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有象無象ディメンション

Photofighter type-B Burst ignition

小説 『あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない』

#001 事情
#002 日常
#003 超常
#004 無常
#005 心情
#006 私情
#007 覚醒させるもの
#008 カティル
#009 指示
#010 激怒
#011 『戦闘開始』
#012 家族について・1
#013 ジョギング
#014 いつも通り
#015 客観性
#016 キレる
#017 代償
#018 宮野
#019 過去
#020 知る権利
#021 用
#022 疑念
#023 図書室で
#024 ノート
#025 プライド
#026 階段
#027 一言の意味
#028 借り
#029 お茶
#030 苦手意識
#031 刷り込み
#032 変移
#033 同情
#034 提案
#035 牧村と白里
#036 学食のうどん
#037 勝手な話
#038 相川について
#039 厄介なタイミング
#040 算段
#041 緩み
#042 大通りへ向かう
#043 カラオケ戦略
#044 思考過剰
#045 そっくりさん
#046 小さな仕掛け・1
#047 小さな仕掛け・2
#048 知性の所在
#049 相談・1
#050 種明かし
#051 相談・2
#052 責任
#053 一区切り
#054 ノルマ
#055 新聞部部室
#056 油断
#057 面接
#058 アルバイト初日
#059 状況報告
#060 横槍
#061 地獄
#062 笑う
#063 決定権


当初プランが完全にガタガタです。これ本当にどうなるんですかね…結構シャレにならんズレが生じてます
需要?知るかバカ、俺が面白けりゃそれでいいんですよマジで
エンディングのアイデアが現在複数ありますが、グッドエンドは依然として0のままです
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/05/19(日) 21:01:13|
  2. 小説目次
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #63 決定権

翌日は朝から焦点が発生した。当面の役割として、溝口は相川に、前日の顛末について問い質さなければならなかった。
「それで、オカ研については結局どこまでわかったんだ?」
その質問に、相川は首をすくめた。
「あちこち聞き込みをしてみたんだけど、有力な情報は出てこなかった。西島って人は、友達とか作らないタイプらしいんだ」
「本当に孤立してたのか。それで?」
「それでって…それだけだよ。人柄については不明、オカ研についての手がかりも無し。担任はプライバシー保護がどうとかで、何も教えてくれなかった」
相川は肩を落とし、大きく溜息をつく。
「それじゃあ八方塞がりだな。ま、今となってはその必要も無いか…」
溝口が言うと、相川は飛び上がらんばかりの勢いで左右に激しく首を振った。
「とんでもない、逆だって!この話のせいで宮野さんがますますやる気になっちゃってんだ。『何がなんでもオカ研の秘密を暴くんだ』って息巻いててさ…」
「その流れで勧誘されたって事か」
「そうなんだよ。こっちも本当の理由を話せないだろ?だから、興味があって調べてるって答えたら、それなら新聞部として行動した方がいいんじゃないかって話になってさ」
「あー…それについては、俺も見落としてた。こうなったら今更だが、あいつに関わるべきじゃなかったな」
思わず実感が籠る。

「でも、宮野さんもお一人だったじゃないですか。一人で新聞を作るのは、大変だと思います」
横で別の話をしていたレーティアが、こちらの会話に口を挟んできた。それを切っ掛けに、川上と牧村も参加してくる。
「確かに大変だろうとは思うけど…」
歯切れの悪い川上に、牧村が宥めるように言う。
「要点は同じでしょ?私達はレーティアを保護できればいいんだし、むしろ宮野さんの興味がオカ研に向いてる以上、オカ研に入りたいだなんて言えないわよ」
「余計に怪しまれるだけだったろうな」
溝口は頷き、理解を示す。

