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小説 『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』

#001 事情
#002 日常
#003 超常
#004 無常
#005 心情
#006 私情
#007 覚醒させるもの
#008 カティル
#009 指示
#010 激怒
#011 『戦闘開始』
#012 家族について・1
#013 ジョギング
#014 いつも通り
#015 客観性
#016 キレる
#017 代償
#018 宮野
#019 過去
#020 知る権利
#021 用
#022 疑念
#023 図書室で
#024 ノート
#025 プライド
#026 階段
#027 一言の意味
#028 借り


当初プランが完全にガタガタです
需要?知るかバカ
エンディングの可能性が現在3つあり、そのうちグッドエンドは0です
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/12(水) 21:10:25|
  2. 小説目次
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #28 借り

牧村は先の発言の直後、慌てて周囲を見回した。つまり先程の言葉は、口を滑らせたのだろう。
普段はクラス委員を務めてしっかり者で通っている牧村が、溝口と二人という状況でうっかり口を滑らせるほど気を抜いているのだ。もとい、気を許していると言うべきか。
溝口はザワつく気持ちを抑えつつ、呆れた風を装った。
「誰もいねーよ、まったく」
「…そうみたい。あー、焦ったー」
再度のオーバーリアクション。その砕けた話し方さえ、他人から見ればイメージが変わるにちがいない。それが良い方向にせよ悪い方向にせよ、牧村というキャラクターの本質がこれである事については、疑問を挟む余地はなさそうだった。

図書室を出た頃にはまだ残っている生徒がそれなりにいた筈だったが、それから一体何分が経過したのか、玄関を出ても他の生徒の姿は見当たらなかった。
振り返って正面玄関上に取り付けられているアナログ時計を見ると、18時30分を過ぎていた。保健室にいた時点で時間経過が発生していたのだろう。
「何、どうかした?」
牧村はそう言うと、溝口の視線を追って校舎を見上げる。
「いや、今何時かと思って」
溝口が率直に答えると、牧村は「ふーん」と言った後、
「溝口ってさー、家帰ったら何してんの?」
と訊いてきた。
「え、何急に」
聞き返すと、
「アンタって、授業終わったらすぐ帰るじゃん?この時間には家帰って、部屋にいる訳じゃん?」
と言う。そう言われればその通りなので、溝口は頷く。
「まあ、大体そうだわな。それで何してるかってか」
「そ」

答えようとして、溝口は言葉に詰まる。以前であればソシャゲで暇潰しだと言えたのだろうが、今となっては昔の話である。一方この状況になってからはまだ日が浅い上に、このところはテスト勉強しかしていない。そんな答えでは、牧村は到底納得しないだろう。
そうして少し考えた結果、漠然と出た答えはこんなものだった。
「…何だろうな。見もしねえテレビつけて、読みもしねえ雑誌広げて、なんとなくボンヤリしてっかなぁ」
この言葉に他意はない。ゲームに興味がなくなった今、目的意識がなくなれば自分がどうするか、という仮定である。
だが、牧村にとっては違う意味に聞こえたようだった。
「それってさ、やっぱ…私のせい?」
明らかに落ち込んだ牧村の声音に、溝口はその意図が掴めないまま取り繕おうとするが、口を開く直前にふと気付いた。
牧村が聞きたかったのは、『溝口新というキャラクター』が牧村を庇うために新聞部を辞めて、以後何をやっていたか?という事なのだ。
であれば、ここで出すべきはいい加減な慰めの言葉ではない。キャラクターとしての演技である。
「…お前のせいだなんて、一度も思った事はねえよ。俺は俺のやるべきだと思った事をやっただけで、ケジメをつけるために退部した。暇にはなっちまったけど、後悔なんか全然ねーから」
きっぱりと言い切ると、牧村は少し遠慮がちに微笑んでみせた。
「そっか」
「そうだ」
溝口は再度、強めの口調で断定した。牧村の弱みを握り、一方的に恩を着せた結果がこの関係性だなどとは、思いたくなかった。

