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有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #10 激怒

フードコートへ戻る前に時刻を確認した時から、まだ5分と経っていない。
溝口の体感としては、まだ11時前なのである。にも拘わらず、フードコートの時計は50分進んでいた。

(あの時計が狂ってる…って事じゃないよな?)
《残念ながら、ほぼ正確な時間を示しているといえます。この改変が発生したのは32秒前ですね》
(言えよ、そういう事は…!)
《必要ないと判断しました。この程度の改変は、今後も頻繁に発生すると推測されます》
(そんな雑に済ませられる話じゃねえだろ、これは。それとも何か?飛ばされたのは俺の認識の方か?)
《懸念はわかりますが、落ち着いてください。現象としては紛れもなく、50分程度の時間が消失しています》
(俺は改変の影響を受けていないんだな?だからこの状況を疑問に思うのか)
《そうです。言い換えれば貴方は、『時間経過後の認識』を受け取っていないのです》
(時間経過後の認識、ねえ。それによって世界全体としては辻褄が合ってるのか?)
《はい。この『物語』が我々における『現実の世界』を舞台にしているのは、そのためだといえます。
 改変者はこの世界全体に、強制的に『50分間の時間経過』を発生させたのです。これは改変そのものなので、私にはその間の状況を把握できていません》
(ちょっと待て。って事は、この状況は…)
《はい。私にとって最も危惧すべき事態です。幸い今回の時間経過は短時間、時間経過そのものを目的としたもので、異常は確認されていません。しかしこの手口がエスカレートすればどうなるか、お解りでしょう》
(いきなり100年単位で時間がすっ飛ばされる可能性もある、って訳か。追跡できる分、まだマシだな)

念のため、ポケットに入れていたスマホの時計を見てみると、ちょうど11時になった所だった。
溝口が身に着けていたものだから、改変の影響を受けていないのである。しかし時刻を確認するためにスマホのスリープ状態を解除したことで、自動修正により11時48分を示した。
苦々しい顔で舌打ちをすると、不意に相川が声を掛けてきた。
「どうした溝口?何かあったのか?」
「いや…別に…」
突き放すように冷たく答えたところで、溝口は認識のズレに気が付いた。この場合、問題になっているのは『財布をなくした事』なのである。時間経過の改変が生じた事について問題視する者など、自分を除いては誰一人存在しないのだ。
《演技を続ける必要がありますね》
(逃げ道を塞がれたんじゃねえかって思うよ…クソ)

「あ、牧村」
相川がそう言うのと同時に、溝口は後頭部に手刀の一撃を受けた。
「いってえなあ、何すんだよ!」
溝口は背後の牧村を振り返り、口を尖らせた。当然ながら、これは要求された演技である。
「別に。なーんかアンタ、いつもと雰囲気違ったからさ。また何かやらかしたんじゃないかと思ってね」
その牧村の台詞は、台詞だとわかっているからこそ空々しい。
傍から見れば、他人のちょっとした変化に気が付く注意深さや賢さと見えるのだろう。だが実際のところ、彼女は溝口が財布を無くしたという状況設定に対しての台詞を述べているに過ぎないのだ。

「で、その子誰?もしかして、レーティアの関係者?」
「ああ、うん。レーティアの…専属のメイド、かな」
相川と牧村のそんなやり取りを聞き流しつつ、溝口は周囲に目を走らせた。すると、向こうからレーティアと川上が歩いてくるのが見えた。

全員揃ったところで、エルシィが自己紹介をした。
「わたくし、レーティアさまのお世話を致しております、エルシィと申します。…」
やにわに騒々しくなったテーブルの片隅で、溝口は会話の中にも入らず、周囲の5人を生気の籠らない目で見ていた。

(やってらんねえなぁ…)
《これも役割です》
(わかっちゃいるが、それでもさ。一体全体、何なんだこいつら?何を人間づらしてやがるんだ?)
《少なくとも彼女たちは、自分の存在を疑問には思っていませんよ》
(そりゃ、そうだろうよ。てめえら全員『現実には存在しないキャラクターだ』なんて、俺にしかわかんねえんだもんな?)
《現実の定義にもよるでしょう。彼女たちにとっても貴方にとっても、残念ながらこれが今の現実です》
(理屈としてはわかるんだがな…納得できそうにねえわ)