「けど、新聞部に入って本当に大丈夫なのか?」
相川は昨夜納得したはずの疑問を改めて持ち出してきた。だが、その話を蒸し返すといつまでも進まない。
溝口は素早く口を挟む。
「大丈夫かどうかは、お前ら次第だろ。あんまネガティブに考えるなよ」
すると、川上が口を尖らせた。
「随分と他人事みたいに言うのね。協力してくれない訳?」
自然と溜息が出そうになる。だが、ここでそのような態度を取れば、印象が悪くなるだろう。ぐっと堪えて、大きく息をついた。
「必要なら手は貸すけど、新聞部には入らんよ。こっちはこっちで予定が狂っちまったからな」
「予定って?」
「ファンクラブの件、お前らが新聞部に入るのなら、必要がなくなったって事だよ。その点では好都合と言えるんだけどな」
この説明に、相川と川上は理解できないといった風に顔を見合わせた。溝口は呆れつつ、言葉を継ぐ。
「あのなあ。新聞部に入るって事は、発信する情報を選ぶ立場になるって事だぞ。こっちで撹乱する必要がなくなるんだよ」
「いくら宮野さんでも、新聞部の内輪ネタを記事にする訳にはいかないだろうしね」
直後に牧村が補足して、それで二人は納得できたようだった。

相川は身を乗り出すと、意を決したように言う。
「じゃあ、俺らは新聞部に入る。それでいいんだよな?」
溝口は四人の顔を見回し、異論の出ないのを確認して頷いた。
「それでいいよ」
後はお前ら次第だが、と言おうとしてやめる。最終決定権を預けられた形で気に入らないが、皮肉を言っても仕方がない。
それよりも相川は、何故こうも自己責任から目を背けるのだろうか?溝口には、改変者のやろうとしている事がまるで理解できないでいた。

(相川は本当に主人公なのか?)
《状況証拠だけを見れば、そのはずです。これといった主義主張のない、優しさだけが取り柄の平凡なキャラクターですから、どうしても受け身になるようですが》
(だから活躍をしなくていい、って話でもないだろ)
《それはそうです。ですが、貴方が彼の仕事を横取りしているというのもありますから》
(白里の件は反省してるっての。だから距離を置こうとしてるんだがな)
《確かに、あの時の対応は不味かったですね。あの件があったために、当面の役割分担が決定してしまったのだと考えられます》
(どんな風にだ?)
《結論を言えば、今後、相川さんの成長が描かれるだろうという事です。逆に言えば、それまでは相川さんが自発的に行動を起こす事はないはずです》
(何だそりゃ…)

溝口は呆れたが、カティルの推測に対して否定を下すだけの根拠はない。となれば、その成長は一体いつ、どのような状況で発生するのだろうか?
相川のやるべき仕事を溝口が横取りしているという形で今があるというのなら、その成長において溝口の存在は邪魔になるのではないか?
嫌な予感が溝口の背筋を伝う。けれども今の所、対策の立てようはない。

そうこうしている内に、時間経過が発生する。改変は考える時間さえ与えず、事態をどんどんと先へ進めていく…。

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  1. 2019/05/19(日) 21:00:29|
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #62 笑う

溝口はひどく混乱したが、それよりも今は攣った左足の激痛が勝る。のたうち回りながらもどうにか攣りを治めた頃には、一緒になって頭の中も幾分スッキリしたし、長谷川と小寺は溝口を放置して次の仕事に移っていた。

(…それで、あっちはどういう状況だ?なんでそんな事になった?)
《要点だけ言いますが、『何故オカ研を調べているのか』という話になった訳です。そしてこの問いに対し、相川さん達は本当の理由を話せませんから、『興味本位で調べていた』という言い訳をせざるを得なくなりました》
(それで目的が同じだから勧誘されたのか?牧村は何やってんだよオイ、趣旨わかってんのかアイツ)
《賛成派ですね。彼女は幽霊を恐れていますから》
(それならまだ新聞部の方がマシだって訳か…。クソ、改変者を甘く見すぎた!)
《どうしますか?一応まだ止める事は可能ですが》
(…直接現場に向かうにせよ、スマホからメッセージを送るにせよ、ここで俺が動くのは不自然だろう。それにこの状況、有効な手段が取れるとも思えない。
 厄介な事になったのは確かだが、あいつらが新聞部の所属になったところで、宮野の手下になる訳じゃないしな。むしろ宮野からすれば、わざわざ俺を経由する必要がなくなったとも考えられる。一概に悪い事ばかりじゃない)

