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『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』 #4 無常

それから三日が過ぎた。牧村の作戦が功を奏し、レーティアを取り囲む野次馬は日に日に減っていった。
何を問いかけても当たり障りのない答えしか返ってこない上、噂の核心を突こうとすれば気まずい空気になるのだから、レーティアの過去についてはアンタッチャブルという暗黙の了解が形成されていく。それでも深く追求しようものならデリカシーのない奴と思われるし、その上レーティアの周囲は常に2-Bのツートップこと川上と牧村が固めているのだから、ひとまず状況は沈静化したものと考えてよかった。

「とりあえず、これで一安心だな」
昼休み。レーティア達三人を眺めながら、溝口が力なく言う。本当は溝口もあの三人に交じっていきたいのだが、溝口の場合は世間から存在そのものがデリカシー欠如の野次馬と思われているので、迂闊に話しかけようとすれば、事情を知らない連中にブロックされてしまうのである。
「安心といえば安心だけど、だいぶ窮屈になったよな…」
相川はため息交じりに答えた。
相川についてはレーティアと同居していることもあり警戒はされていないが、レーティアに好意を寄せる男子達からの視線が厳しい事もあり、なかなか自分からは話しかけられない状況になっていた。
「お前はいいじゃねえか。登下校は一緒だし、家でも一緒なんだろ?俺なんかあれ以来ほとんど喋れてねーんだぞ…」
溝口は不満たっぷりに口を尖らせるが、相川は意にも介しない。
「溝口は別に何も、レーティアと話す事なんて無いだろ」
その指摘は正しく、溝口は頭を抱えて悶えた。

「ねえねえ、ちょっといいかな?」
不意に女子からの呼び掛けが聞こえて、溝口は素早く顔を上げた。
「…って、宮野かよ」
見知った顔に、溝口は再び肩を落とした。
宮野優紀(みやのゆうき)、2-Cの生徒であり新聞部所属。好奇心旺盛で何にでも首を突っ込んでくる、この場合かなりの要注意人物だ。
川上と牧村を『2-Bのツートップ』と評したのも彼女であり、ゴシップ関連には定評がある。いつもポケットの中にはICレコーダーを忍ばせており、彼女がポニーテールを揺らしながら素知らぬ顔で近づいて来れば、そこで交わされた秘密の会話は全て筒抜けになっていると考えてよかった。
「レーティアさんの事か?お前にしては動くのが遅かったな」
溝口が皮肉交じりに言うと、宮野は仁王立ちで反論した。
「何言ってんの。ただ『転校生が来ましたー』なんて記事、書いても仕方ないじゃん。アタシが捕まえるのは、そこから先!
 …彼女が転入してきて、翌日には学校中に噂が広まってたよね。で、その噂の発信源は川上さんと牧村さん、それにアンタ。
 転入初日の昼休みに、アンタらが屋上で何か話し合いをしてたって情報は掴んでんのよ。怪しいに決まってるでしょ!」
一気にまくし立てられて、相川と溝口は顔を見合わせる。こういう時の宮野の嗅覚は、やはり伊達ではない。
迂闊に口を滑らせれば、瞬く間に秘密を暴かれてしまいかねない。彼女の手にかかれば、ちょっとした矛盾をレーティアに突き付けて自白を引き出すなど、造作もない事だろう。
そんな話をしている内に、レーティア達三人は教室から出て行ったようだった。

ターゲットが自分と相川に絞られたので、内心ビクつきつつ、ひとまず溝口は自分自身は無関係だと装うことにした。
「根拠もなく怪しいって言われてもなぁ?俺はただ本人にそう聞いただけだし、他の奴には尋ねられたから答えただけだぜ。
 噂を怪しいと思うんなら、俺らじゃなくて直接本人に聞いたらどうよ?」
「そうね、アタシもそう思ったのよ。だからレーティアさんに話を聞こうとしたんだけど、どういう訳かツートップに邪魔されるの!それも一度や二度じゃない、何度もよ!
 だ・か・ら!アンタらが怪しいってわかったの!グルになって噂を広げて、何かを隠してる!
 それは何!?彼女には何があるの!?吐きなさい!!」
ヒートアップした宮野の激しい剣幕に、相川と溝口のみならず、教室中が静まり返った。
これは非常にまずい状況だった。否応なくクラス中の視線が注がれる中、この疑惑を晴らさなければならない。
だから溝口は、この問題を相川に丸投げすると決めた。

「…だ、そうだが。相川はどう思う?レーティアさんと一緒に暮らしてるんだから、そりゃ何か知ってるよな?」
「ええっ!?」
仲間だと思っていた溝口に見放されて、相川は素っ頓狂な声を上げた。
彼は実直で素直、かつ善良な性格である。レーティア程ではないが人に嘘をつくのが苦手であった。彼自身そのことは自覚しているから、こういう時に余計な知恵の回る溝口を頼りにしていたのだ。
だが、今回ばかりは相手が悪かった。宮野が相手となれば、溝口程度では勝負にならないのである。