「なあ。俺さあ、お前にいくら借りてたっけ?」
尋ねると、牧村は少し逡巡した後、指折り数えながら答えた。
「いくらって…日曜に五千円でしょ。その後で二百円カンパしたのはノーカンとして、先月五百円立て替えたよね。その前にも千円貸してなかったっけ。
 …あ、そういえば去年の暮れに三千円貸してたじゃん!すっかり忘れてた」
牧村は一人で何事か納得している。溝口にしてみれば、キャラクター性のために身に覚えのない借金が倍ほどに膨らんでいたのを知り、身がすくむ思いである。苦笑しつつ、
「じゃあ、全部で九千五百円か」
と纏めると、牧村は呆れ顔で付け加えた。
「何言ってんの。『絶対、倍にして返す!』って、アンタが言ったんじゃん。私、ずっと待ってるんですけど?」
無論、溝口にはそんな事を言った記憶はない。キャラクターとしての言葉なのかもしれないが、真偽を知る必要はなかった。
「…マジで?」
「マジマジ。大マジ」
牧村はそう言うと、無邪気にケラケラと笑う。互いに貸し借りがあって、それで対等。それでよいのだ。

「ほぼ二万円かよ…悪い、もうちょい待っててくれ」
多少は申し訳のない気分で手を合わせると、牧村は全く気にも留めずにあっけらかんと言う。
「別にいつでもいいけどね。バイトとかやんないの?」
「バイトなー。つってもウチの近所だと、どこも募集してねーしな」
これは本当の事である。世界が改変される以前、溝口はアルバイトを探した事もあった。だが鉄道沿線や昭和台の付近に高校生を受け入れてくれる募集先はなかったのだ。
「幹線国道沿いまで出れば、飲食で何かしらあるらしいとは聞いてるんだけどな。問題は距離で、自転車で片道30分はかかる」
溜息交じりに言うと、牧村は不思議そうな顔をした。
「片道30分?大した距離じゃないじゃん。私の職場なんて東京なんですけど」
「お前なあ…自分の仕事と比べるなよ。こっちは学校帰りに時給で働こうってんだぞ。往復1時間かかったらその分全ロスだよ」
「それはそうかもだけど、収入ゼロよりマシじゃない?」
圧倒的な正論に、溝口は返す言葉もない。言われてみればその通りで、牧村からすればまさに自分自身がそういう生活をしているのだ。
「いくつかある条件を全部満たすような仕事なんて、そうそう無いでしょ。たまたまそういうのに巡り合えたらラッキーだけど、巡り合えないからってボーッと待ってても仕方ないじゃん?妥協する所は妥協して、とりあえず何かしらやってみないと。人生損しちゃうよ」
「まあ…それはそうだな」
溝口はその牧村の現実的な考え方に感心し、同意をする。

少しすると、牧村が何かを思い出したように言った。
「そうだ、誰かが言ってるの聞いたんだけど、学校前駅の所の喫茶店でバイト募集してるらしいよ。そこなら帰り道だし、いいんじゃない?」
「あのなあ…」
そこは宮野の実家だ、と言おうとして、やめる。牧村がその事を知らないのであれば、ここでわざわざ指摘する事ではないのだろう。
「…学校に近すぎても、何かと面倒だろ。大体あそこ、バイト募集するほど客入ってないんじゃないか?」
「あー、確かにそうかも」
それで納得してくれたので、この話はこれで終いということになった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/12(水) 21:08:49|
  2. 小説
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すこしの抵抗

このところラブコメめいたものを書いている反動で、主人公が血みどろになりながら辛うじて立ってるような話が書きたくて仕方ない。
というか今書いてるのもそんな感じになるはずだったんだけど、この主人公、死にかけるどころか目に見えるケガをした時点で詰みかねない状況に置かれているので、ヤバイ状況を安易に持ってこれないつらさがあるのだ。
しかもまだ序盤も序盤、状況がどんどんグチャグチャになっていくのはこれからって所だし…。正直色々飛ばしすぎたのは今更ながら痛感しているのだが、けどこのくらい先が読めない状況の方が俺的には面白いんだよね。

だってほら、上がったら後は落ちるだけじゃん?