どうにかポジティブに捉えてはみたものの、仕込んできた作戦が全て台無しになった事には変わりない。レーティアが直接宮野と交流を持つ事になれば、こちらの囲いの内側に入り込まれてしまうし、ファンクラブの方こそ外様になってしまうから、情報発信源としてはもはや存在意義は無いだろう。
反面、カティルにも言った通り、宮野が溝口に絡んでくる理由はなくなった。相川グループ側として宮野と会話をする機会は増えるだろうが、直接一対一で接触をする可能性は殆ど消えた筈である。
敗北には違いないが、命拾いをした。そのように自分に言い聞かせ、溝口はゆっくりと体を起こし、数回屈伸をする。
左足に鈍い痛みはあるが、ひとまずは大丈夫だろう。ともかくも今は、仕事に集中するべきである。

移動しようと思った矢先に、長谷川と小寺が棚を乗せた台車を運んできた。
「あ、もう大丈夫ですか?あまり無理しない方がいいですよ」
長谷川は気遣うように言うが、先程溝口の醜態を楽しんでいたのを知っていれば、それは嫌味にしか聞こえない。
だから、溝口は苦笑しつつも、これ以上馬鹿にされてたまるか、と虚勢を張るしかないのである。
「全然大丈夫です。ちゃんと伸ばしたんで」
「そう?じゃあ、こっちはお願いします」
待ってましたとばかりに、長谷川は台車から手を放して去っていく。実際やるべき仕事があるからだろうが、その切り替えの早さもまた、溝口にとってはうまく利用されたという感触になる。
「あんま気にしない方がいいよ、あの人ああいう人だから」
小寺は感情の籠らない声でそう言うが、それはフォローでも何でもなく、あくまで彼自身の見解なのかもしれなかった。

そして10分後、また時間経過。時刻は21時近くになっていた。
照明が半分落ちた店内を呆然と見回して、溝口は大きく溜息をつく。予定の仕事は完了しているようだった。

タイムカードを押し、通用口から外に出る。普段より30分遅いだけだが、実際には1時間程度しか仕事をしていないから、時間感覚がおかしな感じになっていた。
自転車の鍵を外したところで、相川からメッセージが来た。

『バイト終わったか?』
「今終わった」と返すと、すぐに返信が来る。
『ちょっと大変な事になった。新聞部に勧誘された』
当然ながら、そんな事を報告されても溝口には何も返す言葉がない。「そうか、」と書き込んで消し、逡巡。
大変な事になった、という文言が引っ掛かる。少なくとも相川は、これが厄介な話だと理解はしている。その上で考えてみると、もしかするとこの状況は、改変者にとってもある意味で想定外なのかも知れない。
宮野に対応できる溝口が不在だったからこそ生じた、論理の玉突き事故。思い上がりかもしれないが、この選択は相川達を確実に不自由にするはずなのだ。

「それでどう答えたんだ?他の連中は?」
こうなれば、このまま進ませるのが最善かもしれない。探るような言葉を入れると、ややあって返信。
『割れてる。でもレーティアが乗り気なんだ。宮野ともっと仲良くなりたいらしい』
『川上は反対してるんだけど、牧村は賛成派。内部に入り込んだ方がいいって言ってる』
溝口はフンと鼻を鳴らした。やはり相川には明確な自分の意見が備わっていない。そこが当面の主題になるのであれば、多少の困難には対応してもらう必要がある。
「それなら俺も賛成に一票だ。想定外だが、後々を考えれば悪くない」
『いいのか?』
「前にも言ったが、レーティアの件はいずれバレる。その時に宮野がこっち側なら、助かるだろ」
『なるほど…わかった。明日きちんと話をしてみる』
「そうしてくれ」

改めて、20分が経過していた。『まだ帰れないの?』という妹からのメッセージに返信し、溝口は自転車を漕ぎ出す。
焦点は消えていたが、明日の朝になればまた現れるだろう。何もかもが想定外の方向へズレていってしまったが、それでも必ず明日という日は来る。今日がそうであったように、明日もまた出たとこ勝負になるのだろう。
そうして日々を乗り越えていった先に、一体何があるのか。変わっていく世界、命の危険に晒される事もあるだろう。
知らず知らず、溝口は笑っていた。思い通りにいかない展開、しかしそれなりに道理を受け入れてくれるこの世界の在り様が、溝口にとって段々と心地の良いものになりつつあった。

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  1. 2019/05/15(水) 22:00:24|
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #61 地獄

