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『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』 #3 超常

一限目が終わると、すぐさまレーティアの周囲は大勢のクラスメイトに取り囲まれた。その煽りを食う形で相川は輪の内に取り込まれ、一方で溝口は理不尽な圧力に叩きのめされて、この輪から放り出されていた。
教室の床の冷たさを頬に味わいながら、溝口はこの世の無情を痛感し呟く。
「いくらなんでも俺の扱い悪すぎじゃね…?」
いつもの事ながら、と続けようとして、ふと些末な違和感をおぼえる。それが何なのかよくわからないまま、溝口は弾みをつけて跳ね起きると、改めて輪の中に突撃していった。今はそんな事に気を取られている状況ではないのだ。

「レーティアさんって、どこ出身!?」
植木という地味な女子が興奮気味に質問を投げかけると、レーティアは少し逡巡して答える。
「ラクリアという所です。ここからはとても遠いので、ご存じないかも知れません」
「いつ日本に来たの?」「日本語上手だよね、どこで習ったの?」
「先週です。ちょっと色々あったので、慌ただしい形になってしまいました」
「色々って?」「何があったの?」「彼氏とか?」
「すみません、それはお答えできません…」

周囲からの畳みかけるような質問攻めに、レーティアは狼狽えているようだった。そのことを察知した相川が、横から口を挟む。
「みんな待てよ。そんなに一度に質問したら、レーティア…さん、が困ってるだろ」
この言葉にクラスメイト達は一旦落ち着きを取り戻したが、しかし次の瞬間、レーティアがとんでもない事を言い出した。
「カズヤ、『さん』をつけるのはやめてって言ったでしょ?余所余所しいじゃない」
先ほどとは打って変わって砕けた話し方、ついさっき顔を合わせたとは思えない親密さなのである。
そこへようやく輪の中央まで頭を捻じ込んできた溝口が、追い打ちをかける。
「二人は、その、いつから知り合いに?もしかして既に付き合ってるとか…!」
この突っ込んだ質問に、教室中がどよめいた。
「いえ、お付き合いはまだ…。でも、今はカズヤと一緒に暮らしています」
「え、ちょ、レーティア!?」
相川の制止もむなしく、このレーティアの爆弾発言により、2-Bは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


そして昼休み。周囲からの好奇の視線を避けるため、相川たちは屋上にいた。クラスの混乱を避けるためという名目で、牧村の提案である。
「…まったく、大変な事になったわね。改めて、私は川上瑞穂。よろしく、レーティアさん」
「私は牧村紗雪。2-Bのクラス委員をやってるから、何か困ったことがあったら相談してね」
「はい。ええと、ミズホさんとサユさん、ですね。よろしくお願いします」
「レーティアさん!お、俺の事は…!?」
「ええと…アラタさん、でしたっけ?大丈夫、覚えてますよ」
ひとしきりの自己紹介を終えると、話題は相川とレーティアの関係についてシフトする。

「さて、説明してもらえるよね、相川?」
口火を切ったのは川上だった。
「その、俺もなんて説明すればいいのか…」
口籠る相川に三人の視線が集中する。耐えかねた相川がレーティアを見やると、レーティアが代わりに口を開いた。
「…ふう、仕方ないですね。実はわたくし、宇宙人なんです」
突然の告白に、三人はただただ唖然とする。

続けて相川が順を追った説明にかかる。
「GWにさ、UFO騒ぎがあっただろ?実はあの時、俺、その場にいたんだ。
 …その場っていうのは、UFOが不時着した山の中でさ。これも話すと長いんだけど…それはいいか。
 そこで俺、UFOから出てきたレーティアと出会ってさ。彼女行くところがないから、うちで引き取る事になったんだ」
これだけ聞けば、荒唐無稽な話である。しかし冗談にしても、普通ならもっと理解しやすい設定をつくるはずだ。
こんな説明を真に受けるくらいなら、まだ『遠縁の親戚』とでも説明された方がマシなのである。
「え…っと、一応確認するけど…本当の事なんだよね?」
おずおずと川上が質問をし、相川とレーティアは頷いた。牧村がそれに続く。
「レーティアさんが宇宙人だって言うのなら、なにか証拠になるものはある?例えば、体に地球人とは違うところがあるとか」
「あ、ありますよ」
レーティアはそう言うと、おもむろに自分の頭頂部を指差した。すると、手を触れてもいないのに一握りほどの髪の束が持ち上がり、ゆらゆらと動き出した。所謂アホ毛である。
「実はこの子、生きてるんです」
アホ毛がぴょこんとお辞儀をした。

