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『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』 #2 日常

「おはよーう!」
「ああ、おはよう…」
そう答えた相川の様子はどこか疲れているように見えたが、溝口は自分の席に腰を下ろしながら、矢継ぎ早に話題を繰り出した。
「なあなあ、お前知ってるか?GW中のUFO騒ぎ!もうそこいらの合成映像なんか目じゃねーって!俺、あんなハッキリと自分の目でUFO見るなんて思ってなかったぜ!」
「あ、ああ…俺も見たよ、それ」
「だよなー!けどあのUFO、本当のところ何だったんだろうな?ニュースでも流れてたけど、あれ以降何の音沙汰もねーんだもんな。やっぱドローン?それとも米軍の実験機とか?」
「こんな所で米軍が出てくる訳ないだろ…。まあ、やっぱり本物の宇宙人…とかじゃないか?」
「本物の宇宙人~!?お前も冗談言うようになったもんだなぁ!!」
溝口は腹を抱えて大袈裟に笑ってみせる。それに対して相川は苦笑いを返すのみだった。
「まあ、それは別にいいか。ところでよう…」
これ以上この話を続けても、進展はないだろう。溝口が話を切り替えようとした所で、教室に川上瑞穂(かわかみみずほ)が入ってくる。

「おはよー…あ、二人とも、あれ見た?」
「おう川上、UFOだろ?見た見た!さっきその話してたとこ」
溝口がそう返すと、川上は小さくクスリと笑う。肩まである青みがかった髪がさらりと揺れた。
「男の子ってああいうの好きだよね。けど流石にこないだのは、私も驚いたかな。あんなの全部インチキだって思ってたし」
「やっぱ自分の目で見ると違うよな!…って、相川もなんか言えよ。こいつ今日、なーんかテンション低いんだよなぁ」
「いや別に、そんな事はないけど…」
相川はやはり苦笑いをしたまま、曖昧な答えを返してくる。彼をよく知る二人の目には、その不調は明らかだった。

川上瑞穂は相川一哉の幼馴染である。家が隣同士で幼稚園の頃からずっと一緒、本人達の反対意見はともかく、傍目には熟年夫婦の様相を呈していた。
相川が平均よりやや低い身長と幼い顔立ちのために少年らしく見えるのに対し、川上は146㎝という身長の低さと凹凸の少ない体形のため、輪をかけて幼く見える。そのためか川上には若干気の強い所があったが、基本的には優しく分け隔てのない性格で成績も優秀、かわいらしく整った顔立ちも相まって男女問わず人気のある存在なのだった。

その彼女の親友が牧村紗雪(まきむらさゆ)、2年B組の学級委員である。
「瑞穂ー、ちょっといい?」
「あ、うん」
牧村からの呼びかけに、川上はそれ以上の追及をやめて、ぱっと身を翻して離れていく。話をする機会はいくらでもあるのだ。
そんな二人に目を向けながら、溝口はため息交じりにぼやく。
「川上に牧村なー。まったく、たまらんコンビだぜ…」
牧村もやはりクラスでは人気のある存在である。二つ結びの髪型にアンダーフレームの眼鏡と若干地味目ながら顔立ちそのものは美人といってよく、そのうえ凹凸のはっきりした見事なプロポーションを持ち、学級委員という立場の割に融通の利く温和な性格。川上が半ばマスコット的人気を持つのに対し、牧村に対してはあまり公にはならないものの、多くの男子生徒が率直な好意を抱いていた。
「流石に2-Bの、いや泉光高校のツートップだよな。あの二人がいるだけで、パッと教室が華やかになるぜ…」
溝口が二人にうっとりとした視線を向ける一方、相川は上の空といった様子で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
そんな相川の世俗離れしたような態度について、溝口は相川の精神的未熟と認識している。つまり相川という少年はよく言えば純粋、悪く言えば子供なのである。誰にでも優しくて下心のない態度は女子から人気があるようだが、しかし色恋に対する認識が見られないというのは、好意を持ってくれる女性に対して失礼ではないか?
…という考え方は溝口個人の見解である。

しばらくして始業のチャイムが鳴る。だがGW明けの教室には先のUFOに関する様々の憶測が飛び交っており、喧騒はやまない。


教室前方の扉が勢いよく開いて、担任の小諸千華(こもろちか)、29歳独身――が騒々しい教室に入ってくる。教壇に立って一瞥するが、クラスの大半が彼女に気付いていないのを確認すると、右手に携えた名簿で教卓を二度、強く叩いてみせた。
それでようやく担任の存在に気付いた数人の生徒が慌てて自分の席に戻り、その動きを見て残りの者も話を切り上げる。
小諸教諭は美人ではあるが、艶のある黒いショートヘアと切れ上がった鋭い目が示す通り、若干スパルタ的な教育方針をもっていた。ラフにマニッシュスタイルを着こなし、妙齢の女性らしからぬ横柄な言葉遣いが威圧感と親しみやすさを同時に感じさせる。
生徒達の中では、小諸教諭はレディース暴走族の総長だったらしいとか、チンピラっぽい男数人に頭を下げさせているのを見たとか、そんな噂がまことしやかに語られていた。