ギリギリ、タイムカードを押すのには間に合ったが、直後に時間経過が来た。それは15分程度の短いものではあったが、その間に長谷川が来て何らかの説明をしたらしい。
「という訳で、今日はバタバタすると思いますが、間違いのないよう落ち着いて、丁寧にお願いします」
そう言って事務室から出ていく長谷川に「もう一度説明をお願いします」などと、言える筈もない。

(説明を頼む)
《要約すれば、これから大量の搬入があって、この品物の陳列と並行して売り場の一部転換をするようです》
(あー、やった事無い仕事だわ…)
《作業内容についてはこちらでサポートできますが、状況が厄介ですね。向こうの流れを見る限り、今日はかなり頻繁に、小規模の時間経過が発生しそうです》
(…って事は、ピンチだな?)
《なかなか大変な状況ですね。時間経過を挟んで作業が勝手に進んで行きますから、その都度進捗を把握しつつ、次に取り掛かっている作業に急がなければならないでしょう》
(了解。取り残されてサボってると思われるのは嫌だな?)

溝口は休憩室に急ぎ、今日は少し緊張した面持ちの小寺に会釈をして、ロッカーに飛びつく。鞄を放り込み、大慌てでズボンを履き替えた途端、時間経過。

《20分経過です。搬入は既に始まっており、荷下ろし作業の真っ最中です》
(俺も仕事をしてる事になってるか?)
《はい。しかし先程突然休憩室に入っていったという認識ですね。念のため、言い訳を用意しておいた方がいいでしょう》
(えぇ…。じゃあどうすっかな…なんか指切れてたって事にしとくか…)
《商品を血で汚さないように、ですね》

ロッカーの上に常備してある薬箱から消毒液のヨードチンキと絆創膏を取り出し、ガーゼ面に消毒液を微量垂らして小指の付け根に巻き付ける。これで不自然にはならないし、作業の邪魔にもならない。
そうして小走りに搬入口へ向かうと、小寺は溝口をちらりと見はしたものの自身の作業の手を止めなかったので、溝口の工作は若干取り越し苦労になった。
しかしそんな事を気にする暇もなく、『作業の続き』に取り掛かる。カゴ台車から段ボール箱を下ろし、梱包を解いて中身と数量を確認。そのチェックシートも、途中まで溝口自身の字で記入がされている。それはまるで、経過した時間の分だけ記憶がすっぽり抜け落ちているかのようだった。
そうして7個目の箱を開けた瞬間、また時間経過。

《5分経過です》
(その位、飛ばさずに我慢しろってんだ…!)
思わず口に出しそうになった悪態も、時間停止のお陰で飲み込む余裕がある。手元の箱は別のものに変わっていて、何をどこまで勘定したものかまるでわからない。
(…止むを得ん、刷り込みを頼む)
《わかりました。仮にこれ以後全ての状況を展開したとしても、ギリギリのところで容量オーバーにはならない筈です》
(残り2時間か。作業がそれで片付けばな)
そして、存在しない時間と認識のフラッシュバック。向こうの状況を気にしている余裕など、無い。

18時半、客足が遠のく時間帯に入って、売り場の転換をはじめる。引っ込める商品をコンテナに移し、新しい商品を陳列。ものによってはコーナー自体がズレるので、棚一つ空にして右から左、というような事をする。
渡された図を見ると、この日は主に中央付近の棚について2つを完全に空け、扇風機やすだれなどの夏物を並べるようである。モノとしては軽く嵩張るものばかりで時間はかからないが、現状そこには防草シートや鳥避けネットが配置しており、これらは重量がある上に別の棚を空けてそちらに移動しなければならず、大仕事になる。

小寺は図を指し示して説明をする。
「ここからここのホースリールを台車に乗せて外に出す。で、棚板も真ん中1枚外して空いた所にネットのロールを引っ掛けて、その上に1.5mまでの防草シートとマルチ。2m以上の奴は現状の棚ごと行きます」
「棚ごとっスか…」
怖気づく溝口に、小寺は淡々と言う。
「ふたりいればそのまま台車に乗っけられるんで。そんな重くないです、50キロくらいなんで」
「はァ」
「持つ時は下持たないと抜けるんで」
小寺は不愛想ではあるが、必要な注意事項はとりあえず伝えてくる辺り、彼なりに気を遣っているのである。