三人はすっかり言葉を失っていた。そんな三人を尻目に、レーティアは自身のアホ毛について説明を続ける。
「この子、とっても頭がいいんですよ。人の言ってる事とかちゃんと理解してますし、意外に力も強いんです。
 昔、お城のバルコニーから落ちそうになった時に、この子が咄嗟に手すりを掴んで助けてくれたんですよ」
「へ、へぇ~…。すごいね…」
川上が呆然としたまま相槌を打つ。もう何をどうツッコめばいいのかわからない。
「でもこの特徴は、ラクリア人全員にあるという訳ではないんです。王家の血を引く人間だけに遺伝するものでして、この毛の強さが次の王位に影響するほど重要なものなんですよ。
 わたくしの父上、つまり現ラクリア王なんですけど、父上の毛はわたくしのよりもずっと強いんです!」
「レーティアさんはお姫様だったのかぁ~…。なるほどなぁ~…」
溝口はへらへらと笑いながら言うが、その実、頭の中には何一つ入ってきていない。
そんな二人の頼りない様子に、牧村は辛うじて正気を立て直し、相川に耳打ちする。
「ちょっとちょっと!こんな大事そうな事ペラペラ喋らせちゃって、大丈夫なの!?」
「レーティアがみんなを信用できると思ったから、話したんだろ。本人がいいなら、それでいいんじゃないか?」

牧村は大きくため息をついた。この秘密にすべき重大事に対してそんな理解でいいのか?という疑問と、その重大事を事も無げに教えられてしまった重圧に、である。


「…ともかく、この事は私達だけの秘密にして、なるべく人に話さない方がいいわね。レーティアが異星の姫だなんて知れたら、私たちの所までマスコミが押し掛けて来たり、四六時中監視されたり、下手したら世界の外交問題にまで発展しかねないもの。
 いい?わかった?」
牧村の珍しく真面目な剣幕に、川上と溝口は素早く頷いた。とはいえ当のレーティアがまるで状況を理解していない顔をしているので、改めて相川に釘を刺す。
「レーティアが相川と同居してる本当の理由はともかく、この事はもう学校中に知れ渡っていると考えていいわね。なんとかうまく誤魔化していかないと、あなた、普通に生活する事さえできなくなるわよ?」
「わ、わかってるよ…。気を付ける」
もう既に普通には暮らせてないけど、と言いたげな相川だったが、牧村の懸念するところが理解できない訳ではないから、ひとまず納得をしてみせた。
不安は残るものの、牧村はそれで一応の留飲を下げて、具体的な対策の提案に移る。

「じゃあ、こうしましょう。レーティアは海外赴任をしている相川のお父さんの知り合いで、土地の有力者の娘さんね。国内情勢があまり良くないから急遽日本に留学する事になった、と。ラクリアというのは街の名前にしておきましょうか。
 話が急だったから他に頼れる所がなくて、それで相川家にホームステイする事になった。これでいい?」
ここまでに出たいくつかの提案を牧村が取りまとめて、それらしい話の流れが出来上がった。しかしレーティアはこの嘘の設定に難色を示す。
「でもわたくし、嘘をつくのは好きじゃないんです。何とかできませんか?」
「嘘をつきたくないっていうのは立派だけど…」
続く言葉が出ず、川上は頭を抱える。どんなに周囲が気を使っても、本人が嫌だというのではどうにもならない。
が、ここで溝口に天才的な閃きが降りてきた。
「あ、だったらさ。レーティアさんは何も言わなくていいじゃん。教室の時みたいにさ。さっき俺らに話してくれたのは、俺らになら話してもいいって思ったからでしょ?
 他の奴らに対してもそう思えるようになるまで、レーティアさん自身は何も言わなくていいんだよ。その代わり、俺らはさっきの話を噂として流す。これについて否定も肯定もしなくていいし、噂好きな奴らはそれで納得するでしょ」
「そうね。多分、それが一番だと思う。そのためにレーティアの故郷が不安定だって要素も入れたんだしね。
 溝口にしてはやるじゃない」
牧村のお墨付きが出て、溝口は調子よく胸を張る。だが実際の所、牧村は最初からそのつもりだったのだ。
「相川とレーティアも、それでいいよね?」
「…はい、わかりました。貴方がたにお任せします」
「レーティアがそれでいいなら、俺もいいよ」
二人の了解が得られたので、この話はこれで終わることになった。

とはいえ、終始レーティアの意思を優先する相川を追及する事ができず、川上は内心苛立っていたのだが。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/09/10(月) 22:25:17|
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