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有象無象ディメンション

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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #14 いつも通り

最後の全力走が堪えたらしく、若干貧血気味になっていた。さっと熱いシャワーで汗を洗い流すと幾分気分がスッキリする。
廊下に出ると、妹と鉢合わせになった。既に制服に着替えているから、家を出る前に鏡を見ておきたいのだろう。

「ジョギング始めたの?」
「まあ、ちょっとだけな」
「…変なの」
「色々あるんだよ」

それだけの淡々とした会話。にも拘わらず、溝口にとっては何となくむず痒い。
妹の真理と直接向き合って会話をするのは、随分と久しぶりである。それが例え改変の影響下であっても、見た目には母ほど明らかな影響を受けてはいないから、そういう感覚になるのだ。

(変、か。確かに変な話だ)
《そう感じられる妹さんの感覚は、正常といえます》
(だろうな。で、あいつとオフクロに与えられた影響は同じ程度と思うか?)
《差異を生じさせる必然性は無いのでは?》
(恣意的なものじゃないって言えるのか?…まあ、いい)

自室に戻り、制服に着替える。いつも通りの薄っぺらなカバンを手に取り、リビングへと降りる。
食卓の上には既に朝食が用意されていた。米飯と目玉焼き、ベーコン。それにトマトとレタス。
米に対してパン向きのおかずという取り合わせは、溝口がパンを苦手としているからだ。妹はこのおかずで普通にパンを食べていった筈である。
何も言わずに食卓につき食事を始める。母はそんな溝口の様子を横目でちらと見たが、特に何も言う事はないようだった。
暫くすると父親が起きてきて、外の新聞を取ってリビングに入ってくる。溝口の父は帰宅こそ夜遅くになるが、その分朝も遅い。
父はやはり無言で食卓につき、無言のまま食事を始める。この辺りは改変前と変化がないように見えた。

だからこそ、溝口にとっては若干の違和感が生じる。母の性格は変わったように見えるのに、何故この状況で改変前と同じような状況になるのだろうか?
帰宅時にはただいまを要求したにも関わらず、である。

しかし溝口は、この事について考えるのをやめた。今はまだ自分の中で整理がついていないのだし、カティルと認識のすり合わせをしたところで、円滑な家族仲のために都合のいい誘導をされるのが関の山だと感じていたからだ。
実際問題、溝口はカティルに対して100%の信頼はできないと考えていた。『知り合った』のは昨日の午前中で、しかも一方的な関係性である。向こうが溝口を知っているとしても、溝口の側からすればカティルが真にアカシックレコードなのか、それとも改変者の一部であるのかが判別できないからだ。
こと時間停止状態での会話は、カティルによれば溝口の思考をトレースしたものであって、現実に思考した結果ではない。にも関わらず、一度ならず二度三度、溝口はその疑似的な思考によって丸め込まれている。

反発心がある、ということではない。状況に流されるだけの生き方、怠惰な高校生活に明確な目的意識を持たせてくれたという事には感謝しているし、何者かによるシナリオのために自我を奪われた状態での記憶も残っているから、そこから解放してくれたという点でも信頼には足りる。
だが、カティルの目的が状況の観察にあり、状況に対して関与するためには溝口の手を利用しなければならないという所で、溝口にしてみれば自分を利用する者が置き換わっただけの話ではないか、と感じられてしまうのだ。
そうして現実、溝口はこの状況に対して逃げを打つ事もできず、今またその中心へ身を投じようとしている。

学校!つまるところ、そこが彼にとっての戦場なのだ!

家を出る10分前になって、ふとある事に思い至る。
(…念のため確認しておくが、電車の時間は変わってないよな?)
《私は時刻表ではありませんよ。勿論それについても把握はしていますが、貴方自身が調べればわかる事については、私は関与を控えさせてもらいます》
(テストの回答も教えてくれないのか?)
《答えのわかりきった事を訊かないでください。おや、これはお互い良いジョークでしたね》
(本当、人間味のある疑似人格だよな)

にやけながら、スマホで時刻表を検索する。ひとまず改変の影響は鉄道には及んでいないようだった。
すると、おもむろに父が声を掛けてきた。
「アラタ、何かいい事でもあったのか?」
「…いや別に、何でもない。行ってきます」
溝口は短く答えると、カバンを掴んでリビングを出た。何てことのない会話だが、彼が父と言葉を交わしたのは、数か月ぶりの事である。

自転車に跨り、坂道をゆっくり下っていく。駅までは1km程度で信号も駅の正面にしかなく、急げば3分とかからないのだが、この時間は通勤・通学のために駅へ向かう人が多いので、慌てるとその分事故に遭う危険性が高まるのだ。
自転車置き場で、いつもの場所に自転車を停める。昨日無くさずに済んだ定期で改札を抜けると、ホームには既に30人ほどの学生が思い思いの場所に並んでいた。その中には植木の姿もあったが、溝口には気が付いていないようだった。
溝口はいつもの通り、先頭車両の列について電車を待つ。

ホームに入ってきた電車を見て、溝口は顔をしかめた。
車社会の田舎にとって、鉄道はあくまでも副次的な交通手段である。自動車が一家に一台どころではなく一人一台という社会において、鉄道を利用するのはもっぱら学生などの交通弱者だ。
そのため朝夕はそれなりに混雑もするが、総数はたかが知れている。
混雑時は2両編成。それ以外の時間は1両。私鉄である以上は最低限の経費で利益を出すという訳だ。

にも関わらず、今溝口の目の前には、4両編成がある。案の定乗客が分散して車内はガラガラになっているが、明らかに改変の影響を受けたものであろう。

(…これって、どういうんだ?)
《見栄えの問題でしょう。貴方は気付かなかったようですが、昨日の時点でこの改変は発生していましたよ》
(ああ…電車が1両だと、いかにも田舎くさいもんな…)
《こういった点からも、改変者の傾向が見て取れます。興味深いです》
(そうかね?ともあれ、奴はこの街を唯ののどかな田舎のままでは居させてくれないらしいが)
《ただの田舎では発生する状況にも限りがあります。人口の多い方が有利でしょう》
(だとしても、それなら最初から都会の学校を舞台にするべきだろう。何故ここなんだ?)
《そこについてはまだ情報が不足しています。歪みの中心である相川さんがこの改変に対してどのような影響力を持っているか、という事でもありますから》
(相川が改変者であるという可能性は?)
《ないとは言えませんが、彼自身も改変の影響を『非常に強く』受けている以上、可能性は薄いでしょう。高校生男子が自分の思い通りに世界を改変するとなれば、このような回りくどい状況にはならない筈です》
(…お前が俗にも精通してて助かるよ。お陰で話がわかりやすい)
《どういたしまして》

ともかくも溝口は、いつも通りに運転席の後ろに立って電車に揺られていく。
こころもち、沿線の風景が違ったように感じられた。だが、確証はもてない。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/22(月) 21:42:25|
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