テーマ:今日のつぶやき。 - ジャンル:日記

  1. 2018/12/11(火) 22:18:01|
  2. 日記のような戯言
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #27 一言の意味

中腰のまま保健室の戸を開けると、照明は点いていたが中には誰もいなかった。その理由について考えるのはもはや無駄なのだろう。
薬品棚を見ていくと、すぐに目当ての湿布薬が見つかった。絆創膏に消毒液など、使用頻度の高いものほどわかりやすい場所に置いてあるだろうという推測が的中した形だ。
箱から一枚取り出すと、溝口はブレザーを脱ぎ、3つ並んでいるベッドのひとつに俯せた。シャツの背中を捲り上げ、ズキズキと痛む部分に手の甲を当ててみると、わずかに熱を持っている。

《軽い打撲ですね》
(見てもいないのに、何故そう言える?)
《貴方の感じている痛覚、そして認識していない微細な情報からの診断結果です》
(認識の集合体というくせに、本人が認識してない所まで解るのかよ)
《正確には、認識する必要がないから認識していないのです。例えば、草原に暮らしている人々の視力は2.0を超えますね。しかし実際的な視力としては、2.0のままなのです。見えているものは同じなのですが、その情報を処理する能力に差がある。より遠くの獲物、敵を発見するために、認識を深化、注意を研ぎ澄ませている結果がその視力なのです》
(センサーは同じでも、識別能力に差があるって事か)

程度の軽い打撲であれば、治癒にはそう時間もかからないだろう。ひとまず安心しつつ、後ろ手に湿布を持ち患部に当てる。が、位置合わせがどうもうまくいかず、皺が寄った状態で患部の少し上に貼り付いてしまった。
気にはなるが、わざわざ剥がして貼り直すとしても、うまくいく保証はない。かといってこのままでは若干気持ちの悪い思いをするだろう。
悩むほどの問題ではないのだが、横になっているとなんだかすっかり気が抜けてしまって、考えるのが億劫になってくる。先ほどまでの緊張から解放されたという安堵感に、ついつい欠伸が出た。

と、保健室の戸をノックする音がした。次いで戸が開くと、牧村が入ってきた。見れば、両手に鞄を二つ持っている。そうして保健室内を一瞥すると、溝口に向かって尋ねた。
「先生いなかった?」
「いない。なんか用事か?」
答えると、牧村は白けたような目で溝口を睨んだ。
「アンタにでしょ。ほらカバン、持ってきたから」
言いながらつかつかと近付いてくると、隣のベッドに腰を下ろした。そうして溝口の背中に目をやり、
「ホントに怪我してたんだ。にしても雑、もうちょっと丁寧に貼れない?ズレてるし」
そうぼやくと、おもむろに湿布を剥がしていく。一瞬背筋に触れた指の柔らかい感覚に、溝口は小さく体を震わせた。それを見て牧村はケラケラと笑う。
「アハハッ、今ビクンってなったでしょ!そこ触られるの気持ちよかった?」
傍から見れば他愛のない悪ふざけなのだろうか?溝口は、白里の登場以来妙に親密さを高めてきた牧村に、大いに戸惑っていた。
「なんでもいいから、ちゃんと貼ってくれよ」
平静を装うためにそう言いはするが、心臓は明らかに高鳴っている。同い年の異性に剥き出しの背中を一方的に嬲られるなど、17歳の初心な少年からすれば性行為にも等しい。欲を言えばもっと触ってほしいのだが、そんな事を考えていられるような状況ではないはずなのだ。次の接触に耐えられるよう、ぐっと奥歯を噛む。

そんな溝口の努力に勘付いたか、牧村は悪戯っぽく笑うと、溝口の背筋にそっと人差し指を這わせる。溝口は歯を食いしばり押し寄せる快感を堪えつつ深呼吸で脈を整えようとするが、下半身は再びすっかり硬くなってしまっていた。
「あのなあ…!」
このままではまずいと、少し怒気を含んだ声で制止を試みようとした途端、背中にビシッと冷たいものが貼り付いた。
「――っ!!」
「はい、終わり」
牧村はあっさりとした口調で言い放つ。先程までの艶っぽさが嘘のような豹変ぶりに、溝口の下半身も急速に熱を失っていった。

