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『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』 #5 心情

「なあ相川。さっきの話なんだけどな?」
放課後の教室で、思い出したように溝口が言う。
「レーティアさんって、一人で来たのか?」
「なんで?」
「なんでって…。一人で、その…船?操縦して来たのかって事だよ。俺そういうのよくわかんねーんだけど、普通こう…何人かいるもんじゃね?
 特にホラ、立場が立場だし」
「ああ…そういう事か」
相川はようやく納得すると、
「確かに、もう一人いるよ」
「その人、どんなだ!?美女か!?」
食い気味に訊ねてくる溝口に呆れながら、レーティアと共に地球にやってきた彼女について、相川自身どう表現すればいいのか迷っていた。

彼女の名は、エルシィ・ローイといった。レーティア姫専属の侍女で、宇宙船の操縦から身の回りの世話まで、必要とあればなんでもこなす。
その能力とは裏腹に、彼女は子供のような外見をしている。膝まであろうかという長い栗色の髪の毛を三つ編みにし、古風なドレスを着てちょこちょこと走り回る姿は、まるでファンタジー映画に出てくる妖精のようだ。事実、彼女はまだ子供なのだが。
聞くところによれば、彼女の両親もまた王家に仕え、レーティアの教育係をしていたらしい。そのためエルシィは生まれた時からレーティアの侍女となるべく英才教育を施され、その能力は大人にも引けを取らないと、まさに国からお墨付きを得ているのだった。

その実力はともかく見た目の話というのであれば、答えは一つである。
「…小さい女の子、だなぁ…」
「小さい女の子、かぁ…」
溝口はあからさまにテンションと肩を落とした。

少し時間をつぶしてから正面玄関を出ると、下校の生徒もだいぶ減った校門の前でレーティアと川上が合流する。
昼休みに宮野の襲撃を受けたので、当面はなるべく固まって行動する事にしたのだ。
牧村は級長会議で単独行動だが、彼女については心配の必要はないだろう。
「次はないからね」
川上に睨みつけられて、溝口は愛想笑いを浮かべながら謝罪と言い訳をする。
「悪かったって。けどさぁ、あの状況で宮野に対抗するのは無理だろ!俺が何言ったって嘘にしかなんねーんだから」
「それはそうかもしれないけど…それでもさぁ…」
それ以上言い返す事もできず、川上は言葉を濁す。彼女も決して機転の利く方ではないのだ。
二人の困窮した様子に、レーティアは辛そうに言う。
「申し訳ありません…。わたくしがもっとしっかりしていれば…」
「い、いやいやいや。レーティアさんは悪くないって!悪いのは宮野…いや別に宮野が悪い奴って訳じゃないけど…。
 レーティアさんは嘘なんか何も言ってないんだし、悪いのは嘘を広めた…俺ら…?」
溝口は慌てて取り繕おうとするが、慣れない事に頭を使ったせいで話が余計にこじれてしまった。

すると、先ほどまで何かを考え込んでいた相川が、おもむろに口を開いた。
「きっと、誰も悪くないんだよな。レーティアにはレーティアの事情があるし、宮野には宮野の都合がある。
 そのどっちがいいとか悪いとか、そんな事他の誰にも決められない。川上や牧村だって、みんなそれぞれ自分が正しいと思う事をやってるんだよ。
 だから、レーティアは何も気にする必要なんかないんだ」
「カズヤ…」
「相川…。たまにはいい事言うじゃない」
感銘する女子二人。その傍ら、自分について言及してもらえなかった溝口はちょっとスネていた。

「そんじゃーなー」
青沼駅へ向かう交差点で、溝口は徒歩通学の三人と別れた。。
駅前には小さい商店街があるが、今現在営業している店舗は薬屋だけで、後は全てシャッターを下ろしている。
そこには彼の興味を引くものは何もなく、駅に着くとまっすぐホームに向かい、ベンチに腰かけてスマホを手に取った。
ホームには数人の泉高生がいた。顔見知りは何人かいるものの、話をするような相手はいない。
まとめサイトを適当に流し見しているうちに電車が来る。

