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有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」#11 『戦闘開始』

溝口は一つ大きく咳をすると、神妙な顔で事態を打ち明けた。
「みんな、今まで黙っていてすまん…!実は俺…」
「実は…?」
皆が固唾を飲んで見守る中、溝口は断腸の思いで告白をした。
「俺…財布を落としちまったんだ!」

「はぁぁ!?」
突然、牧村が怒声とともに立ち上がる。
「溝口アンタ、私が金貸してやったのに財布ごと無くしたの!?」
「スマン!俺の不注意だ!」
牧村はテーブルに平伏す溝口の後頭部を睨み付けるが、無駄だと知って溜息とともに腰を下ろした。

事の成り行きを唖然としたまま眺めていた4人だが、牧村の発言を飲み込んだ川上が、状況を整理しようと声を上げる。
「ええと…つまり、溝口は財布を落としたのね?それで、紗雪は溝口にお金を貸したの?」
「ううん。金を貸したのは今朝」
「今朝ぁ!?」
川上は(信じられない)という目で溝口を見た。
「そう今朝。駅で会った瞬間に土下座よ。それで仕方なく5千円貸したんだけど…」
頬杖をついて明後日の方向を見つめながら、牧村は口を尖らせた。今は溝口を視界にすら入れたくないらしい。
それに対し、溝口は無意味な反発をみせる。
「俺は2千円だけ貸してくれって言ったんだけどなぁ…」
「だ ま れ」
牧村のドスの効いた声が、溝口をプレッシャーで圧し潰した。

すっかり川上も頭を抱えたが、しばらくすると、割り切ったように顔を上げた。
「…うん、気にしても仕方ないね。私達はまだ買うものも残ってるし、相川にも荷物持ちしてもらわなきゃだから」
「え?俺?」
突然名前を出されて相川はキョトンとした顔を向ける。
「けど、溝口はどうするんだ?」
「どうもこうもないでしょ。置いてくわよ」
即座に牧村が口を挟んで、溝口の希望を潰しにかかる。
溝口はテーブルに突っ伏したまま、結論が出るのを待つしかない状況である。

すると、ここまで静観を保っていたレーティアが口を開いた。
「でも、お財布が見つからなかったら帰れませんよ…?」
「こんな奴、自業自得でしょ。ここから歩いたって2時間もかからないわよ」
牧村の中では既に結論が出ているらしかった。しかしレーティアはなお食い下がる。
「では、こういうのはどうですか?みんなでお金を出し合って、帰りの電車の料金だけ渡すというのは…」
「うーん…それが一番無難かもね…」
これに川上が賛意を示したので、先ほどまで反発していた牧村も渋々納得するところとなり、エルシィ以外の4人がそれぞれキリよく200円ずつ出すという形で決着がついた。
「すまねぇ…すまねぇ…」
溝口は何度も謝罪を口にしていたが、レーティア以外は誰も真に受けないのだった。

5人が去っていき、フードコートには溝口一人が取り残された。
(…やれやれ、土下座は免れたか)
《テーブル席で土下座をするのは困難ですからね。展開としてはその方が面白いと思うのですが》
(人の不幸を面白がるのか?お前が)
《そういう訳ではありません。これが物語であるなら、今の展開は陰湿であり、退屈ではないですか?》
(確かにな。もうちょい派手なドタバタを構えてたのに、拍子抜けではある)
《こういう展開が続くと、貴方の立場も難しくなりますし、理不尽な改変が起こる可能性も高まります。良くない兆候ですね》
(さて、キャラが掴めてないって奴かねぇ)
《GW明けから物語が始まったとすれば、まだ序盤ですから、そう考えるのが妥当でしょう。であれば、こちらからアプローチをかけるという手もあります》
(キャラが勝手に動く、ってのをやるんだな?リスクについてはどう見る?)
《今のところは、リスクはほとんど無いはずです。ただ、裏表のある行動をするのは常に危険でしょうね》
(同意見だな。こいつがラブコメって前提で、ひとまずは徹底してピエロをやりきるのが、結果的に最もリスクの少ない道だろう。下手に立ち回ってバトルものになったり、SF方向に舵切りされるのはマズい)
《少年漫画的には、人気が落ちるとトーナメントというお約束もありますし》
(そのためにはヒロインの魅力を引き出しつつ、場を賑やかして楽しませ、自分は死なないように立ち回る。どうも俺への要求が多すぎやしないか?)
《兎にも角にも、必要な情報が揃うまではこの物語を閉じさせる訳にはいきません。歪みがそのまま残るという事になれば、いずれどこかで壊滅的な破綻が生じるでしょう。そうなれば世界は終わりです》
(俺のやる気を高めるために、どうもありがとう。そんな深刻な話にしてくれなくたって、俺はやるよ。単純に気に食わないからな)