体を起こし服装を直しながら、溝口は牧村に話し掛ける。
「まあ、とりあえずサンキューな。他の奴らは?」
「もう帰った。多分ね。白里さんは顔真っ赤にして走ってったけど」
牧村は答えながら、ぶらぶらと保健室の中を見回している。普段そう来る所ではないから、物珍しいのかも知れなかった。
白里が走り去ったと聞いて、溝口はなんとも言えない虚無感に溜息をつく。
「…まあ、無事だったみたいで何よりだ。下手したら怪我じゃ済まんとこだった」
「ホント、よくやるよね。アンタも」
「何がだよ…」
そのように呆れ声で言われると、今は悪い意味にしか聞こえないのが男のサガである。渋い顔をしていると、牧村は振り返り、どこか寂しそうな笑顔を見せて言った。
「アンタの、そういうとこ」
それが一体何を意図した言葉なのか、溝口にはわからない。仮に何か含みがあったとしても、その事情はあくまで『キャラクターとしての溝口新』に向けられたものでしかないのだろう。

「ね。送ってってよ」
牧村のその唐突な言葉に、溝口は自分の耳と頭を疑った。
「送るって…俺?」
「他に誰がいんのよ。ほら、外もう暗いじゃん?私はアンタのせいで帰るのが遅れたんだから、そのくらいしなさいよ」
若干不機嫌そうに言う牧村に年相応の子供っぽさを感じつつ、溝口は窓から見える空が確かにもうすっかり暗くなっているのを確認して、重い腰を上げる。どのみちここで時間を潰していても仕方ないのだ。
「しゃあねえな…行くか」
「そうそう。人間素直が一番」
連れ立って保健室を出る。

下足箱で靴を履き替えながら、溝口は無駄話を振る。無理にでも喋っていないと気まずくなるような気がしたからだ。
「で、本は返せたのか?」
「なんとかギリッギリ。滑り込みセーフ」
牧村の声音は明るく、冗談めかしてすらいる。これは完全に友人、それもかなり親しい関係における話し方である。だが、そうなった理由を尋ねるのはタブーなのだろう。原因があるとすれば、それは溝口の過去の言動にあるのは間違いないからだ。
「…どんな本借りてたんだ?お前、普段そんなに本読んでたっけ?」
とぼけた台詞。これは距離感の再確認である。そっちはともかくこっちは知らないぞ、というアピールなのだ。
すると牧村は、思いの外あっけらかんと答えた。
「あー、私、学校では読まないしね。時間あるときに図書室寄って、適当に暇潰せそうなの借りてんの。でもほら、撮影の合間合間ってなかなかまとまった時間取れなくてさ…全然読んでないのに、返却期限になってるのね」
知らない情報である。溝口が『撮影』について尋ねようとすると、時間が停止した。

(撮影…知っておかないとまずい事か?)
《はい。貴方と牧村さんの関係において、根幹にあるものです。簡単に言えば、牧村さんは学校に内緒でモデルの仕事をしています。この事を知っているのは川上さんと貴方だけで、貴方は去年、牧村さんに対する疑惑を晴らすために新聞に嘘の記事を書き、それが原因で退部したという事になっています》
(…新聞部設定にも関わってる話か。待てよ、て事は宮野の設定が出てきた時点で判ってたのか?)
《はい。ですが、その時点では知らせるべきではないと判断しました》
(なんでだ?別に知っておいて悪い事でもないだろうに)
《牧村さんとの関係性がネガティブだったからです。これまでの牧村さんは、借りを作ったという一点で逆恨みに近い感情を貴方に抱いていました。しかし今日、その印象が書き換えられた事で――》
(そこだ。何故こんな事になってる?正直さっぱりわからん)
《覚えていますか?貴方が白里さんを紹介した後に付け加えた、『どうする?』という言葉です。貴方が無意識にこの一言を付け加えたために、貴方は『興味本位で物事に首を突っ込む無作法者』から、『自分にとって興味を持てない相手に対しても優しさを向けられる人格者』へと変化したのです。その影響が人間関係を更新しました》
(…いや、意味がわからん。たった一言だぞ)
《その一言に重大な意味があった、という事です。ともかくも、あの瞬間から貴方がこの物語にとって中心的人物へと変容したという事だけは、把握しておいてください》

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/10(月) 21:52:38|
  2. 小説
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #26 階段