そうして段取り通り、まずはホースリールを台車に乗せていると、カティルが時間を止めて警告を発した。
《間もなく時間経過が発生しそうです。まずいタイミングです》
(何だ?どういう事だ?)
《内容次第ですが、ネットの運搬、または棚の移動タイミングに飛ばされるかもしれません。飛ばされる瞬間の体勢、位置取りによっては大怪我をする危険性があります》
(おいおいおいおいマジかよ!どうすりゃいいんだよオイ!)
《思い切ってこの場を一旦離れるか、急に衝撃がかかっても耐えきれる体勢を取るか、ですね》
(離れた方が無難か?時間的猶予は?)
《恐らくですが、もって数秒です。全速力で走れば外には出られますが、何事かと思われるでしょうね》
(実質選択肢ゼロじゃねえか!対衝撃姿勢ってのは?)
《この場合なら、足を肩幅に広げ腰を落として、重いものを持ち上げるような体勢でしょうか。腹筋と指先に力を入れておくべきですね》
(その姿勢で時間経過を待つのか?)
《そうなります》
(クソかよ!)

果たして4秒後、溝口の体は悲鳴を上げた。およそ10分の時間経過があって、溝口と小寺は今まさに鳥避けネットのロールを棚に掛けようとする所だった。それ自体は大して重いものでもなかったが、半ば半信半疑でいた所に急に実体が重量を伴って出現したことで、体幹のバランスが崩れるのである。つまりは手の内に急に重量が加わったために、溝口はつんのめって前へ倒れそうになり、慌てて踏み止まったために、左足が攣ったのだった。
「ちょ、ヤバ…ああああ!」
「え、何?どしたの?」
「足が攣っぎぃぃ!」
「とりあえずこのまま引っ掛けちゃおう、今降ろすと絡まるからこれ」
小寺はまるで動じる事もなく言うが、今まさに絶体絶命の溝口からすれば、そもそも何をどこにどうやって引っ掛けるのかも知らないのだから、パニックなのである。

(やり方!やり方!)
《何も、停止している状況で焦らなくてもいいでしょう。まずは落ち着いて対処しましょう》
(実害食ってんのは俺だぞ!?)

ひとまずは刷り込み記憶の通りにネットを設置すると、溝口は人目も憚らずその場にひっくり返って足を伸ばしにかかった。そしてふと視界の端に長谷川の姿が見えると、彼女は溝口を心配するでもなくケラケラ笑っているとわかって、怒りと虚しさが同時に渦巻くのを感じるのである。

(なんだこの状況。何なんだマジで)
《貴方には残念な事ですが、現実です》
(地獄じゃなくてか?)
《それと、もうひとつ残念なニュースです。相川さん達が新聞部に入部するようです》
(地獄じゃねえか!)

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  1. 2019/05/11(土) 22:37:55|
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「あの日見た君の横顔を、絶対に忘れない」 #60 横槍


翌週月曜日の昼休み、溝口が昼食を終えて相川と無駄話をしていると、焦点が来た。
周囲を警戒しつつも平静を装っていると、おもむろに教室に宮野が入ってくるのが見えた。明らかに良くない状況だが、ここで逃げを打つ訳にはいかない。溝口は相川に注意を促す。
「…おい、宮野が来たぞ」
「ああ、うん。何だろ」
今の相川は、宮野に対し以前ほどは警戒心を持っていないように見える。先の仕掛けがうまくいった事になっているので、そのように改変されたのだろうか?
宮野は脇目も振らずに近付いてくると、溝口を一瞥し、相川に対して声を掛けた。
「風の噂に聞いたんだけど、相川君、オカ研を探してるんだって?」
そうきたか、と溝口は声に出さず呟いた。なるほど、ここで宮野を使うのは、事態を動かすには良い手かもしれない。
「そうだけど…」
相川がキレのない返事をするので、代わって溝口が切り返す。
「一応聞くが、何の用だ?便乗してオカ研を記事にしようってのか?」
「そりゃそうでしょ」
宮野は悪びれもせずに答え、それを横目に見ながら相川は溝口に耳打ちをする。
「なあ、これどう思う?」
「…まあ、いいんじゃねえかな」
溝口はため息交じりに呟いた。