「あ、あー…。何かって言われても…なぁ…」
相川は完全に狼狽していた。誰かに助けを求めようにも、レーティア達三人はどこかに行ってしまったし、溝口には裏切られている。自力でどうにかするしかないが、一体何をどう言えばいいのか?
その隙を見抜いたかのように、余裕たっぷりに宮野が言う。
「そうねぇー。世間に出回ってない情報なら、何でもいいんだけどー。
 例えば、『ラクリアって実際どこ?』とかぁ、『レーティアさんの家って何をやってるの?』とかかなぁ。
 『相川君のお父さんが現地にいるはずなのに』、その辺、すっごーく曖昧なのよねぇ。ふっしぎー」
噂に含ませた嘘をピンポイントで見抜いたかのような指摘に、相川の顔からはスッと血の気が引いていた。
この辺りの設定については全く詰めていないのだ。聞かれても当然答えようがないのに、相川がそれを知らないのは明らかにおかしいレベルの情報なのである。

それだから相川は、苦し紛れに言い訳をするしかなかった。
「お、俺、親父が今どこにいるのか知らないんだ…。親父は仕事の都合でいつも世界中を飛び回ってるし、俺も正月に一度顔を会わせたくらいで、それ以来連絡も取ってないし…」
だが、この回答はまずかった。宮野は身を乗り出し、生き生きとした顔を近づける。
「あれぇー?そうなのぉー??大変なんだぁー。
 …けど、変だよねー。仮にも女の子を一人でいきなり来させておいて、相川君には事前に一言も無かったワケー?
 知らない土地なんだしぃー、普通は出迎えとか、させるんじゃないのー?」
「で、出迎えには、妹が行ったんだよ!俺は知らなかったの!」
誰から見ても、明らかに相川は追い込まれていた。

「相川君の妹さんって、確かまだ小学五年生だったよねぇ。そんな子が一人で駅まで迎えに行ったのかな?」
「そ、そうだよ。双葉はあれで結構しっかりしてるからな!」
「ふーん…そうなんだぁ。それっていつの話なのかなぁ?」
「え…今月の3日だけど…」
「今月の3日に、どこの駅かな?」
「どこの駅って、そりゃ…」
答えようとして、相川は言葉を飲み込んだ。これは明らかに誘導尋問であり、時間と場所までこちらが指定してしまえば、嘘の証明に繋がりかねない。
その相川の躊躇を、宮野は見抜いている。ここで迷うという事そのものが、ここまでの話が全て嘘である事の証明になっていた。
だが、何故そこで嘘をつく必要があるのか?そこが最大の疑問なのである。

相川を含めた4人が何らかの事情で嘘を広めた、宮野はそこまでは見抜いていた。しかしよもやレーティアが宇宙人かもしれないなどとは、微塵も思い至らないのである。
GWに発生したUFO騒動については把握しているが、彼女自身直接見てはいない上、UFOをネタにしようにも目撃情報以上の内容にはならないので、ゴシップの裏を探るのが好きな彼女にとって、興味をひく事象ではないのだった。

ともあれ、相川が嘘をついている以上、出回っている噂の内容が信用できないのははっきりした。宮野にとってこの結果は、あくまでスタートラインに過ぎない。
目的は、レーティアの出自を明らかにする事である。それが何であるのか彼女には見当もつかないが、周囲を巻き込んでまで嘘を流布し、秘匿しなければならない内容であるのは確かなのだ。

このひとまずの結論を得て、宮野は一旦退く事にした。今の相川を追求するのは容易いが、時間的にそろそろレーティアとツートップが戻ってくる。
相川の嘘を利用してプレッシャーをかけるのは可能だろうが、川上はともかく牧村が相手となれば、得られるものは無いだろう。
宮野はわざとらしく溜息をついてみせた。
「…はぁ。どうやらこれ以上話をしても、無駄みたいね。本当の事を話せない事情があるみたいだし。
 これ以上は追求しないけど、もし何か話してもいい情報があったら、教えてね。秘密にしなきゃならないなら、アタシも記事にはしないし、協力できる事もあると思うから。じゃ!」
勿論、この台詞は嘘である。しかし相川のような単純な人間が相手なら、ある程度の効果は見込めるだろう。
相川にとっても、レーティアは他人なのである。その秘密が大きければ大きいほど、自分の内に留めておくのはつらいはずなのだ。
そこで秘密の共有をほのめかせば、ガードは緩くなる。これがゴシップ記者の常套手段である。

だが宮野は、隣に溝口がいた事を完全に忘れていた。溝口は宮野の手口についてある程度理解していたのだ。
「気をつけろよ、相川。ありゃ相当な曲者だぞ」
「お前がそれ言う?!」
相川は即座にツッコんだ。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/09/10(月) 22:26:24|
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