「さて…」
溝口は席を立つと、すっと辺りを見回した。
時刻は13時を回り、フードコートの忙しさも一段落といった様子である。この場所にいても、これ以上何も起きないだろう。
かといって、迂闊に歩き回れば相川たちと鉢合わせてしまう。どうせ顔を合わせても発展性のないつまらない会話にしかならないので、避けるべきである。
今のところ、指示は来ていない。ひとまず絶対に鉢合わせるはずのない食品売り場に向かいつつ、溝口はカティルに尋ねた。

(そういや聞いてなかったが、今どこに焦点が当たってるかはわかるのか?)
《はい。貴方へ向けられた指示をキャッチできたことで、各々の認識の内にある歪みを把握できるようになっています》
(怪我の功名だな。あっちはどんな様子だ?)
《下着売り場で試着をしているようです。見に行きますか?》
(冗談。どう考えても割に合わねえよ…にしても、このタイミングでやる事かね?飯食った直後で腹出てるのにさ。午前中何やってたんだあいつら)
《荷物になるのが嫌だから下見だけしていた、と昼食時に話していましたよ》
(そうかい。こっちは連中の話なんざ聞かなくても会話に参加できるもんでな…まあいい。ひとまずはお約束のエロシーンって奴だろうし、それが終わりゃあ多分また時間経過だ。…いや待て、幕間をこっちに振ってくるかな?)
《おや、勘が冴えてきたようですね?》
(パターンだろ。よし、自販機のある休憩スペースで待機しとこう)

《焦点が来ました。指示は特に無いですが…間違いありません》
(よし。仕掛ける)
「あークソ、探しつかれてノド乾いちまった…」
溝口はわざとらしく声を上げながら、自販機で160円のペットボトル飲料を購入する。
そうして取り出し口に品物が落ちた瞬間、自分のやった事に気付いて呆然としてみせた。
「…しまった。電車賃が」

(残金は640円。これでは帰れないという事になる)
《一駅分歩けばよいという話になりそうですが。それに貴方の場合は『泉光高校前駅』から更に3駅先ですから、どの道最初から足りていないですね》
(そんな細かい事を気にする奴じゃないんだろう。その方がこちらとしてもやりやすい)
《正直なところ、貴方のモチベーションの高さは想定以上です》
(だろうな。俺自身少し驚いてる…けど、面白いじゃんか。俺が盛り上げて、持ち上げるだけ持ち上げといて、最後に全部ブッ壊してやるんだぜ。今から待ち遠しいよ、その時が)
《あまり突っ走らないでくださいね。貴方には『神のご加護』が無いという事を、絶対に忘れないで》
(上等!)

それからしばらく後に読み通り時間経過が発生し、夕方になった。
5人が帰途についたのを確認すると溝口も外に出、適当に街灯のある道をぶらぶらと往復し始める。
やがて再度の時間経過、夜になって街灯の下をトボトボ歩くシーンを見せてやると、そのまま徒貝駅から電車に乗って帰宅するのだった。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/05(金) 22:54:58|
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