「それで、どの程度まで掴んでるの?情報」
宮野はわざとらしくICレコーダーを見せびらかせながら、相川に詰め寄る。当の相川は溝口に視線で助けを求めるが、溝口は半笑いで突き放した。
「話してやれよ、減るもんじゃなし」
それで相川も覚悟を決めたようで、ためらいがちに口を開く。その内容が先週時点でのものと寸分たがわず同じである事は、カティル経由で確認が取れているとはいえ、溝口にとってもそれなりに重要なのだった。

話を聞き終えると、宮野は「うーん」と小さく呻きながら、顎に手を当てて何事かを思案する仕草をみせる。
「…どう思う?」
相川はもう吹っ切れたのか、宮野に正面から意見を求めていく。それを受けて、宮野は眉間に皺を寄せながら答えた。
「不登校になってるって所と、噂の関連性よね。西島先輩にとって、そういう怪しげな噂をされるのが嫌だったから不登校になったのか、それとも何か噂になるような切欠があったのか。いずれにせよ霊がどうこうなんてのは眉唾なんだけど、そういう噂が説得力を持つような人だって事でしょ?」
ああ、と溝口は嘆息する。宮野は本人が持つ能力は別として、性質的には「こちら側」に近いのだ。そういうキャラクターだから、レーティアが自ら宇宙人だと告白しても、信じようとはしない。ある意味で正しいバランス感覚を維持している。

「だとすれば、人間関係を中心に、人物像について調べるのが良さそうだな。写真なんかもあれば助かる」
溝口がそう補足すると、宮野は大きく頷いた。
「そうそう。ただ問題は、こういう噂が独り歩きするって程度にはクラスで孤立してたんじゃないか、って懸念よね。相談できる相手がいれば不登校にもならなかったハズだし…」
「少なくとも3年にはなれてるんだから、春まではきちんと学校に来てた訳だろ。こういうのは、去年の担任やらに聞いてみた方がいいんじゃないか?修学旅行で同じグループだった人とか、いるはずだろ」
「そう、それよ溝口!まずは客観的な人物像を掴んで、その上で何があったのかを調べましょ」
取材の方向性が段々と明確になっていく。溝口にとっても話しやすいのは、やはりどこか波長が重なっているからなのだろうか?

《ですが、方向性がおかしくなっているのでは?》
(まあな。そもそもコイツ、一体何がしたいんだ?というか、改変者は一体何をさせたいんだ?)
《そんな事を尋ねられても答えようがありません。少なくとも宮野さんは、オカルトという切り口に対しては興味を示してはいないようです》
(じゃあ、それこそ何のための横槍だよ?)
《彼女の性質からして、得体の知れない噂に対する真実の追求でしょう。といっても、その真実はあくまで彼女にとってのみ都合の良い真実でしょうが…》

状況は見えないが、少なくとも溝口にとってはさほど問題にならない。動くとすれば放課後だろうが、溝口にはアルバイトという予定があり、それを盾に関与を外れてしまえばよい。場面移動があるなら時間経過も同時に生じるはずで、どの道ついていくのは困難なのである。
「まあ何だ、頑張れよ相川」
溝口がそう言って肩を叩くと、相川は助けを求めるような顔を向けてくる。警戒心はともかく、苦手な相手である事には変わりないのだろう。
「あら、アンタは協力しない訳?」
宮野は幾分拍子抜けしたように言う。ここで心を読まれるのも面倒なので、溝口は即座に答える。
「先週バイト始めたもんでさ、腰が落ち着くまで当面は無理だな」
すると宮野は、突然苦々しい顔で溝口を睨みつけた。
「アンタねぇ…」
あからさまに不機嫌な宮野の様子に溝口はたじろいだが、次の瞬間、宮野は諦めた顔で大きく溜息をついた。
「ハァ…まあいいわ。それじゃ相川君、今日の放課後から取材開始だからね。そこのバカみたいに逃げたら、ただじゃおかないから」
そう言うと、宮野はすたすたと教室を出て行った。

「なあ溝口…宮野さんって、どういう人なんだ…?」
すっかり腰の引けた相川の質問に、溝口は事も無げに答える。
「新聞部の部長だろ」

すぐに放課後がやって来る。溝口は時計を確認すると、大急ぎでバイト先へ向かった。どうせ今日は仕事にならないだろうが…。

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  1. 2019/05/08(水) 21:53:41|
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徒手空拳で世の中エグろうと試みる人、俺。
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