その後はひとまず、滞りなく会話が進行していった。
「実は私、今日は図書室でテスト勉強するつもりだったんです。でも、知らない人と一緒だと思うと、つい…」
白里がそう告白すると、川上は納得したように言う。
「わかる。同じことしてると、猶更疎外感感じちゃうよね」
「そう?私はあんまり気にならないけど」
ひたすら同情的な川上に対し、牧村は白里とは距離を取っている様子が見える。
すると、レーティアは何か良い事を思いついたという風に、嬉しそうに言う。
「だったら、今日から一緒にテスト勉強しませんか?私達、もうお友達ですよね」
「友達…」
白里が面食らった表情を見せると、レーティアは尚も嬉しそうな顔で答えた。
「はい、お友達です!…お嫌ですか?」
「あ、いえ、嫌とかそういう事ではなくて…私、皆さんにご迷惑かけてますし…」
引っ込み思案をやる白里に、牧村がややぶっきらぼうに言葉を投げかける。
「いいじゃん、友達なんてお互い迷惑かけるもんでしょ。それに白里さんだって、『知らない人』の前で泣くより、友達の前で泣いたって方が楽でしょ?」
「牧村さん…ありがとうございます」
ここまで来れば、放っておいても話はまとまっていくようだった。

「じゃ、アドレス交換しようよ」
川上の提案に、各々がスマホを手に取った。いつの間にかレーティアも自分のスマホを持っていたようだ。
この状況で溝口だけ断るという訳にもいかないので、仕方なくポケットに手を入れた瞬間。
メッセージの着信通知が来た。嫌な予感である。このタイミング、恐らく宮野にちがいない。であれば、牧村に気取られるのだけはマズい。
背筋を伸ばすフリをして後方に仰け反りつつ、ロックを外して素早く確認する。案の定、宮野からのメッセージである。

『委員長会議はテスト明けの月曜日だって』

(だろうな)と内心呆れつつ、通知を消して姿勢を戻した。恐らく、そう不自然な動きではなかっただろう。
しかし、このタイミングでこうなる以上、次に起こる事は目に見えていた。どういう訳か、先程から急に距離感を詰めてきた牧村が、やけに馴れ馴れしく訊ねてくる。
「何何?誰から?」
「誰からって…母ちゃんからだよ。帰りに洗剤買って来いってさ」
適当な言葉で誤魔化すと、牧村は「ふうん」とだけ言って、興味をなくしたようだった。

その後アドレスを交換したところで、時間経過により時刻は18時前になっていた。結局ノートは1ページ半ほどしか写せていない。
外もだいぶ暗くなってきていたので、今日のところはこれで解散、という事になった。
連れ立って図書室を出、階段を降りていく。その間も溝口は一歩引いて後方から状況を見ていたのだが、白里が時折ちらちらと何かを伺うような視線を向けてくる。その意図するところは判るだけに、溝口は憔悴していた。

(別に、好意を向けられるのが嫌って訳じゃねえんだよ…ただ)
《ただ、あまりにも理想と違いすぎる?》
(そう。理想っても、もっとこう…憎みようがある状況になると思ってたんだよ。わかるだろ?)
《わかるつもりです。このままだと懐柔されてしまいそうなのでしょう?》
(そこまで楽観的でもねえよ。面倒くさそうな状況なのは変わらんし…)
《しかし、状況を見届けたくなっている》
(まあ…そういう事だよな。自分が当事者でさえなけりゃあな)

もやもやしていると、いつの間にか隣に来ていた白里が話し掛けてきた。
「あの…何か、悩み事ですか?」
そう言われるという事は、余程難しい顔をしていたのだろうか?溝口は苦笑いをしながら取り繕う。
「いや、悩みって程でもねぇんだ。ノート写しながら解らなかった所を、ちょっと色々反芻してただけでさ」
「そうなんですか。でも溝口さんって、前回けっこう上位の方に入ったって聞きました」
「ヤマを張ったのがたまたま当たっただけで、普段は真ん中ちょい上くらいだって…」
溝口はここで少しだけサバを読んだ。本当は中の下が関の山なのだが、それでは落差があまりに大きすぎるからだ。
どのみち過去の成績は書き換えられてしまっているし、ともかくも今は、白里を納得させる事ができている。
「じゃあ、次も維持できるように頑張らないとですね」
無邪気にそんな事を言われると、溝口としては眩暈のする気分である。