自宅に着いて玄関の扉を開けると、ちょうど妹の真理が、片手にプリンを持ってリビングから出てくる所だった。
「たでぇーま」
「おかえり」
砕けた帰宅の挨拶を淡々と受け流して、妹は階段を軽やかに駆け上がり自室へと戻っていく。
入れ替わる形でリビングに入ると、専業主婦の母がソファーに寝転がり、ドラマの再放送に熱中していた。
「またそれ見てんの?好きだよな、その俳優」
呆れながら言うと、彼女は振り向きもせずに不機嫌そうな声音を返した。
「いい男ってのは、何度見てもいいモンなのよ。アンタも少しは努力して『見れる』男になりな」
「へいへい…」
溝口は辟易しつつも冷蔵庫を開けて中を覗くが、ジュースやアイスのような目ぼしいものは、これといって何も入っていない。
先ほど妹が持っていたプリンの事を思い出し、母に尋ねる。
「なあ、俺の分のプリン無いの?」
「あれ、もう無かったっけ…?ああ、そういやアタシ自分で昼に食べたんだわ」
悪びれる様子もなくあっけらかんと言うので、溝口は追及する気も失せてしまって、すごすごとリビングを出た。

階段を上がって奥の扉が彼の部屋である。
既にだいぶ陽も傾いて、西向きの窓からは夕日の赤が差し込んでいた。部屋の電気を点け、カーテンを閉める。
制服を脱ぎ捨てて部屋着に着替え、スマホを充電器に繋いでベッドの上に放り投げた。
ひとまず晩飯までは暇になる。暇つぶしになるものを部屋の中に探すが、これといって何もない。
本棚には昔集めていた漫画本が50冊程度あるが、今となっては興味を引くものではない。雑誌の類は立ち読みで済ませてしまって何も買っていない。
ゲーム機は古い型の携帯ゲーム機がひとつ、ゲームソフトはやはり古いものが3本のみ。
仕方なくテレビをつけるが、この時間はドラマの再放送とニュースしかやっていない。
あまりの退屈に大きく欠伸をした。自分がこれまで、この何もない部屋でどうやって時間を潰していたのかがわからない。
机の上には参考書が10冊ほど並んでいるが、彼は勉強をする柄ではない。いつの間に置かれたものだろうか?

ベッドの上でウトウトしていると、階下から母の声が呼ぶ。
『ごはんだよー!』
待ってましたとばかりに飛び起きて廊下に飛び出ると、同時に隣の部屋から妹が出てくる所だった。
妹はちらと兄を見やると、おもむろに何とも言えないような複雑な表情をみせて、逃げるように階段を駆け下りていった。
「ええー…」
脱力感。

食卓につくと、既に母と妹は食事をはじめていた。先ほどの妹の所作が少し気になったが、恐らくいつものようにつまらない事だろうと勝手に納得して、手を合わせる。
「いただきまーす」
そうして、後は空腹にまかせる。

「ごっそさーん」
いち早く食事を終えて部屋に戻ろうとすると、後ろから妹に呼び止められた。
「ねえ…お兄ちゃん?兄さん?どっちだったっけ、よくわかんない」
「は?何?」
振り返ると、妹はじっと俯いていた。
「なんかさ…変じゃない?変な気がする。何かおかしい。わかんないけど」
消えそうな小さな声で、けれどまくし立てるように、早口で。錯乱している事は即座に判った。
「どうした?何かあったのか?」
できるだけ優しく声をかけると、妹はきっと顔を上げた。今にも泣きだしそうな顔だった。そうして消え入りそうな声で言うのだ。
「わかんない…。何もないと思う。何もなかったと思う…。でも、何か変な気がするの。わかんない」
要領を得ない答えに、兄と母は顔を見合わせた。

妹が部屋に戻った後、食器を片付ける母に尋ねる。
「ああいうの、五月病ってのかね?」
「どうかねぇ。それよりも、何とかシンドローム…ああ、アリスシンドロームだっけ。それじゃない?
 確か、世の中がちょっと変に見えるってやつ。子供の頃はあるみたいよ、そういうの」
「へー。じゃあ放っといても大丈夫なのか?」
「うーん…。一応、気にしといてやって。アンタはお兄ちゃんなんだから」
放任主義といえば聞こえはいいが、投げっ放しなだけである。ひとまずは様子を見るしかなさそうなので、彼は部屋に戻る事にした。

自室に戻ってみると、スマホに新着メッセージの通知が来ていた。見ると、相川からである。
『次の日曜、レーティアと隣町に買い物行くんだけど、来れるか?』
「おおっ!?」
願ってもないお誘いにテンションが上がり、急いで返信する。
『行く行く絶対行く!集合場所と時間は?』
そわそわしながら待つこと5分、メッセージが届く。
『泉高前駅に10時。川上と牧村も来るってさ』
「よおおっし!!!これもう実質デートじゃね!?!?」
吼えながら、飛び上がってガッツポーズ。その途端、隣の部屋から妹の怒声が飛んだ。
『うるさい、バカ兄貴!!』

溝口家、いつもの光景である。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/09/10(月) 22:27:27|
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