そういう担任を持てば、生徒達にはそれなりの緊張感と迅速性が備わる。あっという間に教室が静かになったので、すかさず牧村が号令をかけた。
「起立、礼。…着席」
がたがたと鳴る椅子の音が一段落するのを待って、小諸教諭がようやく口を開く。
「はい皆さんおはようございます、と。連休明けって事でまだ気分のダラけている奴もいるが、今月末は中間テストだ。成績の悪い奴はどうなるか、わかってるよな?気を引き締めて勉学に励むように!
 …とまあ、堅苦しい話はここまでだ。今日は転校生を紹介しまーす」
その途端、教室中がざわつく。溝口は後席の相川へと期待に満ちた顔を向けた。
「聞いたか、こんな中途半端な時期に転校生だってよ。一体どんな奴だろーな?カワイイ子だったらいいけどな!!」
「あ、ああ…」
相変わらずの相川の微妙な反応に、溝口は首を傾げる。興味がないという感じではなく、むしろその逆、何か気掛かりがあるように見える。
小諸教諭が二度大きく手を叩き沈黙を促して、未だ開けっ放しになっていた扉の方に声を掛けた。
「さ、入ってきていいぞ!」

刹那の静寂、生徒達はみな息を呑む。全員の視線がそこに注がれる中、入ってきたのは美しい金髪をたなびかせた美少女である。
明らかに日本人離れしている風貌、そして一挙手一投足から滲み出る気品。それはまるで、お伽噺の中のお姫様だった。
彼女は教壇の中央に立つと、一度深く頭を下げた。そしてまるで小鳥の囀りのような声で、自己紹介をした。

「皆様初めまして。わたくし、レーティア・サヴェン・ウナハ、と申します。お気軽にレーティア、とお呼びください」

認識と理解のための一瞬の間。次の瞬間堰を切ったように、教室中から歓声と質問が飛んだ。
「マジか!」「ヤバくない!?」「超美人じゃん!」「芸能人とか?」「どこの国の人!?」
「うるせー!!!!」
一際大きな声が轟いて、教室は水を打ったように静けさを取り戻す。その怒声の主であり、仁王立ちで腕組みをした小諸教諭は、ギロリと生徒達を一瞥、威圧した。しかし時既に遅し。
「あのー、ちょっと静かにして貰えませんかね?」
顔を出した2-Aの担任に、小諸教諭は平謝りに謝るのだった。


体裁を整えるように、小諸教諭はひとつ小さく咳ばらいをした。
「まったく…気持ちはわかるが少しは気を遣え。変なクラスだと思われるだろ」
生徒達の無言のツッコミは届かない。しかも当の彼女は先の騒ぎにも気圧された様子もなくニコニコと笑っているので、小諸教諭は深く溜息をついた。このクラスの連中と同じく、この転校生もまたかなりの曲者だと理解したのである。
「…まあいい。それで、君の席だが…ああ、ちょうど相川の隣が空いているな。相川、レーティアの世話をしてやれ。いいな?」
「は、はい…」
生徒達の視線を一身に受けて、相川は引き攣った苦笑いをみせた。
そんな状況を理解しているのかいないのか、弾けるような笑顔のレーティアは足取りも軽やかに、指示された席へ向かっていった。

着席したレーティアは嬉しそうに、相川に話し掛ける。
「良かった、カズヤの隣で。これからよろしくお願いしますね?」
「レーティア、なんで…」
しどろもどろになって答える相川を横目に、溝口が声を掛ける。
「レーティアさん、ってーの?俺、溝口新。アラタって呼んでくれな!」
「あ、はい。アラタさん、ですね。よろしくお願いします」
レーティアの丁寧な返答に、溝口は感涙した。これまでに会ったどんな女性とも違う、偏見のない優しい態度に感動したのである。
が、それはそれとして、先の会話の中に、彼には看過できない情報があった。
「ところでさあ、レーティアさんは相川と…」「そこ!無駄話は後にしろ!」
言いかけた所で、その言葉は小諸教諭の張り上げた声に中断させられてしまった。じきに一限目開始のチャイムが鳴る時間である。

その後ろで、レーティアは自分の机を相川の机に隣接させていた。
「教科書がまだ無いので、お願いします」
「あ、ああ…。しょうがないな…」
そんな二人の妙に親密なやり取りを聞かされては、溝口が心穏やかでいられるはずもない。

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  1. 2018/09/10(月) 22:24:06|
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