そうしていると唐突にレーティアが声を上げた。
「あ…!私、教室にお弁当箱忘れてきちゃいました…」
「それは…エルシィに叱られるなぁ。取りに行こうか?」
「はい…」
相川とレーティアが離れていくと、次いで牧村が絶望に満ちた言葉を吐き出した。
「げ、しまったぁ~…。そういや、私も図書室ついでに本返そうと思ってたの、すっかり忘れてた…」
「急げばまだギリギリ大丈夫なんじゃない?それとも明日にする?」
川上が言うと、牧村は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「そういう訳にもいかないのよ…次返却遅れたらブラックリストって言われてんの。ちょっと行ってくる!」
言うが早いか、牧村はもと来た道を全速力で引き返していった。
残された川上は、
「あの子、案外ルーズなとこあるんだよね…」
と、呆れたように溜息をついた。

そんなこんなで気が付くと、一歩後ろを歩いていたはずの溝口は白里と並んで川上の前を歩いていた。
当然、溝口はこれに違和感を覚える。

(なんでまた急にバタバタし始めた?焦点は?)
《まだ続いています。何かあると思った方が良さそうですね》
(どうも嫌な予感が…)

その時だった。隣を歩いていた白里の体が大きくバランスを崩して傾いた。踊り場からの階段を踏み外したのだ。
「きゃ…!」
瞬間、時間が停止する。

(クソ、やっぱりこうなるのか!)
《階下までは14段、これは大変危険な状態といえます。どうしますか?》
(放っておける訳ねえだろ!これで怪我ならともかく死にでもされたら、今後平気で人死にが出るようになる!)
《そうですね、その通りです。しかしこれは難しい状況ですよ?》
(これ、助けようとすると一緒に落ちるパターンだよな…。となれば、無事には済まんか)
《良くて打ち身、しかし死亡も充分あり得るケースです。まして二人分の体重を支えるとなると…絶望的ですね》
(漫画じゃよくある状況には違いねえけどさ…問題は俺がどうやって無傷で切り抜けるかだぜ。この際パターンは無視だ)
《それなら、現実的な方法は一つしかないでしょう》

時間が動き出した瞬間、溝口は右手から鞄を放し、振り上げつつ白里の左手首を下から掴む。と同時に自ら左後方に倒れ込み、自重で一気に白里を踊り場側へと引き寄せた。
後頭部を打たないよう首を内側へ引き込みつつ、左腕で白里の頭部をしっかりと胸部へ抱え込む。背中を丸めて着地することで、尻から背中へと衝撃を分散させる。その間わずかに1秒未満、限られた時間で体をどう動かすべきか、綿密に組み立てた結果の形である。考えうる限り、最善の動きであった。

二人分の重量を受けたため腰を想定以上に強打したものの、それ以外については問題ないようだった。白里の頭を胸元に引き寄せたことで衝撃から保護し、この体勢になった時発生する可能性の高い偶発的キスも抑え込んだ。成果としては上々だが、あまり見栄えのする方法ではないというのが唯一の欠点だろう。
ホッとしつつ横を見ると、そこには慌てて屈み込んだ川上のスカートの中が丸見えになっていた。
「だ、大丈夫?!」
「大丈夫大丈夫、問題ない!」
溝口は慌てて顔を反対側に向ける。と、胸元から白里のくぐもった声。
「あの…苦しいです…」
「あ、すまん」
咄嗟に手に力が入ってしまっていたようだった。すぐさま両手を放すが、白里は体を動かそうとしない。あるいは一時的なショックで動転しているのかも知れなかったが、それよりも今は、自分の上に乗った白里の体重と柔らかさが気になってきた。

男性というものは、自らに生命の危険が迫ると子孫を残そうという本能が働くものらしい。ただでさえ急激な興奮状態にあった溝口の下半身は、瞬く間に熱を帯びてきた。
「ええと…その…溝口さん?お、お腹に何か、硬いものが…」
言わんとする白里の両肩を素早く掴んで体から引き離し、腰を屈めたまま起き上がると、
「どうも腰をやっちまったらしい!保健室言ってくる!」
と捨て台詞のように言い残し、階段を転がるように駆け下りたのだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/12/10(月) 19:11:05|
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