状況下、目の前の現実に疑問を持つことを許されているのは、溝口ただ一人のみである。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/30(火) 21:04:05|
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