「さて、それじゃあお昼にしましょ」
川上がそう言って立ち上がると、他の連中がそれに続く。
溝口はそれに合わせて台詞を言った。
「俺、席キープしとくからさぁ。相川、俺の分なんか適当に頼むわ」
「えー?適当にって、困るんだけど…」
「うどんでもラーメンでも何でもいいって。代金は後で払うから、な?」
「わかったよ。その代わり、後で文句言うなよ?」
手をひらひらさせて相川を見送ると、溝口は大きく溜息をついた。

相川が買ってきたのは、580円のかき揚げうどんだった。
「後で払うから」と胡麻化して、ひとまず食事をとる。

(考えてみりゃ、俺、腹減ってねえな…)
《朝食の後、待ち合わせの前に買い食いをしていますから。それから1時間ほどしか経っていませんし》
(そういえば、待ち合わせまでの時間は何故『時間経過』で飛ばされてないんだ?話としては無駄だろうに)
《はっきり言えば、まだ不明です。あまりに情報が少なすぎますから。ただ可能性としては、時間経過は『焦点の当たっている場面』でのみ発生するのではないかと考えられます》
(焦点の当たっている場面…)
《言い換えれば、どうでもよい状況をわざわざ時間経過で飛ばしたりはしない、のかも知れません。それなりに意味のある状況で、密度や変化を与えるために時間経過させる、というような推測です》
(焦点って、そういう意味か。要するに『物語として見せている場面』だな)
《改変にも制約があると考えていいでしょう。どんな物語でも、365日24時間を描写するようなことはありませんから》
(確かにそうだ。だがそうなると、日を跨いだ状況だと眠れない可能性があるな?)
《それは、今考えても仕方のない事ですよ》

カティルと対話しながら黙々とうどんを掻き込んだ。他の連中は何事か話をしていたようだが、溝口にとってはどうでもいい内容である。どうせ話を聞いていなくても言うべき台詞の指示は来るのだし、正直なところ、この連中とはあまり深く関わり合いになりたくなかったのである。

が、溝口がそう考えていても、周囲も同じように考えてくれている訳ではない。
「溝口お前、今日あれから変だぞ。何かあったのか?」
相川がそんな事を言ってくる。その下りはさっき牧村がやっただろ、と内心苛つきながら、溝口は指示通りに返答する。
「い、いや?別に何もねーよ?」
口籠る演技など経験がない故に、図らずも声が上擦って、見事にキョドった風になったのは上々といえた。
「確かに何か変。いつもの溝口らしくない」
睨みつけるような川上の目。テメーが俺の何を知ってやがるんだ、と言いたいのをぐっと堪える。
「何かあったんですか?」
レーティアは心配げな目で真っすぐに溝口を見つめてきた。そのあからさまな純粋さを表現した態度も癇に障る。
「…」
牧村は何もかもを見透かしたような目だ。溝口は、自分の頭にカッと血が上るのを感じた。

刹那、時間が止まっていた。

《冷静になりましょう。ここで怒っても、あなたの立場を不利にするだけです》
(わかってる!わかってんだよそんな事ぁ!!…けど、こりゃ何だ!?どいつもこいつも偽者の分際で知ったような事を…!!)
全力で吠える。吠えるつもりになっている。しかしその怒りは、力を籠める感覚も持たせてもらえない。
《わかります。わかりますから、だからこそ落ち着いてください。危険なのです》
(畜生…怒りたくても怒れねえんじゃねえか、この状態だと。クソ腹立つ…)

腹が立つと言っても、実際に腹を立てている訳ではない。そもそも感情が抑制されているのだ。それがシミュレーションによるものなのか、あるいは時間が止まった状態では脳内物質も分泌されないという意味なのかもしれないが、溝口は自分の思考がカティルによってうまく制御されていると感じて、そこに納得がいかなかったのである。

《一旦立ち止まって考えるのは大事なことなのです。私たちには、それしか対処法が無いのですから》
(そうだな。ああ、そうだ。それしかねえんだもんな…)
《納得できなくても、今はこうするしかないのです。『戦う』ためには、情報を集めた上で相手の出方を探らなければなりません》
(戦う?戦うつもりがあるのか、これと。お前は傍観者だと思ってたが)
意外な言葉に、溝口は気を持ち直した。
《勿論、貴方がそう望むのであれば、です。私はそのための手助けができるでしょう。ですが忘れないで下さい、選び、行動するのは貴方自身です。見切り発車で勝ち目のない戦いを挑むというのであれば、私は止めざるを得ませんよ》
(つまりお前は、やりようによっては勝ち目があると推測してるんだな。ああ、それが知れて良かった。俺は戦うよ)
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/02(火) 22:01:12|
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